[大人の課題] 

江崎さんの子供達の現状を心配する話は続く。「スポーツや音楽・芸能の分野では日本の若者の台頭と活躍は目覚しい。それは彼らが自分で道を選び、目的をもって能力を磨く努力を惜しまない結果だと思う」と指摘。逆に周囲から押しつけられた場合は「趣味にしても進路にしても自分の考えがなく、何をしたいのか何を学びたいのか明確な答えをもていない子供になる可能性が高い。現在問題となっているニートがまさにそれだろう」と心配する。

ニートとは、仕事に就きたくなく、勉強もしたくない若者のことである。さらに、江崎さんはいう。「IT(情報技術)はもちろん、猛烈な勢いであらゆる技術が進歩した今日、基本原理を理解しなくとも使いこなす"小技"があれば良い時代である。自動車のエンジンの原理を知って運転する人がどれほどいるのだろうか。携帯電話、パソコンも同様である。これでは基本技術に興味をもつことはありえない。アマチュア無線も同じ仲間になりつつある」と嘆いている。

このような現状を改善するためには「技術的なことに限らず、学校、家庭、社会のすべてが生活していく上で必要な基本的なことをしっかりと次世代に伝えるようにしなければならない。そして、それがどのような歴史的な変遷、発展をしてきたのか、それはどのような理由からかも説明して欲しい。このことが若い世代にこれから何をなすべきかを考えさせるヒントになるのではないか」と指摘する。

[江崎さんの現在のハムライフ] 

衛星交信に魅せられた江崎さんは現在でも週に3、4回は衛星からの信号をワッチし、また、交信している。周知のための活動ではアマチュア無線雑誌の「CQ ham Radio」に昭和63年(1988年)から平成3年(1991年)までの3年間、1ページのコラム「衛星通信情報」を連載したこともある。

今、これまでのアマチュア無線生活を振り返って江崎さんは「昔から言われている通り、アマチュア無線はまさに"趣味の王様"だ。ハムは年齢、職業、人種、宗教などの違いをすべて超えて対等に話しができ、相手さえ居ればいつでも世界中のハムと話せる素晴らしい趣味である。私のこれまでの人生にとって、どれほど多くの人との出会いを作ってくれたか計り知れない」とアマチュア無線が人生を“彩った。”ことを強調している。

そして、改めて衛星交信にのめり込んだことについては「HFをやらないわけではなかったが、大きなアンテナとハイパワーの力づくの世界のような気がして距離をおいてきた」と言う。その点「衛星では50W出力でも十分過ぎるし、アンテナもV・UHFなので小さくて済む。さらに、DXとのQSOもHFのようにラバースタンプ(レポート交換だけの形式)ではなく、ロング・ラグチューをやっても誰も文句を言わない」と解説してくれた。

それは、衛星交信は「常に相手局だけでなく自分の信号を聞いているため、必要ならいつでも他の局がブレークをかけられるからだ。このほか、軌道予測やドプラー補正などパソコンを駆使するなどの新技術をとり入れるおもしろさもあり、奥が深い」と指摘する。「ただ、残念なことは」と言い、AO-40が昨年5月から停止状態になっており、江崎さんは「次ぎの衛星が1日も早く上がることを待っている」日々を送っている。

江崎さん自宅に上げられているアンテナ

衛星交信に使用している自作のプリアンプ

[セカンド・キャリア] 

現在、江崎さんはアマチュア無線以外のことでも結構忙しい。福岡と東京との往復や、時には地方都市に出張することもある。社会経済生産性本部の制定している「日本経営品質賞」の仕事である。このほか、それに関連して地方の活動を支援する仕事を10年来続けている。同賞は、一言で説明すると「企業が急速に進むグローバル化に対応、景気低迷から脱皮して活性化を図ることを支援するため」のものである。企業を単に商品やサービスの品質だけでなく、経営全体の革新状況を「経営品質」として審査し、表彰するというものであり、米国の「国家品質賞」が先行モデルとなった。

江崎さんが共同執筆して発行した単行本「日本経営品質賞とは何か」

江崎さんはIBMを定年となる2年ほど前から社内業務改革に携わることになった。当時はコンピューターのダウンサイジングの影響でIBMの経営が悪化したころであり、改めて顧客・市場の変革を掌握し、経営に反映させるのが目的だった。IBMアジア・太平洋地域本部に出向し、スタッフとして圏内IBM各社の顧客価値向上の推進を支援した。

そのころ、急速に進んだビジネスのグローバル化とバブル経済の崩壊によって、日本企業も改革を迫られていた。このような企業環境の中で、社会経済生産性本部が主導して平成8年(1996年)からスタートした「日本経営品質賞」は平成16年(2004年)度までに大企業、中小企業合わせて17社が受賞している。江崎さんは当初からその推進メンバーの一人であり、現在も活躍している。

これらの受賞企業をみると、市場や環境の変化にいち早く対応し、優れた業績に結び付けていることで共通している。数年前からは地方にも活動を広げているが、江崎さんは「日本の産業活性化と新たな発展に貢献できるなら、お役に立つ間は体力相応にもうしばらく続けたい」と言う。

そして、この連載の最後に「ぜひ触れていただきたいことがあります」と、江崎さんは次のように話している。「この連載のきっかけを作っていただいた福岡市の井波眞(JA6AV)OMをはじめ、アマチュア無線を通じて私の人生をこれほど豊かにしてくださっている数多くの方々に心よりお礼を申し上げたい」と。