[1陸技]

加藤さんは、金沢時代に無線関係の資格ではもっとも難しいとされる、第一級無線技術士(現第一級陸上無線技術士、以下1陸技)と第一級無線通信士(現第一級総合無線通信士、以下1総通)の資格を相次いで取得した。まずは1962年、職務上の必要性から1陸技を取得した。「飯を食っていくのに必要だったため、勉強にも力が入った」と加藤さんは説明する。

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第一級無線技術士の免許証。

この1陸技は無線設備の技術操作に関して最高の資格であり、当然試験の難易度は一番高い。この資格を取得することにより、商業放送局を始め、国際通信などを行う大電力無線局や大電力海岸局での業務に従事することができる。従ってNHKの送信所で働く加藤さんにとっては必須の資格だったのである。

1陸技の資格の取得するためには、年2回実施される国家試験をパスする必要がある。試験科目は4科目(無線工学の基礎、法規、無線工学A、無線工学B)あり、それらすべてを3年間でパスすれば合格となる。(科目合格が3年間有効なため)。もう1つの資格取得方法として、第二級陸上無線技術士を取得した後、実務経験を7年以上積むことによって取得する方法もあるが、業務上、すぐに取得が必要であった加藤さんには、実質国家試験をパスするしか道がなかった。加藤さんは1年足らずで国家試験に合格した。

[次に1総通]

その後、1966年、加藤さんは第一級無線通信士(現第一級総合無線通信士、以下1総通)を取得した。この1総通も、1陸技と並んで無線従事者国家資格の最高峰とされ、この2つの資格があれば、他のすべての無線従事者資格の操作範囲を包含する。そのため、無線関係で操作が許されないものはなくなる。もろちん、第一級アマチュア無線技士の操作範囲も包含するため、別途アマチュア無線技士の資格を取得することなく、1アマ相当のアマチュア無線局の開局が可能である。

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第一級無線通信士の免許証。

またこの1総通は、国際的に標準化された資格で、無線通信に関する国際的規則である「無線通信規則」(RR)でも、その操作範囲が定められている。すなわち、国際的に通用する資格なのである。そのため、遠洋航路の船舶に通信士として乗り込むには必須となっている。その他、国際通信、宇宙通信など実際の通信実務を行うのにも必要な資格である。放送局勤務の加藤さんには、1陸技があれば仕事ができるため、1総通は必須の資格ではなかったが、「実力を試すために受検した」と言う。

1総通の資格の取得するためには、1陸技同様、年2回実施される国家試験をパスする必要がある。試験科目は7科目(無線工学の基礎、法規、無線工学A、無線工学B、英語、地理、電気通信術)あり、それらすべてを3年間でパスすれば合格となる。もう1つの資格取得方法として、1陸技または、第二級総合無線通信士を取得した後、実務経験を7年以上積むことによって取得する方法もあるが、加藤さんは国家試験にトライした。

[電気通信術]

電気通信術の試験は、モールス電信、直接印刷電信、電話の3科目ある。この中で、モールス電信については、さらに欧文普通語、欧文暗語、和文の3科目ある。現在の欧文普通語試験は、1分間100字のスピードだが、加藤さんが受験した時は1分間125字のスピードだった。「間口を広げる意味で通信術の試験を容易化したのであろうが、これは資格者の質が下がることになるので残念」と加藤さんは語る。ちなみに、試験のスピードの下がった現在でも、1総通の国家試験の合格率はわずか5%前後であり、超難関試験であることにかわりはない。

すでに、1陸技の資格を持っていた加藤さんは、無線工学の基礎、法規、無線工学A、無線工学Bの4つは科目免除されたが、地理、英語、ならびに電気通信術は受検する必要があった。しかし、加藤さんは1アマを持っており、自らのアマチュア無線局でモールス通信を楽しんでいたため、特に電気通信術に関して問題はなかったようだ。それでも、「実際の試験に臨むにあたっては、新聞電報を受信して練習した」と話す。

モースル通信の試験には受信試験と送信試験があり、加藤さんは、送信試験は試験所に備え付けの縦ぶれ電鍵を使って打電した。エレキー(エレクトロニックキーヤー・全自動電鍵)に慣れてしまった現在では、「縦ぶれ電鍵を使って1分間125字のスピードで正確な符号を送出する自信はもう無い」と笑う。

[モールス通信]

船舶の場合、遭難信号として長い間モールス信号の「SOS」が使われていたが、GMDSS(Global Maritime Distress and Safety System)に移行したため、モールス信号は使用されなくなった。(バックアップとして備えている船舶はある)。そのため、万一の遭難時には、専用の遭難警報発生装置のボタンを押せばよく、モールス通信が行える通信士を船に乗せる必要が無くなった。そのため、問題も起こっている。

最近の新聞に、「船からのSOSの実に7割超が誤発信」という記事が掲載された。加藤さんは、「無線従事者を乗せていないから、誤発信が起こるんだ」と心配している。無線装置の変調装置などが故障した場合でも、電波の発射/遮断という最終手段だけができれば通信が行えるCWは、将来にも残しておかなければならない、と必要性を強く訴える。

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SOSの誤発信を報じた2007年11月24日付けの朝日新聞。

[CWの普及活動]

加藤さんは、少しでもCWの普及に役立てたいと、所属している地域DXクラブであるNDXA(Nara DX Association)の活動を通して、CW講習会の講師を担当している。講習会では、まずCWの歴史から始め、CWの活躍した実例などを交えた講演を行い、その後は、免許は取ったが交信実績のないCW初心者や、これからCWを習得して上級(1アマ、2アマ)資格にチャレンジするハムを対象に実技指導を行っている。この講習会を通して、実際に上級を取得したハムも多い。

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JARL奈良県支部主催のCW講習会にて。同支部HPより。

また、加藤さんは、NDXA内に「CW奨励基金」を創設した。内容は、「1アマ試験をパスしたら、1万円相当のCWに関連する物品を贈答する」というもので、資金は全て加藤さんのポケットマネーから捻出された。これまでに6名が支給対象になったという。贈られたのはもろちんCW用のパドルなどである。