JAGというアワード獲得を目標としたハムの組織がある。ジャパン・アワード・ハンターズ・グループの略であり、この組織結成にも稲毛さんは最初から加わった。現在は会員が1000名を突破しており、アマチュア無線の組織としてはトップクラスの規模である。発足のいきさつは複雑であるが、簡単に説明する。JAGが発足したのは昭和52年(1977年)8月。それまで、同様な目的をもった組織として米国で誕生したCHC(ザ・サーティフィケート・ハンターズ・クラブ)日本支部があったが、CHCの運営方針の変更に支部は不満をもち、また、支部内部の分裂も起きたことから日本支部全員がこの年の6月に脱退。その中で危機感を抱いた6名のハムが発起人となって、香川県の琴平町で発足会を開き日本独自の組織としてJAGが創設された。稲毛さんはその一人であり、創立以来、副会長を続け、平成6年(1994年)から平成12年までの6年間は会長を務めた。

アワード受賞の盾の一部が無造作に置かれている。

稲毛さんの受け取った国内外郵便物の消印は、毎日の日付となった。

JAG会員の資格はJARL会員であること、一定の条件を満たしたアワードを30枚以上持っていることなどであり、創立後は毎年総会を開き、活発な活動を行なっている。この集まりでも稲毛さんは創立10周年、20周年の折に記念誌ともいうべき「あゆみ」を発行している。

JARLの理事、四国地方本部長として、稲毛さんは連日走り回る生活を続けている。土曜、日曜はほとんどJARLの活動でつぶれる。つい最近も、新人ハムを対象とした「ニューカマー講習会」を開催し喜ばれた。「かつてのハムは先輩の指導を受けながら受験し、資格を取り開局した。現在はそういうつながりが無い中で免許を取得している。そのため、アンテナの建て方などのハード、マナーなどのソフト面をJARLとして指導する必要がある」という。

ハム人口の減少に危機感を抱いている稲毛さんは「あらゆる機会にアマチュア無線をPRする必要がある」と強調する。毎年開催しているハムフェアなどでは、多くの子供が遊べるような催しを企画し、また、アマチュア無線に関係の無い地域のイベントにも出かけて行き、アマチュア無線のおもしろさを伝えるPR活動を続けている。「子供達にとっては、パソコンが興味の対象であり、友達との交流や伝達には携帯電話がある。アマチュア無線については、内容を知った上で興味を持たないわけではない。したがって、アマチュア無線がどんなものかをまず知ってもらうことか大事」と考えている。

ハム増加のためのもう一つの期待は、増えつづけているシルバー世代。定年退職となってもまだまだ元気な60歳代、70歳代の“老後の楽しみとしてうってつけの趣味”と指摘している。「家に居ながらにして、海外の人達と通信ができる。他の趣味と比較して、それほど出費が多くなるわけでもない」という。そのため、今、稲毛さんはシルバー世代にPRする方法を模索している。

このような、何事にも興味を持ち、積極的に取り組む稲毛さんの姿は、家族全員に感銘を与え大きな影響を及ぼした。昭和42年(1967年)、奥さんのキミ子さんがJA5CSSとなり、次いで昭和60年(1985年)には3人のお子さんがそれぞれ開局した。どれほど、子供達に影響を与え続けていたかを知ることのできるエピソードがある。子供達は中学生、高校生となると、クラブ活動などで帰宅時間は遅くなる。いつも、帰宅すると、先に帰っている稲毛さんの電信交信の音がする。ほぼ、毎日この電子音(モールス信号)を聞かされていると、実際には稲毛さんが交信していない日でも、家の中に入ると、電子音がしている錯覚に陥るようになったという。

国際ボランティア貯金のために訪問した郵便局と貯金額リスト。