JA9CD 柳原 一成氏
No.9 リモコンシャックの構築(1)
「リモコンシャックの構想」
2003年、日本でも遠隔操作によるアマチュア局の操作が許可されるようになると、柳原さんはさっそく免許の申請を行った。これには、リモコンシャックの構想を前々から持っており、具体的な手法まで考えていたからこそ、すぐに申請が行えた訳である。柳原さんがリモートシャックをやろうと思ったきっかけは、「自分がそういう環境にあったからです」と説明する。
リモコンシャックの実現で要になるのはインターネットの利用である。もちろんインターネットを使用せず専用線を開設してリモコンを行うという手法もあるはあるが、回線の敷設ならびに維持にかかる費用が莫大となり、アマチュア無線には向いていない。
[公衆回線との接続]
インターネットを利用するということは、公衆回線を利用することであるが、アマチュア無線と公衆回線との接続は、日本では長い間許可にならなかった。アマチュア無線と公衆電話回線との接続が許可されている国では、HF帯やV/UHF帯で、アマチュア無線機を使って電話をかけ、アマチュア無線免許を有していない家族と通話することもできた。フォーンパッチと言われるこの方法は、日本では許可されず、日本のアマチュア無線家の悲願でもあった。
アイコムが発売した「フォーンアクセスユニット・CT-21」。無線機と公衆回線を接続するインターフェース。
1998年、通信する相手が無線従事者免許を持っていることを条件に、ついに日本でも公衆回線との接続が許可になった。諸外国のように、アマチュア無線の免許を有していない家族なとど通話することはできないが、それでも日本のアマチュア局にとっては待望の制度改定であった。これが、リモコンシャックの実現に向けた足がかりとなったことは間違いない。
[ネットワークの知識]
一方、柳原さんがインターネットの利用を始めたのは、1993年。まだまだ一般的にはインターネットという言葉さえ認知されていない時のことである。その頃、柳原さんは、(有)東亜コンピュータープラザを立ち上げ、パソコン用ソフトの開発を行う傍ら、NECの代理店としてパソコンの販売も行っていた。その様な環境にあったため、NECの業務用ネットの末端に入れてもらい、インターネットに接続できたのである。
その他、顧客からは「業務用にパソコンを5台買うから、5台をつなげてくれ」といった注文があり、LANの構築も業務として請け負っていた。当時のパソコンにはまだネットワークポートなど無く、RS-232Cポートを使ってLANを構築した。そのような理由で、柳原さんは比較的早い時期からLANをマスターしていた。
その後、1995年頃からはインターネットが普及を始めたことで、自宅のパソコンをインターネット経由で遠隔地に置いたパソコンと接続できる目処が立った。その頃からリモコンシャックの構想を始めたという。
[遠隔操作が許可になる]
1990年代後半になると、インターネットを使ったeQSOという通信手段が流行だし、フォーンパッチが許可される米国などでは、すぐにアマチュア無線機を使ったeQSOが行われるようになった。これは、自局がアマチュア無線機、相手側がパソコンを使った通信、もしくはその逆の接続方法である。柳原さんは、日本でも何れはアマチュア無線とインターネットの接続も許可になるのではないかと感じていた。そんな中、日本でも1998年、まずはフォーンパッチが許可になった。
その時点では、まだインターネットなどを経由した遠隔操作によるアマチュア局の運用は許可にならなかったが、柳原さんは「これも何れは許可になるだろう」と構想だけは温めていた。フォーンパッチが許可になって、さらに待つこと5年、2003年12月、電波法関係審査基準の一部が改正され、「インターネットを利用した遠隔操作」の条件等が加えられたことで、ついに日本でも遠隔操作の許可を取ることが可能となった。
柳原さんが坂井市の送信所で使用している、遠隔操作専用のパソコン。
ただし、この遠隔操作に関しては、下記のような条件付きであった。
次のいずれの条件にも適合する場合に限ること。
(1) 電波の発射の停止が確認できるものであること。
(2) 免許人以外の者が無線設備をみだりに取り扱うことのないよう措置してあること。
(3) 連絡線は、専用線であること。ただし、次に掲げる場合を除く。
ア リモコン局によりレピータ局又はアシスト局の遠隔操作を行う場合
イ インターネットの利用により遠隔操作を行う場合であって、次に掲げる要件のすべてに適合するもの
(ア) 免許人以外の者がインターネットの利用により無線設備を操作できないよう措置しているものであること。
(イ) 運用中は、免許人が常に無線設備を監視及び制御をしているものであり、その具体的措置が確認できるものであること。
(4) 電波が連続的に発射し、停波しなくなる等の障害が発生したときから3時間以内において速やかに電波の発射を停止できることが確保されているものであって、その具体的方法が確認できるものであること。
(5) 無線局事項書の参考事項の欄に、遠隔操作が行われること及びその方法(専用線、リモコン局又はインターネットの利用のいずれかをいう。)を記載するとともに、工事設計として(1)及び(3)イに掲げる要件に適合することを説明した書類を添付するものであること((3)イについてはインターネットの利用の場合に限る。)。
(6) インターネットの利用により遠隔操作を行う場合においては、その態様等にかんがみ、無線設備の操作を行う場所を通信所とは捉えないこととする。