[職務質問]

警察官が、不審な点のある者を呼び止めるなどして質問を行うことを職務質問と言うが、柳原さんは、1回遠征に出ると、少なくとも1回は職務質問に遭うという。そのほとんどが、第3者の通報によるものであるが、車の屋根に長いアンテナを設置し、車の中でモールス通信を行っていたのでは、一般の人が見ると、スパイと思われても不思議ではない。

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佐渡島にフェリーで渡り、「芸能とトキの里」駅で運用中。

やましいことをしているわけでは無いので、アマチュア無線をやっていることをきちんと説明すれば、理解が得られると言うが、柳原さんは1度だけ、1時間くらいの長い職務質問を受けたことがある。京都の丹後半島にある道の駅「舟屋の里伊根」でのことである。その日はその駅で泊まる予定だったため、夕刻から運用を始めた。すると19時頃に警察官がやってきた。

[スパイの疑いをかけられる]

柳原さんは、用心深く、本当の警察官であることが確認できるまで、いつもドアを開けない。その警察官はドアをノックし、「不審者がいるという連絡が来たのでちょっと話を聞かせてください」と尋ねてきた。「まずはあなたが警察官かどうか確認させて欲しい」と返答し、警察手帳の提示があったため、話を聞くことにした。「夜に電気をつけて無線をやっている者が居るがスパイではないかと通報があった」とのこと。

当時、北朝鮮の拉致問題の進展が大きく報道されている時期と重なり、また日本海に面した所だったので怪しまれたようだ。柳原さんは、いつものように「アマチュア無線をやっています」と説明したところ、「ではその証拠を見せてください」と言われた。柳原さんは、無線局免許状と無線従事者免許証の両方を見せたが、無線従事者免許証を確認した警察官は、「この写真ではあなたかどうか分からない」と言われた。写真は50数年前のものだからだ。

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1959年に取得した第一級アマチュア無線技士無線従事者免許証。

「無線従事者免許証は一生有効なので、写真の取り替えようがない」と、電波法のことまで説明したが、納得が得られず、「それなら運転免許証を見せてください」と言われ、運転免許証を提示したところ、ようやく柳原さん本人であることを確認してくれた。しかし本人の確認は済んだが、まだスパイ行為の疑いをかけられていた。「何のためにここで無線をやっているのか」という質問に対し、「私は全国の道の駅すべてから、アマチュア無線の電波を出して、全国各地のアマチュア無線家と交信することを目標にしています。その一環として、この道の駅にも来ているのです」と説明したが、なかなか理解が得られなかった。

そんなやりとり続いたが、なんとか最後には理解が得られ、警察官は帰って行った。それでも、結局その対応に1時間近く時間をとられてしまい、「元々そこに泊まるつもりでしたので、行程には影響ありませんでしたが、快適に運用しているところに水を差されたのは痛かったです」、「はじめに警察官の証拠をみせろと言ったので、印象を悪くしてしまったのがまずかったかも知れません」。柳原さんは話す。

[不審者]

このように柳原さんが不審者と誤認されることは多々あるが、柳原自身さんが不審者と遭遇することもある。怖いのは、夜間に「物やお金をせがんでくる不審者です」と話す。道の駅の店舗も開いていて、駅の利用者の多い日中にはまず居ないが、夜間、車の窓をコンコンとノックしてくる不審者がおり、窓を少しだけ開けて話を聞くと、「たばこを1本くれ」とか、「ジュースを買うので100円貸してくれ」と言われたことがある。

たばこは、柳原さん自身が吸わないので、「たばこは吸わないので持っていません」と断った。「自販機でジュースが買いたいが、小銭がないので100円貸してくれ」と言われたときは、「自販機は1000円札でも使えますよ」と返答したり「貸すのは構いませんが、いつ返してくれますか」と返答したりした場合、怒って車を蹴られたりしては困るので、「そのときは100円を与え、気持ち悪いので、その晩は隣の駅に避難して寝ました」と話す。

[アイボールQSO]

日中の運用中には、友人ハムが来訪することも多い。交信時に「いつまでその駅にいますか」、と聞かれ退出予定時刻を返すと、「これからアイボールQSOに向かいますので。待っていてください」と言ってやって来るという。その他にも、次に行く駅と到着予定時間を尋ねられ、それに応答すると、柳原さんが到着する時間には、すでに待っているハムもいる。

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「花ロードえにわ」駅にて7N4LCV黒須さんとアイボールQSO。

「いつも会いに来てくれるハムもいますが、これまでに合計で少なくとも300人は、道の駅でアイボールQSOを行いました」と柳原さんは話す。本来はCWが好きな柳原さんであるが、「この楽しみがあるからSSBにも出ているんです」と言う。「アイボールQSOにやって来るハムの中には、缶ジュースから、その地方の特産品などの手みやげを持ってきてくれる人もいました。これがまた嬉しいんです。」と話す。

柳原さんは、東京都八王子市にある道の駅「八王子滝山」のオープン2日目に行ったことがある。その前の駅でQSOしたJA1FWJ若月さんから、「次はどちらの駅ですか」と聞かれたため、八王子ですと答えたところ、「ぜひお会いしたいので八王子まで行きます」と返答があった。「八王子滝山」駅に着くと、オープン2日目であったため、駐車場が満車で入場できなかった。「道の駅アワード」では道の駅構内から運用しないとダメで、近所に駐車して運用したのでは、たとえQSLカードにスタンプが押されていても有効とは認められない。

そのため、柳原さんは、しばらく外をぐるぐると回り、1時間ほどしてようやく駐車場に進入することができたが、若月さんはすでに到着しており「1時間ぐらい待っていましたよ」と言われ感激したという。