[ARISSスクールコンタクト]

8J2AIではARISSスクールコンタクトも実施した。ARISS (Amateur Radio on the International Space Station)スクールコンタクトとは、地球の上空約400キロメートルを飛行している国際宇宙ステーション(ISS)に滞在している宇宙飛行士と、地球上の子供たちがアマチュア無線で交信を行うプログラムのことで、NASA(米国航空宇宙局)の教育プログラムの一環として行われている。

もちろん米国だけでなく世界中の学校や、子供が主体の組織を対象にしているもので、日本でも、すでに多くの学校・組織との交信実績がある。また、このプログラムに参加する小中学生は、総務省の告示によって、アマチュア無線技士の免許を所持していなくても、プログラムに従って運用されるISSとの交信に限ってアマチュア無線局の運用ができるように配慮がなされている。そのため、この運用をきっかけにアマチュア無線技士の免許を取得する子供も多い。なお、宇宙飛行士との交信は、全て英語で行われるため、実際には、事前に十分な講習を受ける必要がある。

木村さんらは、8J2AIでも、子供が主体の臨時の局を別に開設してARISSスクールコンタクトを実施することを決め、早々にARISS事務局に対して申し込みを行った。NASAとの調整等で、申し込みから実施まで相応の時間がかかるため、準備は8J2AIの開局前から行い、オペレーターの募集も3月から行った。参加者の対象地域は東海地区に限定せず、全国から小中学生を募集した。これは初めての試みであった。

[21名の応募者]

応募者が多数だった場合は、応募の課題にした作文によって選考する事を決めていたが、最終的に21名から応募があった。この人数は国際宇宙ステーションの可視時間(国際宇宙ステーションが地平線から登り、再度地平線に沈むまでの時間で、おおむね10分間前後)から考えると微妙なところだったが、木村さんらスタッフは「せっかく応募してくれた小中学生全員の夢を叶えてあげたい」と考え、全員合格とした。

実施にさきがけて記者会見を行った。左から磯さん、木村さん、種村さん。

応募者は、下が小学1年生、上が高校1年生までの年齢幅があり、これは、これまで日本で実施されたARISSスクールコンタクトでは最大幅であり、かつ小学1年生の参加も初めてであった。このうち高校1年生は、申し込み時に中学3年生であったことと、アマチュア無線技士の免許を所持していたので、「特例措置である無資格運用者の対象とはならないため、法的な問題はなかった」と木村さんは説明する。

[研修会]

実施時期は8月、特別局のコールサインは8N2AIと決まった。木村さんらスタッフは、本番までに4回の研修会を開催することを計画して実施した。研修会ではアマチュア無線のことや無線機の操作方法ももちろん教えたが、講習時間の半分の時間は英語の発音練習を行った。発音がしっかりできないと、宇宙飛行士に質問が伝わらないためだ。この発音は中部大学のブライアン・ウィスナー先生と水谷愛子先生にも協力してもらった。そのほか、短時間(約10分間)に全員が宇宙飛行士との会話を成功させるため、オペレーター交代の練習も行った。なお、交信がうまく進み2巡目に回ることも考え、小中学生1人が2つの質問を用意したと言う。

4回の研修会のうち、3回は名古屋大学にある野依教授のノーベル賞受賞を記念して作られた野依記念館を借りて行ったが、第3回目の研修会だけは、名古屋市公会堂で行われた愛知県支部大会でもある「ハムの祭典」の会場で行った。その日の一通りの研修が終わった後、小中学生を1人ずつ壇上に立たせ、来場者に向かって英語による質問をさせ、度胸をつけさせたそうだ。

研修会の様子。

[大成功だった当日]

当初8月中に予定されていた実施日は国際宇宙ステーション側の都合で9月2日に延期された。愛知万博は9月25日に閉会することになっており、「10月にさらに延期になると実施ができなくなる」と木村さんらスタッフは気を揉んだが、9月2日に無事にプログラムを実施することができた。結果は大成功だった。

18時45分、国際宇宙ステーションが地平線からあがってくるとすぐにメインオペレーターの磯さんが通信回線を確立させた。その後10分あまりの間に、小中学生のオペレーターが交代で宇宙飛行士に質問を行い、宇宙飛行士からは1問ずつ丁寧に回答があった。全員が1つ目の質問を完了し、ちょうど2巡目に入ったところで、国際宇宙ステーションは地平線へと沈み通信が切れた。会場からは一斉に拍手がわきあがった。この模様は翌日の各新聞で報じられた。

ARISSスクールコンタクトへの参加者とスタッフ。

「短い時間に全員に回すことができるかどうかを心配しましたが、大成功でした」、「子供達は十分に練習を積んでいるので、緊張している様子はなく、引率の親御さんの方が緊張していたようですよ」と、木村さんは当時を語る。子供の晴れ舞台だと、おじいちゃんおばあちゃん含めた一家総出で、会場にやってきた家族もあった。

[D-STARの運用]

話を8J2AIに戻すと、記念局のブースでは、来場者がデジタル方式のアマチュア無線の体験運用ができるよう、D-STAR端末も設置した。これは従来の通信方式とは異なるシステムのため、運用に躊躇するハムも多かったが、新し物好きなハムは、ボランティアのアドバイスを受けながら、果敢にD-STARの運用にも挑戦し、アシスト回線またその先のインターネット回線を通じて、全国のレピーターからCQを発信した。

8J2AIのD-STARコーナー。

D-STARの運用を楽しむ来場者。

[閉局]

9月25日、185日間に渡るロングラン運用を終え、8J2AIは閉局した。最後は原JARL会長が自らマイクを握り数局との交信を行った後、閉局を宣言した。その後、閉局式を行って全ての行事を完了した。185日間における総交信局数は33,328局であった。