[免許申請を行う]

柳原さんは、必要な書類を作成して直ちに「インターネットを利用した遠隔操作」を申請した。その頃のJA9CDの免許は、移動する局の50Wしかなかったため、移動しない100W局の開局申請という形で行った。当初、トランシーバーに手持ちのTS-940を使って申請したところ、北陸総合通信局から「コントローラー(ソフト)の書類を作ってください」と言われた。ソフトウェアをビジネスにしている柳原さんにとって、「自社開発のソフトを公開することは困ったな」、と思った。

どうしようかと考えていたところ、(株)ケンウッドから専用のコントロールソフトが用意されているTS-480が発売されたため、このリグを購入して、申請をやり直した。その後、「途中、一度だけ北陸総合通信局から問い合わせの電話はありましたが、2回目はすんなり通りました」と話すように、2004年3月についに念願の遠隔操作の免許が下りた。

免許が下りると、さっそく福井県坂井市の自宅に無線設備送信所の設備を整えると同時に、神戸市のマンションにおける遠隔操作所の構築も始めた。インターネットは、送信所には光ケーブルを引き込み、2社のプロバイダーと契約した。1社とは通常のインターネット接続の契約、もう1社とは固定IPアドレスの契約を行った。固定IPアドレスが必要な理由は、外部から送信所のパソコンにアクセスするのに、そのパソコンのIPアドレスが固定している必要があるからだ。この2契約のため通信費だけで毎月5千円ほどかかっているという。さらに、神戸の遠隔操作所でも別のインターネット接続契約を行っているが、こちらは業務用で契約している回線の一部を流用している。

[運用を始める]

TS-480と、遠隔操作用に作られた専用のコントロールソフトを使って、リモコン運用を始めたため、相性等の問題はなく、周波数をはじめとする各機能のコントロールはすんなりと動き、待望のリモコン操作によるアマチュア無線局の運用が行えるようになった。しかし問題もあった。電話系のモード(SSB、FM)では音声が時々とぎれ、交信相手局から、「リグのトラブルですよ」と指摘された。

それだけならまだ我慢できたが、柳原さんの好きな電信が運用できなかった。もちろん電信の受信は問題なかったが、インターネット経由では、電鍵制御が上手くできず、SSBモードを使ったオーディオでのトンツーなら送信できるが、柳原さんは純粋なA1Aが発射したかった。色々と試行錯誤したが、うまくいかなかった。

[V/UHF帯にも出る]

柳原さんは、「これでは実用にならん」とあきらめ、TS-480の専用コントロールソフトに見切りを付けて、他のソフトを探し始めた。そんな折、スイス在住のHB9DRVブラウンさんが制作したフリーウェアのHam Radio Deluxe(HRD)が見つかった。このHRDはコントロールする無線機を問わないので、V/UHF帯にも出たかった柳原さんは、どうせ取り替えるのならと、リグもIC-706MK2Gに取り替えた。

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HRDでIC-706MK2Gをコントロールする遠隔操作概念図。(クリックで拡大)

というのは、福井市のローカルでは、毎晩21時から430MHzのFMでSSTVの通信をやっていた。これは、何十年も続いているオンエアミーティングで、柳原さんも田舎に帰ったときには、ブレークしていた。しかし、さすがに神戸市のマンションから430MHzの電波を福井まで飛ばすことはできないので、遠隔操作を使ってこのミーティングに参加したかったのである。

もう一つ、V/UHFに出たかった理由がある。柳原さんは、旧丸岡町役場に設置してある430MHzのレピータを管理しているため、レピータのモニターも遠隔操作で行いたかった。このレピータJR9VTは旧丸岡町役場のとうやの中に設置され、アンテナは役場の屋上に立てているため、福井平野はほぼ全部カバーできるという。実質的な管理はJH9WHX五十川さんにお願いしていたが、自分でもモニターしたかった。

[HRDを使う]

柳原さんはコントロールソフトをHRD(バージョン2)に取り替えた。しかし、当初はなかなか上手く動かなかった。それでも機能がアップデートされてバージョン3になると上手く動くようになり、ほぼ完全にコントロールを行えるようになった。また、送信所と遠隔操作所間の音声のやりとりはスカイプを使うことで解決した。これで音声がとぎれることが全く無くなった。なお、パソコン本体のオンボードサウンドでは音質が今ひとつのため、柳原さんは外付けのUSB音源を使用している。

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柳原さんが使用しているUSB音源。

CWに関しては、コンテスト用ソフトのzlogを使用し、zlogのCW送信機能でA1AのCWが打てるようになった。パドルは使えないものの、CWメモリーに入れたメッセージを送信、あるいは送信文字を直接パソコンキーボードをたたいて送信することで、解決した。

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デジタルモード&CW用インターフェース(右上)と、無線機とパソコンを繋ぐCI-Vレベルコンバーター・CT-17(右下)。

[音が良すぎる]

「今は、HRDがバージョン4になって非常に安定しています。パソコンが動いている限り大丈夫。スカイプもすごく音が良くなりました。逆に、今のスカイプは周波数特性が良く、音が良すぎて困っています」と話す。無線機につないだマイクからの入力と異なり、音がきれいすぎるため、交信相手にスカイプを使っていることが分かってしまう。そのため、帯域をわざと狭めた電話のような音にすべく、それ用のフィルターを作ろうと計画している。

また柳原さんは、リグも最新のIC-7000に取り替えて快適に運用している。SSTVに関しては、MMSSTVを使ってアナログSSTVを、イージーパルを使ってデジタルSSTVを遠隔操作で運用し、念願であったSSTVのオンエアミーティングにも、神戸の自宅から参加している。将来、携帯電話で10Mbpsオーダーのサービスが始まれば、日本全国どこからでも自宅シャック(送信所)を遠隔操作できる様になる。移動先から電波を発射し、自分の固定局と交信することもできる。「局の免許が別々なので、これは法的には問題ありません」と話す。

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現在の遠隔操作送信所の構成。パソコンにはHRDとスカイプが立ち上がっている。

[送信所のアンテナ]

福井県は冬場に風が強く、最低でも20mは吹く。もちろん積雪も多い。そのため、HFのビームアンテナは、風と雪で壊れてしまうため、ローカル各局は、冬場にアンテナを下ろしている。普段神戸で生活している柳原さんは、そうそう福井の自宅に帰れるわけではないので、HFは3.5MHz用ダイポールと7MHz用ダイポールの2本のワイヤーアンテナしか設置していない。ワイヤーアンテナなら、切れない限りノーメンテでいけるし、アンテナを回す必要もないからだ。