[IC-706を購入]

1995年11月、HFを再開するため、郡山さんはIC-706を購入した。コンパクトさが決め手だったという。夫婦で50W免許を取得することにしたため、購入後すぐにメーカーのアイコムに50W改造を依頼し、変更申請を行った。それまでの郡山さんのHF帯の免許は開局時と同じ、3.5〜50MHz A1、A3 10Wであり、この変更申請で初めてSSB(A3J、現表記J3E)の免許を得た。同時に1.9MHz帯も追加し、出力は50Wになった。すでに第3級アマチュア無線技士免許を取得していた洋子夫人も設備供用で50W免許を得た。

開局当時に使っていたQRP TEWNTYやTX-88Dは手放していなかったが、まともに動くかどうか分からなかったし、そもそも1995年の時点で、HF帯ではだれもAM(A3、現表記A3E)モードでオンエアはしていなかったので、実質的には使いものにはならなかった。

[自宅からHFを運用]

IC-706を入手し出力も50Wになって、郡山さんは1996年から本格的にHF帯での運用を再開した。アンテナは、6バンド対応のグランドプレーンアンテナを新調し、庭先に設置した。グランドプレーンを選んだのは、本格的なビームアンテナを建てるには敷地が狭いという理由もあったが、一番の理由は、プロの通信士として36年間、船上から通信を行った経験から、通信相手局のアンテナが良ければ、自局は小さなアンテナでも十分に交信ができることを知っていたからである。

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6バンド・グランドプレーンアンテナ。

ただし、このグランドプレーンはWARCバンド(10、18、24MHz帯)に対応していなかったため、後日、別にロングワイヤーアンテナを張って、手動式のアンテナチューナーで同調をとり、WARCバンドへのオンエアも始めた。HF帯での交信はもっぱら電信で、電話に出るのは、交信相手から依頼された場合などごく僅かな機会だった。その後、長崎CW愛好会に入会し、ますますアクティビティを高めた。144MHz帯FMの移動運用も継続はしていたが、次第にHF運用に傾倒していった。

[近隣とのマッチング]

自宅からの運用は、特に「隣近所とマッチングが重要です」、と郡山さんは話す。かつて現住所に自宅を新築し、10mタワーを建てたときは、自分が電波を出していない時でさえ、隣近所から電波障害のクレームが付いたことがあった。その後疑いも晴れ、それらのお宅とは今でも良好な関係を保っているという。

郡山さんは、自宅から約20キロ離れた同じ長崎市内の琴海町に300坪強の畑を持っており、そこで完全無農薬栽培で野菜を作っている。ジャガイモ、にんじん、菜っ葉などの作物が収穫できると、ご近所に「完全無農薬」を説明して配っている。お返しにはお土産などをもらい、結果として常に良好な関係が保てている。「隣近所とは絶対に喧嘩してはいけません」と話す。

ある時、運用中に自宅のインターフォンがピンポンピンポン鳴った事があった。はじめは「誰か来たのか」と思い外に出てみたが誰も来ていない。結局、50MHzの電波が影響していることが分かり、配線をフェライトコアに巻いて解決した。「電波はどこに影響するか分からないから、絶対に大丈夫ですとは言ってはいけません」、「何かあったらスグに言ってもらえるように、日頃から隣近所とは仲良くしておかないといけません」と強調する。

インターフェアといえば、2、3年前に電子カーペットを買った。説明書には「6時間経過すると自動的に電源が切れる」と書いてあったが、それがときどき30分とか1時間で切れることがあった。てっきり故障だと思って、販売店経由でメーカーに送ったところ、「何ともありません」と返ってきた。後で分かったことだが、ロングワイヤーアンテナから3.5MHzを発射したら、電波が回り込んで電源が切れてしまうことが分かった。「メーカーには気の毒なことをしました」と郡山さんは話す。

[セカンドシャックを構える]

郡山さんは現役時代、趣味の釣り船を手に入れようと思い、まずは船を係留しておくための、大村湾に面した適当な土地を探していた。自分は年間のほとんどを乗船勤務しているため、義理の父親に頼んで探してもらった。義理の父親は、西彼杵郡琴海町(現長崎市)に土地を見つけてくれたが、そこは湾に面した土地より1段上がったところだった。そのためベストな条件ではなかったが、地価も適当だったためそこを購入した。前述の畑がそうである。

そこでは、現役の頃は雑草の駆除作業程度しか行っていなかったが、リタイアしてからは畑作業を行うようになり、野菜の完全無農薬栽培を行うようになった。2000年には、ここに小さな小屋を建てて、セカンドシャックを作った。一番の目的は、自宅シャックで洋子夫人が運用中でも、コンテストなどで同じバンドを同時に運用できるようにすることであった。

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セカンドシャック。

土地を購入した当時、そこで無線運用を行う計画は全く持っていなかった。そのため土地の海抜は4〜5mしかなく、決して無線に適した場所ではないが、回りに住宅は少なく、ノイズ環境は自宅よりベターであった。小屋の窓からは、畑と海、山が見えるように建てた。日中は窓から外を眺めながら運用したり、運用に飽きたら畑仕事をしたりしている。

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シャックの窓から見える畑、海、山。

[ロングワイヤーアンテナ]

土地の面積は300坪強だが、細長い形状のため1.9MHzのフルサイズダイポールも展開可能である。しかし、郡山さんは、小屋を土地の中央ではなく端に建てたため、メインアンテナとしては、端給電となる40m長のロングワイヤーアンテナを1本上げた。このアンテナに、45年前の開局時に使ったマッチング用コイルと、古いラジオから取り外したバリコン2つを組み合わせて、パイ型の同調回路を作り、HFオールバンドにオンエアしている。

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自作の同調回路。みの虫クリップでロングワイヤーを選択し、コイルのタップ位置も切り替える。

「ロングワイヤーはマッチングが面倒だという人もいますが、1本のワイヤーでオールバンドに出られるのが便利です。SWR3ぐらいまでなら実用になります。少々同調が外れても私は気にしていません。ただし、ロングワイヤーを使う際は、インターフェアに注意する必要があります」と話す。「船では逆L型やT型のロングワイヤーで22MHzまで出ていました。ただし最大1kW出力なので、コイルやバリコンの耐圧は大きいですが理屈は同じです」、「もっとも船の場合は、周波数を決めたらチューナーがプリセット位置まで自動で動き、数秒でマッチングが完了する様になっています」と郡山さんは説明する。

セカンドシャックを作った当初は40m長ロングワイヤーで、1.9〜50MHzの全バンドに出ていたが、その後少し追加し、40m長ロングワイヤー、25m長ロングワイヤー、50MHz専用のワイヤーダイポール、144MHz専用のグラウンドプレーンの4系統になっている。「こんなアンテナでも十分に楽しめていますよ」と郡山さんは話す。今では、コンテストの度にセカンドシャックに運用に来ている。そのため、同じようにコンテストを楽しむ洋子夫人に気を遣うことなく、自分のペースで運用している。

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上からロングワイヤー、グラウンドプレーン、ダイポール。