[相互運用協定] 

アマチュア無線では、自国の免許があれば一定の手続きを踏むことにより他国でも運用ができる2国間の取り決めを「相互運用協定」というが、荒川さんが米国に滞在し始めたころは日本はどこの国とも協定を結んでいなかった。荒川さんが「日本が相互運用協定を結ぶことを日本の郵政省が認めることを知ったのは、米国の”ワールドラジオ”誌の1981年9月号だった」。

相互運用協定後に発行した荒川さんのカード

当時の郵政省はこの年10月の電波審議会で関係方面の意見を聞いた結果、電波法を改正することを決め、11月23日から施行されることになり、そのニュースが掲載された。荒川さんにとってこの時の思い出がある。郵政省は改正に当たって電波法施行規則、無線局根本基準を改正する必要から,公聴会を開催した。

[公聴会出席を断念] 

公聴会の開催を前にしたある日の夜中、日本のJARLから荒川さん宅に電話があった。用件は「公聴会に出席して発言してもらえないか」という内容であった。JARLは東南アジア、米国で活発な運用をし、海外の事情に詳しく、したがって相互運用協定の重要性を1番知っている荒川さんの発言に期待していた。

公聴会に出席した廣島さん(右)と荒川さん。荒川さんのシャックで。

荒川さんも「米国からわざわざ一時帰国しての発言は非常に効果がある」と感じたし「かねがね相互運用協定締結を主張していたので、出来ることなら公聴会に出たかった」と言う。しかし、仕事の関係もあり不可能なことであった。そこで、荒川さんはブラジルから日本に帰国したばかりの廣島孝之(JA1BNW、PY2ZTH)さんを推薦した。

同協定は2国間での取り決めのため、まず最初に米国との協定が結ばれて以降、協定国が増えるまでは時間がかかっている。現在(2006年3月時点)でも米国、ドイツ、カナダ、フランス、オーストラリア、韓国、フィンランド、アイルランド、ペルーの9カ国のみ。このうち、相手国の管轄部署に申請をしなくとも運用できるのは、米国、フランスの2カ国となっている。

米国との運用協定が結ばれたことを受け、荒川さん夫妻は「何人かのハムと一緒に運用協定締結後の初めての免許を米国で取得した」という。この運用協定について、荒川さんは「これまで日本人に対して好意的に運用を許してくれた国の人たちが日本で運用ができるとともに、協定がないため運用を許してくれなかった国が一刻も早く運用を認めてくれることを切望する」と、日本の雑誌に書き送っている。

[アンティークにのめり込む] 

国連クラブのマックスさんと親しくなった荒川さんは、1981年10月に誘われてニューヨーク州のロッチェスターに近いカナンディグアで開かれたAWA(ジ・アンティーク・ワイヤレス協会)のコンファレンスに参加した。「初期のラジオ、真空管、通信機などを集めて研究する組織であり、日本を含めて世界に2500名のメンバーがいる」と聞かされた荒川さんは、さっそくメンバーになる。

「オークションは延々5時間も続き、関係者を招いてのバンケットなど楽しい催しだった」と言う。参加者は少し離れたイーストフィールドにある「ラジオおよび通信博物館」を見学したが、すっかりアンティーク物の虜になった荒川さんは、その後、熱心にアンティークなラジオ、通信機、真空管、スピーカーなどを集めるようになる。この趣味については現在でも続いているため、後にまとめて紹介したい。

アンテーク博物館で見た初期の火花送信機

[JAカード整理の依頼] 

すっかり国連クラブ局にとけこんだ荒川さんに、ある日、クラブ局4U1UNのQSLマネージャーのハーマン(W2MZV)さんから、JAから届いた膨大なカードを渡され「整理してJAのアワードを申請して欲しい」と依頼を受ける。数えて見ると2104枚。「無効なカード、重複カードを除くと1712枚となった」と言う。荒川さんはバンド別、モード別に分類、JARLに申請した。

かなりのアワードが申請できるが「申請料がばかにならないので4U1UNのシャックを飾る枚数に絞り申請した」と言う。その結果、JARLからAJD(全エリア)6種、WAJA(全都道府県)の他、JCC(各市)の200、300のアワードが送られてきた。荒川さんはさらにバンド別、モード別WAJA達成のための不足府県のリストを作り、日本の無線雑誌を通してハムに交信を呼びかけている。1981年の秋から翌年にかけての出来事だった。

[野瀬堅さんに会う] 

1982年3月から4月にかけて荒川さんは日本に一時帰国。日本でも荒川さんは多忙であった。熊本に飛びハム仲間に会い、大阪ではJARL関西本部の事務所を訪ねて会食し、奈良ではNDXAの総会に出席したあとTS1(奈良大正昭和一桁の会)のミーティングに参加。さらに京都まで足を伸ばして仲間と会っている。米国へ戻る途中ハワイに立ち寄った荒川さんは野瀬堅(KH6IJ)さんに会った。ちょうど開かれていたHARS(ホノルル・アマチュア無線協会)の月例会の席にハム仲間が案内してくれた。

ハワイで対面できた野瀬さん夫妻

かねてから「お会いしたい方であったのでタイミング良くお会いできたのはうれしかった」と、当時を偲んでいる。野瀬さんは日系2世で、高名な物理学者であるとともに世界的に有名なDXerでもあった。ハワイ大学の教授を務め、日本人ハムの多くとも交信、知己も多い。アマチュア無線でも物理学の分野でもその発展貢献に対してのいくつかの受賞歴を持つ。詳しくはこの連載シリーズの「九州のハム達。井波眞さんとその歴史」で触れている。