[開局50周年]

2003年、柳原さんは(有)ハーバーランドサービスの社長職を後任に託すと、少しは時間に自由が利くようになり、開局50周年を記念して何かをやろうと思った。50年記念で豪華設備をそろえるという月並みなことではなく、他局がやらない変わったことをやろうと考えるうちに、移動運用で何かできないかとアイデアを練った。過去にも、単一の都道府県からの全市郡サービスを行ったことはあったが、1つのエリア内の全市郡サービスはまだ行ったことがなかったため、過去に運用したところも再度回り、改めて9エリアである北陸3県の全市郡から移動運用を行うことを目標にした。達成期間は、50周年の1年以内と決めた。

目標が決まったことで、柳原さんは、2003年9月から北陸3県の移動運用をスタートさせ、まずは自局のベースである福井県から回り始めた。その頃は、道の駅からの運用というよりも全市郡からの運用を目標にしていたため、道の駅のある市郡からの運用では、できる限り道の駅から出たが、道の駅のない市郡については、通常の移動運用同様、河川敷などから運用した。

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柳原さんの移動運用の様子。ログはパソコンに直接入力している。

ただし、道の駅からの運用を当初から意識はしており、できることなら北陸3県の全駅を回ろうとは思っていた。しかし、全部の道の駅から電波が出せるかどうかは、行ってみないと解らないため、とりあえず試しに福井県内の道の駅全6駅(当時)から運用してみた。その結果、すべての道の駅からオンエアできたため、他の駅からも運用は可能だろうと考え、北陸3県の全駅からの運用も目標にした。

[道の駅]

2003年9月〜10月の2ヶ月で福井県内の道の駅全6駅を含む、全市郡からの運用を達成できたため、移動先を富山県と石川県に広げた。その頃は、「道の駅からの運用です」とアナウンスしても、交信相手から「道の駅って何ですか?」とよく聞かれたという。まだまだ道の駅からの移動運用がメジャーではなかった時代である。

ここで、道の駅について説明する。主幹の国土交通省によると、道の駅とは、一般道路で安心して自由に立ち寄れ、利用できる快適な休憩のための空間。沿道地域の文化、歴史、名所、特産物などの情報を活用し多様で個性豊かなサービスの提供。活力ある地域づくりや道を介した地域連携が促進されるなどの効果の期待。こうしたことを背景として、道路利用者のための「休憩機能」、道路利用者や地域の方々のための「情報発信機能」、そして「道の駅」をきっかけに町と町とが手を結び活力ある地域づくりを共に行うための「地域の連携機能」、の3つの機能を併せ持つ休憩施設「道の駅」を誕生させた。とある。

提供するサービスとしては、駐車場、トイレ、電話は24時間利用可能であることと、

案内人がいて、親切に情報を提供することを挙げている。また、施設構成として、休憩目的の利用者が無料で利用できる十分な容量の駐車場 、清潔なトイレ、道路や地域の情報を提供する施設 、様々なサービス施設、主要な歩行経路はバリアフリー化を挙げている。なお、道の駅の設置者は、市町村または市町村に代わり得る公的な団体とされており、基本的には地方自治体が設置するものである。

[移動運用スタイル]

柳原さんの移動運用スタイルは、自家用車を使って、1回の移動運用に数日間かけ、複数の市郡を回ってくるというもの。1市郡あたりの交信局数こそ100局程度であるが、1日数箇所からオンエアしているため、1度移動運用に出かけると、数市郡の実績が埋まる。このようにして、月に1、2度、移動運用に出かけ、そのたびに数市郡を埋めていった結果、目標の1年以内で、北陸3県の全市郡サービスを完了した。

