[入構証]

連載第14回でも書いたとおり、ボランティアのローテーションは村井さんが自発的に担当してくれた。ローテーションの管理にともない、入構証の準備という仕事があった。頻繁に入ってくれるボランティアには期間入構証を用意したが、これは発行枚数に制限があるため、単発のボランティアには単発の入構証の準備が必要であった。この単発の入構証は必要日毎に申請する必要があり、申請はパソコンを使ってネット経由で行えたが、入構証の受け取りは協会の事務局まで取りに行く必要があった。この入構証の管理も村井さんが担当しくれた。

ボランティアへの配布方法は、初回は郵送、2回目以降は次の分を手渡した。ただ、急に入ってくれるボランティアには、郵送していては間に合わないため、ゲートの外で待ち合わせ、手渡しに持って行かなければならなかった。木村さんと種村実行委員長は、「負担が大きいので、急な対応は断ってください」と言ったが、それでも、「ボランティアとして入ってくれる皆さんの気持ちに応えたい」と、村井さんは対応を続けたと言う。

[子供科学実験工作教室]

ブースでは、8J2AIの運用以外に、協会との約束どおり、子供科学実験工作教室と銘打った、お客様参加型のイベントを開催することにした。具体的には「おもしろ科学実験工作教室」と「エレクトロニクス工作教室」を毎日開催し、月に一度の頻度で「小型サッカーロボット体験教室」も開催した。これら全てのイベントへの参加費は500円と定めた。「工作物の内容によっては赤字のものもあったが、トータルするとなんとか予算内に収まった」と木村さんは当時を振り返る。

おもしろ科学実験工作教室の開催風景

その中で、毎日実施の「おもしろ科学実験工作教室」と「エレクトロニクス工作教室」は、口コミでも広まり日を追う毎に人気が急上昇した。さらに、テレビや新聞で報道されたことがきっかけで大人気のイベントとなった。このイベントには一定数の講師担当スタッフが必要なことから、1日3回の開催、各5セットの限定としていたが、ピーク時には順番を待つお客様の行列ができ、それは隣のブース、さらにそれを超えて延々と延びてしまった。協会側から「自ブースのお客様は自ブースで管理してください」とクレームがついてしまった。そのため「アマチュア無線最後尾」という看板を作ってお客様を誘導したと言う。

この2つのイベントは、子供向けのイベントではあったが、来場したおじいちゃんやおばあちゃんが作って、孫のおみやげに持ち帰るということもしばしばあった。一方、講師担当スタッフであるボランティアのおじいちゃん達にとっても、「子供にものづくりが教えられると、喜んで対応してもらえた」と言う。制作物の内容は毎月変え、2回目以降に来場したときもまた楽しんでもらえるようにした。なお一番人気は、「モリゾーとキッコロのウインカー」だった。

「モリゾーとキッコロのウインカー」[1日の予定数]

来場者に好評なイベントではあったが、「運営には様々な苦労があった」と木村さんは言う。お客様に制作してもらうものはキットにしてあるが、そのために材料を加工して、ある程度のところまで下作りしておく必要があった。そのため、準備担当のスタッフが控え室でこの作業を行っていたが、1日に準備できる数量には限界があった。さらには、その材料の調達にも限界があったので、1日の予定数量を決めていたが、人気が高まるにつれて希望者が殺到し、限定数が完了した後も断れなくなってしまった。

「前に来たときも、その前にも断られたし、今回もまたダメか」というクレームも増えだした。木村さんらスタッフは、できるだけ楽しんで帰ってもらいたいという気持ちを持っていたため、このようなクレームが出ると、翌日のために準備した分を使わざるをえなくなり、準備担当のスタッフを困らせた。

工作教室のキットを下作りするスタッフ

また、実際の工作教室では、作るのに時間がかかり、次の回にずれ込む子供もおり、次の回の参加者と一緒にやることになるため、回を区切ることが難しくなってきた。そのため、1日3回各5セットではなく、1日15セットと一日の総量を決めたこともあった。それでもクレームが続き、次第にそれもできなくなってしまった。最後には、できる限り来ていただいたお客様には対応しようということになった。「うれしい誤算であったが、結局、最後まで工作教室へのお客様をいかに捌くかが課題として残った」と反省している。

[材料の調達]

村井さんは、スタッフとして来場する前に、毎日通り道にある100円ショップで材料の一部を調達してくれた。乾電池や接着剤などである。しかし、毎日のことなので、軒並み材料が売り切れになっていったという。そのうちに店員も憶えてくれ、ショップに入ると「今日は乾電池が入ったよ」と言ったように、村井さんに声をかけてくれるようになったそうだ。

工作教室の受付時間を待つお客様の列

100円ショップで調達できない電子部品や基板などは、東京にある専門店から通信販売で取り寄せたが、一度、乾電池ケースの不良品が大量に入ってきたことがあった。キット完成後、通電しても動作しない。配線や半田付けを何度確認しても間違いがない。それでも動かない。原因を解明するうちに乾電池ケースのカシメ不良という事が分かった。しかも、単発の不良ではなく全数不良だった。もちろん東京まで送り返して交換している時間はないため、スタッフで手分けして、全部半田による手直しを行った事があった。

一方、JARLが主催したイベントの他に、協力組織による「ラジオ製作教室」も随時開催された。愛知県電波適正利用推進員協議会や、大阪の有志グループは、それぞれの組織のスタッフが全ての材料(ラジオのキット)を持って来場し、制作の指導まで行ってくれた。もちろんJARL側のスタッフも、手伝いに回った。

「子供たちに科学する心、物作りの楽しみを知って欲しいという気持ちを込めて企画したこのイベントが、子供たちだけでなく、お父さんお母さんを超えて、おじいさん、おばあさんにも私たちの思いが通じたことは、嬉しさを超えて誇りを感じています」と木村さんは話す。