[ARDF世界大会]

平成12年(2000年)10月、中国の江蘇省南京市で第10回IARU ARDF世界選手権大会が開催された。この大会には26カ国から222名が参加したが、JARLは杉山副会長(JH2XPV)を団長に,選手15名を派遣した。

この選手団に、木村さんは自費でついて行った。本連載第8回にも記載しているが、木村さんが支部長時代のJARL愛知県支部と南京市無線電運動協会とは以前から交流があったため、中国側からぜひ来て欲しいと強い要請を受けたからだ。自費による訪問ではあったものの、中国側は、コーチとして待遇してくれた。そのため、大会の開会式では最前列に並ぶことになった。

第10回IARU ARDF世界選手権大会の開会式

[ARDF]

ARDFについて簡単に説明すると、ARDFとは“Amateur Radio Direction Finding”の略称で、アマチュア無線の電波による方向探索競技。方向探知のできる受信機を使って、競技地域内に隠された5台の無線送信機(TXという)から発射される電波を受信し、あらかじめ決められた時間内で、いかに多くのTXの数を、いかに早く探し出すかを競うもの。

地域のクラブなどが主催する小規模な大会から、支部主催の競技大会、地方本部主催の競技大会、さらにはJARL本部が主催する全国規模の大会(全日本ARDF競技大会)がある。それに勝つとIARUが主催する世界大会に参加できる。

参加クラスは、まず男性と女性に分けられ、それぞれにおいてさらに年齢別に分けられている。使用される周波数帯は3.5MHz帯と144MHz帯があるが、日本国内の大会では、ほとんど144MHz帯が使用されており、3.5MHz帯はエキシビション競技か練習競技として使用されている状況である。

[審査員資格を取得]

競技として確立する以前のARDFは、「FOXハンティング※」と呼ばれていた。これは、狐(隠した送信機)をハンティングする(見つけ出す)ことから名付けられ、アマチュア無線を使った1つの遊び方として、昔から全国各地で行われていた。その頃は確立されたルールがなく、主催者が独自にルールを決めていた、その後、競技として統一したルールが制定され、「FOXテーリング」という名称になった。
※現在でもクラブ独自のルールで行われるものは「FOXハンティング」と呼ばれている。

FOXテーリングには、公認された審判が必要となる。昭和62年(1987年)、東京でハムフェアの開催にあわせてFOXテーリングの審判員講習会をやるという話があり、愛知県からは木村さんを含めて4名ほど受講した。講習会は朝から晩まで缶詰で行われ、「この講習を受けていたおかげで、ハムフェア会場に行ったものの、会場内を見る時間はほとんどなかった」と言う。

FOXテーリングが、ARDFという名称で世界規模で統一したルールとなった後は、ARDFの審判員講習会を受講して資格を取得した。当時この講習には実技もあり、実際に講習会場に受信機を持っていき、隠された送信機を探すことも行われた。


FOXテーリング審判員証(上)と、ARDF審判員資格者証(下)

[ARDF競技会の開催]

JARL愛知県支部では、以前から支部主催のARDF競技大会を行ってきたが、ルールが変わり地方大会と全国大会が主流となった現在では、支部大会はあまり行われず、地方本部主催の東海地方ARDF競技大会に力を入れている。この地方大会は、エリア内の4県持ち回りで開催しており、昨年(2006年)は静岡県で開催し、本年(2007年)は愛知県で開催されることが決まっている。

かつては、地方大会で優勝することが、全国大会への出場の切符を得る唯一の手段であったが、時代とともにルールも変わり、現在では、地方大会を飛び越して、いきなり全国大会へ出動することも可能となっている。

[全国大会を開催]

平成18年(2006年)10月、静岡県富士市で2006全日本ARDF競技大会が開催された。主催はJARL本部であるが、東海地方本部は実動部隊として活動した。この大会には168名の参加者があったが、特筆すべきは19歳以下のクラスに男女併せて85名もの参加があったことだ。

2006全日本ARDF競技大会の参加者 --- JARLのホームページより

これには伏線がある。全国大会の前月にあたる9月に行われた静岡市での地方大会が“呼び水”となった。「アマチュア無線活動の活発な静岡県の高校生にこの地方大会を経験してもらい、全国大会に結びつけてもらう狙いがあり、事実その成果が出た」と木村さんは説明する。

[高等学校文化連盟]

静岡県には、全国高等学校文化連盟(全国高文連)の正会員である静岡県高等学校文化連盟があり、この中には専門部門として無線部門がある。この部門で動いている先生達が中心となって、何年か前から、県内の高校生によるFOXハンティングを毎年2回行っている。そのFOXハンティングと東海地方ARDF競技大会と合流しようという話になったことがきっかけであった。

一方、全国高等学校文化連盟には、まだ無線部門が設置されていないため、高校のアマチュア無線部を指導している、全国の熱心な先生達が、無線部門設置の運動を行っている。特に盛んな神奈川県でその準備会の第一回会合が、全国の先生達に呼びかけて開かれた。その会合に木村さんは神奈川県まで車を走らせ参加した。会合では先生達から熱心な活動報告がなされ、資料も豊富に用意されていた。「中学生、高校生は先生から受ける影響が大きい。これらの活動は、今後のアマチュア無線の発展のためにもとても重要だ」と感じた。

本年(2007年)のARDF全国大会は関西地方本部が担当し、兵庫県で実施予定となっている。東海地方大会については、9月8~9日に愛知県新城市で実施されることが決まっている。この会場はボーイスカウト愛知県連盟の野営場を借りて行う。「全山が野営場なので、ARDFの競技大会を実施するのに非常に適した場所」と木村さんは喜んでいる。