[本業]

これまで18回に渡って木村さんのアマチュア無線人生について紹介してきたが、アマチュア無線の発展に尽力する一方で、当然のことながら本来の勤務にも意欲的に取り組んでいる。最後になったが木村さんの本業について簡単に触れておこう。

連載第3回で紹介したように、名古屋大学農学部林学科に就職した木村さんは治山工学研究室に配属された。その研究室では、山崩れなどを専門に取り扱い、屋外での観測が多かった。業務の内容は、現地観測、測量実習の補助、土壌サンプルの分析、測量図面や航空写真の解析などであった。しばらくすると、「木村は弱電に強い」という事が教授達に伝わり、観測機器の製作や改造を任される様になった。観測する内容は、温度、湿度、水位、雨量などの気象関係一般であり、木村さんは観測用センサーの工夫などを行った。

木村さんが働く、現在の名古屋大学農学部。

[水収支]

治山工学研究室の研究テーマに水収支があった。水収支とは、ある観測地域にどれだけ雨が降り、その降水量から、蒸発した量と、川などから流出した量を差し引くと、その地域に土壌水や地下水などで貯留している量が計算できる。たとえばこれを山間部で観測した場合、この貯留量が多いと山に水が貯まっていることになり、貯留量が一定の値を超えると山崩れにつながる恐れがあるという仮説がたつ。

治山工学研究室では、建設省から研究の委託を受け、長野県にある姫川の支流の浦川で観測を行った。この浦川では1年に何回か土石流が発生するため、降雨条件と土石流発生のメカニズムを調べることになった。

水収支の観測は、複数地点の雨量測定が基本である。木村さんは、観測結果を記した記録紙のデータをパソコンに入力して解析するプログラムを作り、また、土石流の複数地点からの観測画像はスチルカメラで撮影するが、そのための遠隔撮影装置などを製作したほか、耐土石流自記水位計も作っている。観測は夏場に行い、研究室のメンバーが1週間ずつ交代で泊まり込みで観測を行った。「若い頃だったので、荷物を背負っての1日2回の山登りも苦ではなかった」とそのころを語る。


屋外での観測風景。測定は機械が行うが、準備はもちろん人力である。

現在、この研究室はテーマも変わり「森林気象水文学研究分野」太田研究室と呼ばれている。今は当時のように荒っぽい測り方でなく、測定項目もかなり細かくなっている。もちろん測定結果は自動的にデータ化されているため、当時の様にパソコンに手入力する作業は必要ない。

[情報通信]

現在の木村さんは、名古屋大学の全学技術センターの中にある共通基盤技術支援室・情報通信技術系に所属し、そこの責任者である。奥様も同じところに所属し、力を合わせて職務を全うしている。職種は、情報通信、学内ネットワーク関連が中心となり、FTPサーバー、WEPサーバーの管理も行っている。「最近は管理上の事務処理が多くなってきている」と木村さんは話す。

たとえば、教職員や学生達から依頼のある「パソコンを学内のLANに接続したい」という申請に対する審査と、IPアドレスの割り当ても業務の一つである。これらは、基本的にメールで対応し、原則として現場での対応は行わないことにしている。その理由は、パソコン本体の設定サービスまで要請されることになり、対応しきれなくなるからだ。2007年3月現在、農学部・生命農学研究科内には約1000台のパソコンがあるが、これを4人で管理している。

樹木の葉っぱの元素濃度を測定する為の前処理中。

アカマツ切枝の環境制御測定中。

時々、学内のLANに接続されているパソコンがウイルスに感染する事があるが、その場合、警戒センターがネットワークへの接続を切り、その連絡が木村さんのところに届く。連絡を受けた木村さんは、そのパソコンの持ち主に連絡してウイルス駆除の依頼と、そのアドバイスを行っている。

ただし、情報通信関連の業務が主となった今でも、従来からの旧林学関係のデータ解析は継続して行っており、その他には旧林学と関連する木材加工室(製材所)の維持管理と技術指導も行っている。

[最後に]

JARL東海地方本部長という多忙な業務をこなしながら、同時に現役の働き手でもある木村さん。決して守りに入ることなく、常に新しい事にチャレンジし続けている。当面の課題はD-STARネットワークの充実であるが、木村さんの視点は、さらにその先を見据えている。