[MORIアンテナ発売]

昭和40年(1965年)発売されたキットは「MORIアンテナ」と名付けられ、4部材にわけて売り出された。「Xマウント=2個6600円」「ブーム対マストブラケット=4000円」「ブーム=2400円」は、耐腐食性に優れたアルミ合金の使用により大幅名軽量化に成功した。スプレッダーアームは、14MHz用(8本=16000円)21MHz用(同=9600円)の2タイプを揃えた。

森鉄工所は「MORIアンテナ」の商品紹介チラシを配布するなどのPRも行った。キットの特徴として(1)煙害・塩害に侵されにくい(2)強風に耐える機械的強度をもつ(3)軽量であり、マスト上で分解、組立、調整が簡単に出来る、ことを訴えた。また、スプレッダーアームに使用したグラスファイバーについては多くの特徴をもつことを強調した。

MORIアンテナのチラシ

このアームは、布状のガラス繊維を特殊加工してプラスチックで強化成形して作られたが、このため(1)耐食性に優れ、長寿命(2)ひび割れがない(3)乾燥した竹と同等の比重であり軽い。(4)弾性に優れ折れることがない(5)耐熱・耐薬品性に優れている(6)高周波に対して十分な絶縁性がある、などの特徴をチラシにうたっている。

井波さんは、早速このキットを使用しての試用記をまとめて発表している。それによると、2エレメントで最高5.7dBの利得がえられ、FB比(前方対後方比)は350KHz帯域内で24dBとれ、SWR(定在波比)は350KHz帯域内で1:1.5以下に収まる、との好結果のデータを記している。このキットは低い「打ち上げ角」を望むDXerに好評となった。

[MORI ROTOR]

次いで森鉄工所が手懸けたのはアンテナを回転させるローテーターだった。キュービッククワッドや八木・宇田アンテナのように指向性の強いアンテナにとって、回転機構が必要になるが、戦前、戦後の20年代、30年代には、ハム自身がそれぞれ工夫して手動の回転機構を作り上げていた。あるハムはアンテナのポールからシャンクまで縄を引き、また、あるハムはポールにギヤを取り付けて、やはりシャンクから操作できるような仕組みを作り上げた。

その後、ギヤの組み合せによる機械式のローテーターが開発され、さらに、モーターを内蔵させ、シャンクのコントローラーから制御できる商品が登場した。しかし、DXerにとっては周波数に対応したフルサイズのアンテナは魅力であり、大型アンテナを自作するハムも増え始めた。問題はこの大型アンテナを回転させるトルクの大きなローテーターが手に入りにくいことが悩みであった。

森さんはそれに挑戦した。自らの悩みでもあったからである。開発された「MORI ROTOR」MX-1000は価格12万5000円で発売された。特徴は遊星差動の減速装置を採り入れて、回転トルク1.8トン、制動(ブレーキ)トルク12トンを実現したことである。歯車のすべては機械切歯であり、焼き入れを行い歯こぼれや磨耗をなくした。いずれも同社の得意の技術でもあった。

このほか、回転部の軸受部は密閉型ベアリングを使用したため、給油の必要がなく、380度以上の回転を制御するオートストッパーを採用してケーブルの巻き込みを防いでいる。1回転時間は60Hz電源で60秒、50Hz電源で70秒。重量は13kgだった。実際に問題となるのが強風時の作動であり、アンテナの受風面積が1.5平米で風速40m/秒に耐えられる定格であった。

MORI ROTORのチラシ

[両製品からの撤退]

一般に7MHz、3エレメントのローディングタイプでは、重量は40kgとなり受風面積は1.2平米であるため、問題なく制御が可能となる。「MORI アンテナ」も「MORI ローター」も国内外から引き合いがあり、事業として順調に拡大していった。ところが、森克巳社長から「事業を止めるよう」指示が出る。このころ、森鉄工所の本業も多忙となっていた。主力製品の「タイヤ成型ドラム」が、海外のタイヤメーカーにも採用され、フル生産の状態となっていたためである。

森さんは「本業の暇な時に製造すると、社長とは約束した事業であったため、本業が忙しくなっては、やめざるをえなかった」という。それに、もともと、ハムの悩みを解消するために始めた事業であり、ほとんど利益のない事業であった。このため、森さんも社長の意向に従わざるを得なかった。

結局、この2製品を生産、販売した期間はわずかに6年程度であった。アンテナキットは国内中心に約100セット、ローターは国内外に数100台が販売された。森さんは「皆さんに喜んでいただけたので、中止は残念なことだった」といい、今でも「時折、注文があるが丁寧に生産を止めたことを説明して、お詫びしている」という。