JA3GM 加藤 勉氏
No.9 CWあれこれ
[ゼロイン]
リグの自動チューニング機能に頼るがために、VFOを手回ししてのチューニングでは、正確にゼロインできない局が最近多くなってきたと加藤さんは嘆く。かつては、BFOを可変してゼロビートをとり、その周波数にVFOを合わせる方式でゼロインを行った。「これを如何にすばやくやれるかが、珍局をハントできる鍵になった」と言う。
[口笛CW]
現在でも珍エンティティであるが、一時期イラクでは、クラブ局であるYI1BGD 1局しかオンエアがなかった時期がある。加藤さんは、イラクをCWで狙っていたが、あいにくこのYI1BGDには、マイクはあったがキー(電鍵)が無かった。そのため、加藤さんは、「この局とは、口笛を使ってQSOした」と話す。理論的には、低周波発振器の出力をマイクに入力するのと同じで、低周波発振器のかわりに、口笛を使ったということになる。
口笛でQSOしたイラクYI1BGDのQSLカード。
「口笛なので、ピュアな単一トーンにはならないが、なるべくきれいな音になるように努力してQSOした」と言う。イラク側のオペレーターは、もちろんCWについても教育されており、送受信できる技量はあったものの、シャックにキーがなくて運用できなかっただけの話しであり、「QSOは全く問題なかった」と話す。こんな方法で得たQSLカードでもCW-DXCCには有効で、加藤さんは貴重なイラクのクレジットを得た。
[SGでCW運用]
連載第6回でも紹介したように、リビアでは1969年の政変後、長い間アマチュア無線が禁止されていた。しかし1980年代のある時、技術指導でリビアに滞在していたポーランド人の大学教授が、短期間、CWでオンエアしてきたことがあった。その時代、アマチュア無線機の持ち込みが許されるはずもなく、教授は測定器であるSG(Signal Generator)を送信機として、これにアンテナを接続して運用したのであった。
SGは無線用の送信機ではなく、そのためキーの接続端子などないため、教授はSGの出力を出しっぱなしにした状態で、大胆にもアンテナの接続を直接入り切りして、キーイングしたのであった。小出力だったからできた技ではあるが、「こんな設備でもCWなら運用ができる」、と加藤さんは話す。
[ファイナルが飛んでも]
CWなら小出力でも交信できる例をさらに紹介すると、インド洋南部にあるオーストラリア領の無人島・ハード島から、1980年頃、探検隊に同行していたハムが運用したことがある。このハード島はDXCC的にリビアに負けず劣らず珍しいエンティティのため、世界中から注目を集めた。しかし運悪くこのハムが持ち込んだ無線機は、ファイナルが飛んでしまった。それでもあきらめずにドライバー段からの小出力で交信を続けた。S/NのよいCWだからできた技であった。
加藤さんは、ある日、中米ホンジュラスの局とエレキーを使ってCWで交信していた際、いきなりエレキーが故障してしまったことがある。即座に縦ぶれ電鍵を用意し、これにつなぎ替えて交信を続けた。電鍵を交換している間、交信相手が待っていてくれたため、無事に交信を完了できた。「エレキーは電子機器なので電気的な故障を生じることがあるが、縦ぶれにはそれがないので安心だ」と言う。
[英語よりモールス符号]
大阪港には大阪ポートと呼ばれる無線局があり、入港する船舶の誘導のため、船舶と無線交信している。この局のオペレーターはプロの通信士のため、CWの腕は一級である。しかし、外国から入港する船舶の通信士で、英語が母国語でないオペレーターの話す英語は、なまりがあって、何を話しているのかよく分からないことが時々あるという。
そういった場合はCWで交信するという話しを聞いた。CWの場合は、多少癖があって、長短点比が1:3で無かったり、語と語の間が規定(7短点分)より狭かったりしても、所詮単一トーンなので、なまりのある英語のように理解できないことはない。このようにCWで使用するモールス符号は、ある意味で万国共通の言語とも言うことができる。
[伝搬調査]
加藤さんは、ある日、藤永正恒(JA3IS)さんと電波を地球一周させる実験を行ったことがある。コンディションのいい日に21MHzで実験した。藤永さんが5エレ八木から発射した電波を、加藤さんはアンテナを、藤永さんとは180度反対側に向けて受信した。「直接波に比べて1/7秒遅れて届く電波を受信し、電波が地球を1周していることが分かった。直接波か、地球を一周してきた波かは、CWだったから容易に区別できた」と話す。
通信実験の相手JA3ISのQSLカード。
[脳を活性化]
そろばんの名手は、頭の中にイメージしたそろばんの玉をはじいているというが、CWもそれと同じで、頭の中でイメージを文字に変換している。左脳で想像、右脳で論理を行い、左脳と右脳が協調しながら、符号の解読を行っている。
そろばんも左脳と右脳を同時に使うので、「そろばんが上手いとCWの上達も早い」と言う。また、人間の脳はパソコンなどによる自動解読機とは違い、練習の積み重ねにより、乱れた符号や、QSB、また符号間違いにも対応できる。そのため、CWの運用は脳の活性化に大いに役立っている。従って「CWを運用すると脳が活性化し、その結果、頭がよくなる」と加藤さんは話す。
バグキーでCW運用中の加藤さん。1978年頃。