[御在所レピータ]

広域レピータの制度ができた後、三重県北部にある御在所山にも広域レピータを設置しようという話が出た。再度松ヶ谷さんに、御在所山へのレピータ設置も面倒を見て欲しいという依頼が来た。すでに朝熊山へのレピータ設置を成功させていたので当然の流れだったとも言える。松ヶ谷さんは、こちらも引き受け、設置場所の交渉から免許申請まで行った。設置にあたっては土地を所有する御在所ロープウエイ株式会社と契約書まで取り交わした。

この御在所山のレピータは、当初から430MHzと1200MHzを準備した。コールサインはJP2YDCと決まった。実際の設置場所は御在所スキー場のスキーリフト山頂駅の片隅に置かせてもらった。標高は1200mあり、抜群のロケーションだった。そのため、東は静岡県の一部、西は兵庫県の一部まで非常に広範囲をカバーした。

松ヶ谷さんは設置に向けて尽力したが、2つ以上の管理団体を1人の人間が代表を務めるはおかしいと話になり、それもそうだと納得し、レピータが無事に設置されるまでは松ヶ谷さんが代表を務めたが、免許がおりたのを機に地元のハムに代表者を託し、松ヶ谷さんは緊急時の連絡者になった。

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御在所山レピータ管理団体のメンバー。後方にアンテナの一部が見える

広範囲をカバーした御在所レピータは、ユーザーも多くいつも電波が出ているような状況であった。しかし便利であった反面、飛びすぎることがあだとなり、特定局による長時間の独占、無変調の送信、またオンエアでのもめ事など、トラブルが発生することもあった。そのため、緊急時の連絡者である松ヶ谷さんのところには、その度に苦情電話がかかってきたという。

そのようなトラブルもあったが、多くのユーザーに支えられ、御在所レピータは稼働を続けた。ところが、数年後レピータからの電波が出なくなった。しばらくして現地の様子を見に行ったところ、アンテナは立っていたが、レピータ装置は置かれていなかった。そのため、松ヶ谷さんは、免許人であるJARLに廃局を頼み、御在所レピータおよび管理団体は活動を停止した。

[デジピータ]

1980年代、アマチュア無線でパケット通信が大流行した。新しもの好きな松ヶ谷さんは、もちろんパケット通信もトライしてみた。やがてパケット通信は局間のリンクを重ね、全国をネットするような広がりをみせ、各地にデジピータが設置されていった。デジピータとはパケット通信専用のレピータのことで、データだけを中継する装置である。

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PRM(パケット通信三重)のメンバー

松ヶ谷さんもメンバーだった地元のパケット通信のクラブ、PRM(パケット通信三重)のミーティングで、三重県中部の青山高原にデジピータを上げようという話が出た。東西に開いている青山高原に設置すれば、2エリアと3エリアの中継が1段で可能になるからだ。クラブには熱心なメンバーが多かったため、話はとんとん拍子で進んでいった。

松ヶ谷さん達は、青山高原の三角点の脇にあるレストランから許可を取り、敷地内にパンザマストを上げさせてもらった。そうしたところ、すぐに「ここは室生赤目青山国定公園の指定地域なので、そんなものを建ててもらっては困る」と言うクレームが出た。話し合いの結果、パンザマストに緑色と茶色のペンキを塗ることでOKとなった。要するに自然の景観を損ねるものを設置してはダメということだった。

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青山高原に設置したパンザマスト

PRMでは、社団局JF2ZUIを開局し、まずは実験的に9600ボーのG3RUHモデムを設置した。しかし、設置場所は絶好のロケーションのため、電波がよく飛びそのためトラフィックが多かった。音声のレピータではないので、レピータ妨害は受けなかったが、あまりにもデータのトラフィックが多く、実用にはならなかったと言う。また、モデムは箱に入れて設置したが、所詮アマチュアの箱であり、空気循環装置なども付いていないため、気温の変化でよくCPUが暴走した。そんなこともあって試験運用だけで、止めてしまった。

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JF2ZUIのデジピータ

その後、「普通の音声レピータを上げようじゃないか」と言うことになり、その迷彩色を施したパンザマストを利用して、地元伊賀市のグループが、地域レピータを上げ、現在に至っている。

[非常時のレピータ]

ところで、2007年の現在、各地でレピータを見直そうという動きがある。レピータは災害発生時に非常通信の中継に使えるからだ。1995年に発生した阪神淡路大震災の時もアマチュア無線が大いに活躍したが、それ以降も、ことある毎に災害時におけるアマチュア無線機の活躍がクローズアップされてきたことも理由の一つである。

端末側の無線機はバッテリー駆動なので、乾電池さえあれば動作する、しかし、レピータは通常AC電源で動作しているので、災害時に電気の供給ストップで動作しないのでは役に立たない。ACが遮断されても最低24時間はバッテリーによるバックアップ電源で動くようにしなければならない。このバッテリーも定期的な充電が必要となるため、非常時にも確実に動作させるためには、相応のメンテナンスが必要となる。

朝熊山にあがっているJR2WAのバックアップ電源用充電装置は、当初松ヶ谷さんが自作したものを使っていた。また、バッテリーは数年ごとに取り替えが必要なので、管理団体のメンバーが協力してバッテリーの調達、交換作業を行っていると言う。このような地道な活動こそが、非常時においてレピータの安定動作を支えていると言って良い。