[増加する不法無線] 

平成2年(1990年)10月のJARL理事会の席上、島さんは「不法電波の増加を見過ごすことはできない」と、JARLに不法無線対策委員会の設置を提案する。それに対して「多忙であり対応できない」「効果があがらないのではないか」「身の危険性があるのでは」などの意見が出た。島さんは「すべて関西で対応する」と提案し、その月の30日付けで発足し、島さんが委員長に選出される。

不法電波が増加してきたのには背景があった。自動車電話や携帯電話が登場してきていたが、購入料金も通話料も高かった。その一方で、パーソナル無線機や特定小電力無線機が登場し、一般の人達にとって無線機が身近なものになっていったことである。さらに、1970代に米国で普及し、わが国で大量産が始まったCB(シチズン・バンド)無線機がひそかに国内で使われたこともあった。

昭和63年(1988年)、データ通信の必要性を前にエレクトロニクス業界は、データを移動中でも送受信できる新しい無線の開発を目指し「テレターミナル推進協議会」を設けた。周波数は800MHzであり、パーソナル無線や携帯電話に近い帯域で実験が始まった。しかし、これまで利用されていない帯域だっただけに不法電波が飛び交っていた。

パーソナル無線機を改造した大出力機や許可帯域外使用によるもの。また、日本では許可されていないCB無線機や不法コードレス電話等によるものであった。同推進協議会に出向していた島さんは「逆妨害」を計画した。予定している8チャンネル全てに女性の声による英語のアナウンスをオーディオテープにより24時間流し続けた。不法交信をしようとする本人は英語の淡々としたアナウンスに驚いたが、相手がテープの録音であり文句も言えず退却していき、計画は成功した。アナウンスは実は島さんのお嬢さんが担当した。

一方、ハムの増加にともない、アマチュア無線機が量産され価格が下がっていった。この結果、アマチュア無線機を使ってのアマチュアバンドでの不法無線局も増加。しかも、その使用者は一般人ではなくダンプカーや運送トラックの運転手に多かった。島さんによると「多くのハムが妨害を受けているとの話しがあるものの、その実態はわからなかった。そこで、まず実情をつかむことから始めた」という。

島さんは不法無線局対策委員長としてほぼ毎日JARL NEWSで協力を訴えた。

[邪魔すると恫喝される] 

島さんは、JARL NEWS誌上で「不法無線局対策委員会」名で不法無線局による妨害の実態報告を呼びかける。会員からの意見や、全国各新聞紙誌上に掲載された不法無線局の取締の状況も紹介した。ほぼ、毎号、1ページ記事を書きつづけるなど精力的な活動を続けている。その結果、徐々に不法無線局の実像が浮かび上がってきた。

平成4年(1929年)2月号のJARL NEWSには、全国会員からの報告がまとめられ掲載された。報告された1,012件の都道府県別の数字は別表の通りであり、近畿エリアが416件ともっとも多かった。これについて島さんは「新関西国際空港に代表されるように、大阪ベイエリアの開発プロジェクトが数多く稼動中であり、これら工事に従事するダンプカー、トラックなどの多数の車両が不法無線局を開設しているのが原因」と説明している。

アマチュア無線バンドでの不法無線局は144MHz、430MHz帯が圧倒的に多く、ウィークデーは朝から夕方までFM波で交信し、CW(電信)やSSBの区分帯でも関係なしにFMによる音声交信を続ける。注意すると、逆に「誰だ邪魔するのは、家に火をつけるぞ」と恐喝されるケースもある。JARLはNEWS誌上に「委員会」の発足と委員長名のみを掲載、委員名は伏せていたが、それでもJARLが組織的に不法電波局の調査を実施し、見つけたら注意していることが知れ渡ると、不法局も仲間同士のグループを組んでのいやがらせをするようになっていった。

不法局が生まれたいきさつは、免許の不要な特定小電力トランシーバーを使用したものの、交信距離が短いため、より出力の大きなアマチュア無線機を買い求めて使い出したことにあるといわれている。その後仲間にも購入を勧めて数が増えたこともわかってきた。不法局の運転手同士は徐々にネットを組み、一定の周波数を独占使用するようになっていった。

[取締り権限のないJARL] 

免許を持ちながら交信ができないハム達は、いらいらを募らせ、JARLに不法局の取締りをすべきだという意見を寄せてくる。しかし、JARLには取締りの権限は何もない。不法局の情報を知ったら報告することと、こわごわと注意するだけしか方策がない。島さんは寄せられた情報を分析する一方、当然のことながら全国各地の電波監理局に報告した。だが、電監も人手不足であり手が回らなかった。

翌平成5年(1993年)には、不法レピーターの調査が行なわれ、1200MHz帯で101波の不法局が判明した。わが国のピーターはJARLが直轄する局と、各地のクラブ局が設置し、JARLの管轄局となる2種がある。クラブ局が設置できることが誤解され、かってに設置しても良いと考えたハムもいた。もちろん、免許を持たないトラック運転手のグループもかってにレピーターを設けたりした。しかも、JARLが開局申請していない周波数帯をねらうなど、不法局のレベルも高くなっていった。「どういうわけか不法レピーターの90%以上が関西だった」と島さんは苦笑いする。

事態を重視した郵政省は不法局の取締りを強化し、電波監視の電子化、人員増加を進めた。その財源になったのが電波法を改正して行われることになった「電波利用料」の徴収であった。同時に警察も取締りに協力、検挙に乗り出した。加えて、ただ同然に近くなった携帯電話の普及が、不法局を減少させ、現在では妨害局は極端に少なくなった。

不法電波エリア別報告数 --- 報告された不法電波のエリア別数。