[装置の手直しと増設]

当初JR2VKの装置で使用したアマチュア無線機は周波数安定度が悪かった。そのため、しばらく経ってから業務用無線機に取り替えた。周波数は安定したものの、業務機のためアマチュア無線機と比べて感度が悪かったそうだ。当時は感度より安定度の方を優先したため、そのまましばらく運用していたが、開局から2年ほど経過した後、あるメーカーに勤務する知人から送受信基板が入手できたため、その基板を従来の業務機の基板と入れ替えた。「すると安定度も感度も良くなった」ことを木村さんは記憶している。

開局当初は430MHzだけであったが、JR2VKはその後1200MHz、2400MHzと順次増設していった。どのバンドでも気軽に声を出すと、それが構成員であろうが無かろうが、またそれが初めてJR2VKにアクセスする局であっても、聞いているだれかが気軽に応答してくれた。東名高速道路を通過するモービル局もよくアクセスしてくれたそうだ。

アマチュア無線の免許を持っているタクシードライバーでも、昔は空車時にラジオを聞いていたそうだが、「JR2VKを聞いていた方がおもしろい」ということから、ワッチ局は増えていった。また学校の先生たちもよく出てきた。さらに「マナーも良い」と、次第にユーザーが増えていったようだ。

[JR2VK局管理団体]

JR2VK局管理団体は、別のクラブ名は付けず、今でも名称は「JR2VK局管理団体」のままだ。構成員はピーク時で120~130人いた。所帯が大きくなると、特定のグループや派閥等ができることもあるが、「JR2VK局管理団体」では、個別のグループ活動は一切禁止とした。目的はもちろん団体内での分裂を防ぐためだ。

「JR2VK局管理団体」では、総会を行っても構成員の名簿は配布していない。その理由は、設立当初の目的である、構成員、非構成員に関わらず、気軽にレピータを使ってもらうためだ。だから、レピータ使用者は交信相手が構成員か、非構成員か分からない。この方針を徹底しているため、今でもJR2VKは垣根のないレピータとして皆から親しまれている。唯一、「総会の会場では、参加者が自分が本当に構成員になっているかどうかを確かめてもらうために、会場の壁に構成員の一覧表だけは貼りだしている」と言う。

JR2VK局管理団体では、花見、旅行、キャンプ、スキーなど「遊びの会」を毎年開催している。そこでは、ニューカマーに楽しんでもらいながらレピータ運用のマナーも教えている。---「JR2VK局管理団体のホームページ」より

会費は、設立当初何かと資金が必要であったため、入会金1万円、年間2千円と定めた。そのため入会した初年度は年間1万2千円の負担となったが、それもレピータのためだということで、メンバーは皆協力的だった。ちなみに、現在も入会金、年会費は設立当初のまま1万円、2千円を変えていない。これについては「資金的に苦しいわけではないが、本当に構成員になりたいというハムに絞るという意味で減額していない」と説明する。

[盗難に遭う]

一般的にレピータ装置はロケーションの良い山の上に設置されることも多く、そのため無人の局舎に置かれることが多い。その場合、常に盗難の危険にさらされることになるが、不運なことにJR2VKも1度盗難に遭ってしまった。

当初JR2VKは、お寺の給水塔の上に設置していたが、給水塔のメンテナンス時に30m程離れたところに移設した。そこにパンザマストを建て、アンテナはパンザマストの上に設置したが、レピータ装置はパンザマストの根本のところにスチール製の物置を設置、その中に入れて運用した。移設後しばらくたった日の朝、メンバーの一人から電話がかかってきて、レピータが全部止まっているらしいと言う、「出勤前に急いで様子を見に行くと、何か様子がおかしい。物置を開けてみると、装置一式全て無くなっていた」ことがあった。
当時、430MHzは使用頻度が高いために、木村さんの自作機と、市販機の2装置を交互に使用していた。盗難にあった日は、次のメンテナンスに備えて、2装置とも局舎に据え付けてあった。「苦労して作った自作機をもって行かれたのが一番悔しかった」と木村さんは言う。

自作のレピータなど盗んでも売り物にはならないため、いたずら目的の盗難だったのではないかと木村さんは想像している。すぐに警察に連絡したところ、まずは被害総額を出してくれと言われたそうだ。しかし、自作機が含まれているため、被害総額など簡単には出せない。しかし、被害総額が出ないと被害届が出せないといわれ、なんとか算出した。被害届を出すと鑑識も来てくれたが指紋は出なかった。

平成6年、JR2VKは給水塔からパンザマストへと移設された。---「JR2VK局管理団体のホームページ」より

移設工事中のスナップ。---「JR2VK局管理団体のホームページ」より

[レピータの再建]

木村さんはこの事件に相当なショックを受けたが、幹部で話し合った結果、構成員に会費を前倒しで納入してもらう方法をとってレピータの再建を図ることになった。ここでもまた構成員は皆協力的で、まもなく資金も調達できたために従来どおりの3波を復活できた。工事についても構成員の多大な協力があった。

盗難に遭った後は、局舎である物置に頑丈な鉄格子を備え付けた。さらに、警報装置を解除せずに扉を開けた場合、レピータから特殊なトーンが出て、レピータをワッチしている局はすぐに異変が分かるような装置を作った。その後は盗難やいたずらに遭うことは無くなり現在でもJR2VKは順調に稼働している。以前は24時間電波が出ているような頻度だったが、「今は使用頻度が下がっている。これは携帯電話が普及した影響もあると思う」と木村さんは言う。

木村さんは、愛知県支部の支部長になるまで、JR2VKの代表者を務めたが、支部長になり、兼任は避けた方が良いという助言を受けて、レピータの代表者を後任に託した。その後、代表者は何人か変わっていったが、「誰でも、いつでも、気軽に」という方針はずっと守られている。構成員が減ってレピータの新調が難しくなっている管理団体も全国には多いが、JR2VKは、現在でも70~80人の構成員によってその活動が保たれている。