[大学に就職]

木村さんは無線を楽しむ一方で学業にも励み、高校3年に、公務員試験に合格している。公務員試験に合格すると合格者のリストが求人先に回るが、しばらくすると、大学、少年院、税務署など予想以上のオファーがあった。木村さんは名古屋大学の試験を受けて合格。就職後は専門だった林学科に配属されることになる。

就職の前後、アマチュア無線のアクティビティが少し落ちた時期もあったが、就職後1、2年で完全復活。以前からの夢であったモービル運用を主体に、51MHzのFMで活躍した。当時モービル局は全国的にJMHCが組織化され多くの会員をかかえていた。しかし木村少年は「JMHCは別世界のような存在で、加入することなど考えなかった」と言う。

向学心旺盛な木村さんは、就職後にも、名城大学法学部の2部に入学。その後も、名古屋電気通信工学院2部の電波通信学科に入学している。就職から10年経過した昭和53年、30歳になった木村さんは特殊モードの運用がしたくて第2級アマチュア無線技士の国家試験を受験して合格した。さらに、翌年には第1級アマチュア無線技士の国家試験もパスした。

[JARLの活動を開始]

昭和56年に、JARL愛知県支部の幹事となった。きっかけは「支部主催の技術講習会を開催するので、その講師をやってくれないか」と、所属クラブを通して話があったことだ。当時の木村さんは、「6mバンド監視同盟」USO (Union of Six meter band Observation)に所属しており、その時のことであった。余談ではあるが、このクラブに入ったのは、50MHzにアクティブだったこともあって強く勧められたという理由らしい。最盛期で100名ぐらいの規模のクラブであった。

それをきっかけにJARL愛知県支部の仕事を引き受けるようになり、支部の幹事は、支部長になるまでの12年間続けた。途中、監査指導委員なども務めた。当時は、支部の行事のほとんどに関与していたため、「かなり忙しかったが、それでも、地方本部長職を務める今ほどは忙しくなかった」、と木村さんは語る。

愛知県支部主催のゲルマラジオ講習会スナップ

[養成課程講習会]

木村さんは、アマチュア無線の発展、また活性化を図るため、アマチュア無線技士養成課程講習会の講師を積極的に務めてきた。「将来のアマチュア無線家の育成に力を入れたかったからだ」という。

養成課程講習会制度は昭和40年に発足し、翌昭和41年より実際の講習会が開催されている。所定時間の講習を受講後、修了試験に合格することで、国家試験を受験することなく無線従事者の免許が取得できるため、受験者は年々急増し、日本が世界一のアマチュア無線大国になった要因の一つとされている。ちなみに発足当時の講習時間は、電話級(現第4級)標準コースで、法規20時間、無線工学20時間の合計40時間だったが、この受講時間は次第に短縮され、現在では法規6時間、無線工学4時間の合計10時間となっている。このため土日の休みを利用し2日間の講習で第4級アマ免許の取得が可能になっている。

木村さんは、養成課程講習会の講師を、平成4年JARL愛知県支部の支部長になるまで続けた。正確には支部長になった後も数回は講師を務めたが、支部長の仕事が多忙で、その後は講師を続けられなくなった。

講師時代の平成2年、第3級アマチュア無線技士に出力25Wと18MHzの免許が認められる様になった後、養成課程講習会の第3級短縮コースに人気が集中し、1日に3講習(午前1回、午後2回)の講師を担当したこともあるそうだ。第3級短縮コースは、電気通信術の選抜試験に合格した第4級アマに受講資格があり、法規2時間、無線工学2時間、電気通信術2時間のコースである。

養成課程嘱託職員講師の辞令。平成3年の講習会のもの

[レピータ]

JARLは長い間、郵政省に対しレピータ(中継局)設置の許可を要請し続けていたが、昭和57年ついにレピータ局の免許がおりた。当初はJARL直轄局が各エリアに開局し、その後、一般からの団体局の申し込みを受け付けた。第一回目の受付に対し、実に100件を超える申し込みがありその内130局が承認された。この数からも、レピータ局の免許は待望の制度であったことが分かる。承認された団体は、競うように開局への準備を進め、翌昭和58年より順次団体局への免許がおり運用が始まった。

レピータ局は、他人の通信の中継を行うものであるため、直轄局、団体局にかかわらず免許人は全てJARLであり、誰でも自由に使えることが条件である。しかし実際には、団体局の場合、その管理団体が機器の設置や維持運営の経費をすべて負担するため、管理団体に所属していないと当該レピータを使いづらいという問題が当時はあった。

当時木村さんは、名古屋市東部の日進町(現日進市)に住んでいたが、その地域にはまだレピータがなく、ぜひレピータを設置したいと考えていた。「設置するからには、管理団体の構成員、非構成員にかかわらず誰でも気軽に使用できるようなレピータにしたい」というのが木村さんの願望であった。