[アンティークラジオ、ハム切手のコレクター] 

国内外のアマチュア無線の世界で活動している荒川さんは無線通信関連のコレクターとしても知られている。アンティーク(古い)ラジオ受信機、蓄音機、電話機、スピーカーなどの電気製品、そして切手の収集はいつのまにか相当の量になっている。なかでもアマチュア無線に関する切手は世界でも有数なコレクターである。

切手収集は中学時代からだった。当時、日本では切手コレクションのブームであり、荒川さんは「皆と同じように一般的な切手を集めていた」という。その後、ハムとなり海外で生活するうちに対象が自然に電気関連切手から、アマチュア無線関連の切手へと収れんしていった。

一方のラジオ受信機の収集は米国滞在中から始まった。「コレクターになろうという気はなかった。古くて珍しい物に手を出している間にいつのまにか集ってしまった」と言う。荒川さんはいう。「コレクターには知識をもって収集している人が多いが、私はただおもしろくて細々と買ってきただけ。したがって体系的、計画的、経済的な目的ではなかった」と、結果として集ったことを強調している。

英国のフェロー社製鉱石ラジオNo.177

[きっかけはフリーマーケット] 

アンティークラジオを買い求めるきっかけとなったのは米国時代に、アマチュア無線のイベントに加わるようになってからである。日本と同様に欧米でもアマチュア無線のやや大掛かりなイベントでは、ハム仲間が古い無線機、ラジオ受信機、蓄音機、スピーカー、アンプなどを並べて販売するフリーマーケットが開かれる。日本に比較すると、アンティークな製品が並べられる機会ははるかに多かった。

ニュージャージーに居を構えた荒川さんは地元のアマチュア無線クラブBARA(バーゲンカウンティ・アマチュア・ラジオ・アソシエーション)のメンバーとなるが、このBARAでもしばしばフリーマーケットを併設するイベントがあった。アマチュア無線の最大のイベントである「デイトン・ハムベンション」はもちろん、ARRLのイベントのたびにもフリーマーケットがあり、荒川さんはいつのまにかアンティークな電子機器に興味を持つようになる。

米国ナショナル社製受信機Model SW3

[AWAのメンバーに] 

当時の米国もハムの高齢化が進んでおり、荒川さんが加入したクラブのメンバーの中には米国でアマチュア無線が始まったころからのハムもいた。そのため、自分で使った古い通信機やラジオ受信機を所有している人も多く、最初のうちはそれらのアンティークな製品の説明を聞いていたが「日本にはあまりない製品のはず、それらを日本に紹介するのも課せられた役割かもしれない」と思うようになった。

1981年10月、AWA(アンティーク・ワイヤレス協会)のコンファレンスに参加した荒川さんは、そこで「全世界に2500名の会員がいると知らされ、会員になることを決めた」と言う。その後、荒川さんはオークションにも参加するようになるが「特別に高価な物を選んだわけではない。多くは1万円程度のもの。なかには10万円程度のものもあるが、それ以上はとくに狙った物しか求めなかった」と言う。

「集めたものは整理していないため、正確な点数は分らない」というが、ラジオ受信機約200台、蓄音機約10台、スピーカー、ヘッドホンそれぞれ10個程度。その他に真空管、バリコンなどの部品数100個。さらに古いカメラ、タイプライター、テスターなどの測定器もある。時代的には1920年代、1930年代の物が多く、さらに太平洋戦争の1940年代、戦後の1950年代の物もある。

[コレクション品] 

そのなかからいくつか貴重なラジオ受信機をあげると、1922年、英国フェロー・マグネト・カンパニー製のフェロクリストスーパー、1924年、米国RCA製のラジオラ・スーパー、1927年、米国ナショナル・カーボン社製のエバレディ・モデル1、1931年、米国ナショナル・カンパニー社製のプラグインコイル使用のHF受信機SW3などがある。

戦後の製品では1948年、リトル・ジュエルと名づけられた冷蔵庫のミニチュア型ラジオ、1949年、英国コッサー社製のメロディーメーカー、1953年、英国ベローインテイラックス社製のウルトラなどがある。蓄音機ではシリンダー型、ポータブル型などが集められているが、シリンダー型は後に円盤のレコード盤になる前の円筒に記録する蓄音機である。シャープに勤務していた荒川さんであるが「日本でもシャープの初期のラジオや蓄音機が見つかれば買っておいた」と言う。

早川金属研究所(現シャープ)製受信機Type 460

これらのコレクションの多くは世界各国で発行されているアンティークとかビンティージと名付けられている骨董品関連の書籍にも掲載されている。それらのガイドブックも30冊ほど所有しているが「アンティーク品を眺めているだけで楽しい」と言う。

[アンティーク熱高い欧米] 

最盛時、荒川さんは海外の4団体を含めアンティークラジオの協会やクラブなど5団体のメンバーになったが、現在はBVWS(ブリティシュ・ビンテージ・ワイヤレス・ソサイティ)とMCF(ミュージアム・オブ・コミュニケーション・ファンディーション)のともに英国の協会を残して脱退。3誌を購読していた関連雑誌も1誌に絞った。

アンティーク品についての荒川さんの感想は「欧米ではアンティーク品のコレクターが多い。したがって、フリーマーケットやオークションの開催も多い。無線通信の歴史は欧米の方が日本より古いことに加えて、日本では太平洋戦争時の空襲により多くが灰になってしまったことも原因」というものである。

日本にもAWC(アンティーク・ワイヤレス・クラブ)があり、荒川さんも一時メンバーとなったこともある。「会合は不定期であり、欧米と比べるとやはり規模が異なる」と解説する。さらに、アジアについては「自国産の製品がほとんどなく。アンティーク品は欧米製か日本製の物。コレクターもあまりいないようだ」と言う。

河内長野市の無線展でのラジオの展示