こうして開局50周年の目標を無事に達成したが、柳原さんの移動運用は、これで終わらなかった。市郡サービスを兼ねて、北陸3県のすべての道の駅から運用した結果、これなら、どこの道の駅からでも電波は出せると判断し、次の目標を、全国にあるすべての道の駅から電波を出すことに定めた。ターゲットを全市郡でなく全駅と変更したことで、同一市郡に複数の道の駅がある場合は、同じ市郡内から運用する必要性も生じた。2004年当時の道の駅数は、全国で500台だったが、毎年急増傾向にあったため、全駅達成にはどのくらいの数の駅を回ればよいのかは想像できなかったという。

[全国制覇をスタート]

柳原さんは、休むまもなく、近畿や東海などの近場の道の駅からのオンエアを始めた。その後は、関東や九州などの遠方にも遠征するようになった。遠方に遠征する場合は、1週間から10日間のスケジュールで回ってきた。1日のスケジュールは、朝6時に起きて、朝食を済まし、遅くとも7時には運用をスタートする。ときには朝5時から運用をスタートし、1日8駅を回ったこともあったという。ただし、道の駅から運用したことの証拠となる備え付けのスタンプをQSLカードに押す必要があるため、店舗がオープンしていない夜間は移動しない。

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QSLカードに押した福井県の道の駅の各スタンプ。(クリックで拡大)

このスタンプとは、道の駅の名称やイラストが入ったゴム印で、どの駅にも必ず備え付けられている。というのは、国土交通省が道の駅の認可する際にスタンプを作ることも条件の一つとしているからである。アマチュア無線家でなくても、その駅を利用した記念にスタンプを押印する来場者も多く、さらには時期によってはスタンプラリーなどが実施され、規定の数のスタンプを集めることで、記念品などがもらえることもある。

[スタンプと写真]

このスタンプをQSLカードに押すことが、道の駅から運用したことの証明となるのであるが、柳原さんは、さらに、道の駅で運用中の自家用車の写真を毎回撮影し、その写真をQSLカードの表面に印刷している。「写真とスタンプがセットになったこのQSLカードは大変好評です」と話す。柳原さんは、通常の生活では遅寝遅起きだが、移動運用に出かけるときは朝早いので、切り替えが大変。移動運用に行く1週間くらい前から、少しずつ早起きして、体を慣れさせているという。移動に出たときは夜も早く、20時には寝ている。それ以降は、たとえ他の駅に移動してもスタンプが押せないからである。

道の駅の店舗はだいたい17時か18時頃に閉まるが、その駅への到着が17時前の時は、店舗が閉まる前に、先にQSLカードにスタンプだけ押しておき、ゆっくり夕食を摂った後、あらかじめスタンプを押したQSLカードの枚数マイナスアルファの数のみQSOをこなし、それが終わると車内で就寝する。すでにスタンプは押してあるので、翌朝は、店舗がオープンする前に、次に駅に向かうことができる。

[効率よく回る]

レストラン併設の駅だと20時や21時まで、また温泉が併設されている駅だと23時頃までオープンしている駅もありスタンプを押すことができる。そのため、あらかじめ各駅のホームページで下調べをしておいて、効率の良い行程スケジュールを組んでいる。その際、店舗が休みの曜日などを確認し、「臨時休業あり」と広報に出ている駅については、先に電話をいれて、訪問予定日にオープンしているかを確認している。

もし駅へ到着が店舗の営業時間を過ぎてしまい、閉まっていた場合は、まずは夕食を摂り、その後QSOを開始して適当なところで切り上げる。翌朝は、店舗が開き次第、昨晩QSOした分プラスアルファの数だけQSLカードにスタンプを押して、次に駅に向かうというパターンである。夜間運用から運用をスタートする場合は、主に3.5MHzや1.9MHzを運用している。

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福井県六呂師スキー場にて運用中の柳原さんの移動シャック。

一方、日中は7MHzを主体に運用しているが、平日の昼間でコンディションが悪いときは、相手が見つからないこともある。そういったときは、V/UHFに出てみることもある。それでも1局もQSOできないときは、次の駅を先にやって、また戻ってくることもあるという。モードについては、SSBとCWを半々くらいで運用している。