[監査指導委員になる]

JR2VKの管理を行っているうち、妨害とか無変調が多くなってきた時期があった。さらに、コールサインを言わない交信も聞かれるようになってきた。また、JR2VK以外のレピータでも「妨害を受ける」といった苦情が支部に寄せられるようになった。木村さんは、せっかく便利なレピータが、このままではまともに使えなくなってしまうという危機感を抱くと同時に、何とかしなければならないと強く感じるようになった。

ちょうどそのころ木村さんは、「監査指導委員をやってみないか」と言われ、「少しでもマナーが良くなるなら」、と快く引き受けた。ここで監査指導委員について少し説明すると、JARLには以前より監査指導委員会という組織があり、各支部に監査指導委員長と監査指導委員を配置して、監査指導業務にあたっている。活動の内容は、電波障害に関する相談受付や対策の指導、アマチュアバンド内のモニター、アマチュア無線に関する育成指導、JARLガイダンス局の運営・管理などで、これらの活動はもちろんボランティアで支えられている。

木村さんの監査指導委員身分証明書

木村さんがもっとも力を入れたのは、もちろん、「アマチュア無線に関する育成指導」であった。当時は、マナーの悪い運用局が認められた場合、ハガキによる注意を行っていたが、妨害や無変調送信を行う局を特定するのは時間も労力もかかったようだ。

コールサインを言わないで運用する局に対しては、交信の中でお願いをした。その際はできる限り相手を硬化させないよう、「コールサインを言ってくれないと、QSOしたいと思ってもこちらから呼べないので悩んじゃいました」の様に、なるべく柔らかく注意をすることを心がけたという。もっとも、コールサインを言わない運用に関しては、悪気がない局も多く、相手局からの呼び出しに対して、「はいはい」と応答してそのまま交信に入ってしまい、自局からコールサインを発信するのを忘れていたという例も多かったという。

[ガイダンス局]

現在では、電波を使って注意を行うガイダンス局が運用されており、コールサインを言わない運用に対しては「呼出符号を送信してください」、周波数の使用区別に違反している運用に対しては、「使用区別を守って運用してください」のような注意を行っている。この注意はガイダンス局のコールサイン(あまちゅあがいだんすとうかい)を使用している。

また、SSBやCWモードの使用区分帯でFMモードを運用している違法局を注意しようとすると、FMモードを発射しなければならず、注意する方も電波法違反となってしまうため、実際にはモニターするのが精一杯で、電波で注意することができない。しかし、ガイダンス局は「アマチュア業務の局」ではなく「特別業務の局」のため、アマチュア局用に制定されている周波数の使用区別に拘束されずに運用できる。そのためSSBやCWモードの使用区分帯でFMモードを運用している違法局を、電波で指導することもできるようになっている。

ガイダンス局はロケーションの良い山の上などに移動して運用されることもある

東海地区では4県持ち回りで、ガイダンス局を運用しており、毎年成果も上げている。ただ、機材が大がかりなので、次の担当支部に送るときにかかる移送コストが地方本部長としての木村さんの悩みの種だそうだ。

[監査指導に行く]

当時監査指導委員を担当していた木村さんは、JARL会員からの妨害の苦情にも積極的に対応した。時には違法運用を録音したテープが送られてきたり、見知らぬハムから連絡があり、直接テープを手渡され「正して欲しい」といわれたこともあった。その中で、妨害局の特定ができたものについては、個別に会って対応したこともある。

違法局が「俺はどこそこの、こういうものだ」と名乗って、レピータ妨害をやっていることが何件かあるが、これは本人の特定が簡単だった。その場合は、妨害局の家の前まで行き、その家から電波が出ていることを確認した上で対応した。本人と話をしていると、ほとんどの人が「交信に入り込みにくいとか、交信相手が作れない」という悩みを持っていたのには驚いた。

時には大きな問題にまで発展することもある。ある時、「俺は何々学校の何々だ」と、堂々と名乗って妨害を繰り返す局がいた。その家の前まで確認に行ったところ、確かにそこの家から電波が出ていた。さっそくその家を訪ねて、少年の母親に会って事情を話し、反省するまで無線機を預かって欲しいという話をした。するとその少年はそのときは「もうやりません」と返事をした。しかし、しばらくするとまた妨害が始まり、今度は「爆破」という言葉を電波で言い出したため、ワッチしていた誰かが警察に通報し、県警が捜査を始めたこともあった。

その他、妨害を繰り返した別の少年の家を注意しに訪ねると、「家の外で話そう」と言うので、家の前に止めた木村さんの車の中で2、3時間、話をしたこともあった。木村さんは「なんであんな妨害をしないといけないの。一緒に無線を楽しもうじゃないか」という話をした。最後にはこの少年も打ち解けてきて反省してくれた。このような時は本当に嬉しく思ったと言う。

もちろん、妨害局は少年だけでなく大人もいた。住所も名前もコールサインも堂々と名乗って、複数で長時間レピータを妨害したり、嫌がらせをしたりした局がいたので、「一度コーヒーでも飲ないか」という話をしたところ、指定場所に本人達が出てきた。話を始めると無線に対する不平不満をぶちまけたそうだ。木村さんは、相手の話を全部聞き、この時も「一緒に楽しもうじゃないか」と説得した。アマチュア無線の楽しみ方を見いだせない、人の輪に入りづらい人が多いなと思ったそうだ。

木村さんに「相手を注意するときのコツは」と聞いたところ、「まずは身分証明書を提示してこちらの身分を明かす。相手の立場になって話は最後まで聞く。相手が話し終わった後に、”実はあなたがやっていることで困っているんだ”と切り出す」ことだと言う。仕事を持ちながら、平行してこのような活動をボランティアで行うのは簡単にできることではなく、木村さんのアマチュア無線の健全な発展にかける強い情熱を感じる。木村さんは、愛知県支部の支部長になるまで監査指導委員を務めた。