さらに、驚くべきことに、稲毛さんはさまざまなコレクター(収集家)でもある。切手はQSLカードに貼られて届くものだけでも百数十カ国のものが集まった。QSLカード以外のものも含め、郵便物は毎日届く。「地元郵便局から私書箱を設けたらとの提案かあったが、わざわざ受け取りに行く手間がかかるので丁重に断った」という。その1年365日の毎日の郵便物を消印順に平成元年から12年まで揃えている。

壁一面に貼られたアワード。

平成3年にはあまりやる人のないことを実行した。この年、郵政省(現・総務省)は「国際ボランティア貯金」を開始した。稲毛さんは、できるだけ多くの郵便局を訪ねて貯金することを計画、1年間で四国管内の389局での貯金をやり遂げている。ほとんどの郵便局は土曜、日曜は貯金業務は休みであるが、幸い稲毛さんは、春、夏、冬休みを活用できた。バイクに乗って1日に21局を回ったこともある。

「最初は5000円を貯金したこともあるが、金額は1000円になり、500円となり、日によっては100円と次第に少額となっていった」と当時を語る。当然といえば当然だろう。この他、例えば「平成11.11.11」のようなゴロの良い日付の郵便物の消印、鉄道切符も集めている。これらの切手、郵便物、貯金通帳のコピーなどは、きれいに整理され、勤務先の高松高専の文化祭や地域のイベントなどに展示され話題となっている。

このチャレンジ精神、バイタリティ、そして几帳面さが、アマチュア無線ではアワード取得に向かわせた。昭和54年(1979年)「全日本1万局よみうりアワード」を授賞、次いで58年には「全世界1万局よみうりアワード」を獲得している。「日本で5、6番目だったと思う」という。現在のアワード授賞の枚数は1000を超えている。その“アワードの帝王゛を出版社が放っておくはずはなく、昭和56年からCQ ham radioの「世界のアワード」欄を担当し、その後15年間連載を書きつづけた。単行本の発行も多く、59年には「外国アワード」平成3年には「DXハンドブック・アワード編」さらに、平成9年には「CD版アワードハンドブック」を、それぞれCQ出版社から発行している。

稲毛さんが執筆したアワードの本の内の3冊。

WAC、WACA、WAZなど有名なものは別として、世界には知られていないアワードは多い。稲毛さんは世界に5000から6000のアワードがあると推測している。稲毛さんが取得した1000枚を超えるアワードは、当然のことながらすべての掲示は不可能であり、その一部がシャックの四面上部の壁に隙間なく張られている。そのシャックで稲毛さんは日夜交信を続けている。勤務を持っていた稲毛さんの交信時間は基本的には朝1時間、夜2時間程度。取り組みは自然体である。「無理せず、ワッチを続けて呼びかける。事前に情報を集めたり、操作することなく偶然の交信を大事にしてきた」と、その秘訣を話す。記憶できないほどのアワードの数があるため、いつのまにか達成していたというケースも少なからずあるが「整理しておくことがアワード獲得の上では大切」という。

よく知られている法則に「2:8の法則」がある。アワード獲得の上でもこの法則が通用する。「2割の労力で目標交信局数の8割まで達成できるが、残りが2割近くになった後の交信が難しい」と稲毛さんは指摘する。また「目標を持ってやること。いくつかのアワードを同時並行的にねらうためには、リストを整備しておくこと。その結果として、他のアワードも達成できることになる」と強調する。多くのアワードを持つだけにその課程では印象的な出来事も、苦しかった出来事もあった。「とにかく、アフリカと話すことが難しかった。しかもゾーンがはっきりしない。同様に、ロシアやアジア地域のハムもQSLカードヘのゾーン番号記入をあまり意識しない」という。それを調べるために、詳細な世界地図と首っ引きになることが多い。「欧州のハムは80%の方がカードを送ってきてくれるが、米国は少ない。交信を楽しむのが目的であり、カードの交換が目的ではないといういかにも米国人的な考えからだろう」と分析する。