[北海道でのJARL総会]

全国10のエリア持ちまわりで毎年開催されているJARL通常総会は、これまで北海道では4回開かれている。昭和43年(1968年)の10回総会は、札幌市で開かれ、昭和34年(1959年)から会長を務めていた梶井謙一(JA1FG)さんが退任し、村井洪(JA1AC)さんが新会長に選出された。

昭和54年(1979年)の21回総会も札幌で開かれた。それまでの総会の会場としてはもっとも広い「北海道立産業共進会場」は、過去最多の2000名の会員で埋められた。この年に開催されるWARC-79で、アマチュアバンドの拡充・現行アマチュア無線制度の維持を主張することなどが決議された。

31回の総会は登別市で平成1年(1989年)に行われた。この時、JARL会館建設も議題となったほか、同年度に打ち上げを予定している「アマチュア衛星」の成功を期すことなどが決められた。原さんが北海道本部長になってからの総会は平成12年(2000年)に函館市の函館市民会館で開催された。この頃の原さんは、定期的な食道静脈瘤の治療を受ける一方で、強まりつつあるB型肝炎の症状と戦う不安の最中だったが、幸いなことに大きな議題のない総会であった。

シャック前の原さん

[原さんの人生観]

これまでたびたび指摘してきたことであるが、原さんは「特殊学校」の教育に半生を注ぎ込み、恐らく楽な日々を送れたであろう普通学校勤務をあえて避けて、この3月に退職した。何が原さんをそうさせたのか。原さん自身明確な答えをもっていないが「強いていえば」と前置きし「子供の頃から弱い者をかばい、強い者と喧嘩していた性格ですか」という。

中学1年生の時、3年生と喧嘩しバットで殴られ、保健室に運ばれたこともあった。通常、2年上級生とはまず喧嘩しない。学生時代にはアマチュア無線に没頭しつつも、ボランティアサークルで活動した。教師になってからは、教師の組合である「職員団体」には加入しなかった。非会員は檜山支庁管内1600名の教師の中でただ1人であった。そういう生き方が「特殊学校」に向わせたのかどうか。

体の不自由な生徒にも熱心にアマチュア無線を指導した

もう一つの「肝移植」も通常では体験できないことである。しかも、人生観、死生観が変るであろう苦しみを経ての生還であるが、どう変ったのか。「意識を失っていく時には、やりたいことをやれた、とほぼ満足していたが、生き返ってみると、やりたいことがたくさんあったことに気が付いた」という。

その差を原さんは分析する「それまでは、やりたいことも恥ずかしいのではないか、と限界を設けてやってこなかったことを知らされた。今は、恥ずかしいことも出来るようになった。いわば、バリアがなくなった。何にでもチャレンジしようとの気持ちが強まった」と。それが、定年前の退職の理由だった。

[アマチュア無線の発展に向けて]

原さんの「特殊学校教育」「ボランティア活動」に多くを割いてきたが、原さんのこれまでの交信局数は実は5万局近い。「アワードにあまり興味がなかったために、QSLカードの整理もしてこなかった」という。ユニセフ支援活動のために、海外で集中的に交信した局も多い。どうやら今後もアワードには夢中になりそうもない。

ユニセフの募金活動。子供達が貯めた1円、5円、10円がたくさん集まった

これまでも、原さんはたくさんのハムを育ててきた。今後も、アマチュア無線の活性化に力を尽くしたいという。アマチュア無線人口拡大のためにさまざまなことを考えているが未だに有効な方法を考えついていない。「かっては、小中学校、高校の教師にハムがいて、アマチュア無線の楽しさを教えていたが、現在はほとんどそういう教師はいない」と嘆く。

教師の卵が学んでいる大学でもアマチュア無線クラブが次々と消えていっている。「後に続く人がいなくなってきた」と、原さんは寂しそうだ。今年度(2003年度)にJARLの理事になった加藤喜一(JA8CDT)さんも「啓蒙活動がどうしても必要。有効な宣伝活動はないか」と模索している。

加藤喜一理事長

全国的に実施されているアマチュア無線免許取得のための「養成課程講習会」も開催件数が減少気味である。加藤さんはいう。「最近は学生ではなく、トラックの運転手、船員、ヨットを趣味とする人の受講が増えている。なかにはハムになるのが目的ではない人もいる」と悩む。それでも「講習会を開くたびに着実にハムが増えているのも事実。受講者を増やしたい」という。

最後に原さんにとってアマチユア無線とは何であったのか。「若い頃、人との付き合いが出来ない性格だった。それが、現在では幅広い人脈のなかで生かされている。40年弱の教員生活の中で、アマチュア無線を取り入れた教育の効果もあった」、そして、今後は「若い人の考えを吸い上げながらJARLの発展、アマチュア無線の発展に尽くしたい」という。