[米国のハムを訪問]

1981年の盆休みを利用して松ヶ谷さんは米国在住のハムを尋ねた。この時は、葉子夫人をはじめ、松ヶ谷さんの影響でアマチュア無線を始めた向かいの家に住む長井秀夫(JA2VY)さんと長井さんの長男(中学生)、さらに鈴鹿市に住むQSO仲間の渡辺喜内(JA2GPR)さん夫妻の合計6名で渡米した。

松ヶ谷さんらは手配が楽なパック旅行を使って、ロサンゼルスとサンフランシスコを中心に1週間の旅行を楽しんだ。ただし、往復の飛行機とホテルはパック旅行を利用したが、米国内での行動については、パック旅行を全てキャンセルし、米国のハムを尋ね歩いたと言う。

最初に訪問したのは、本連載第12回に登場するロサンゼルス在住のW6NGOケイさんのところだった。当時ケイさんは毎年のように来日しており、松ヶ谷さんは「今度はこちらから訪ねていくから」という話をしていた。このことも渡米した理由の一つであった。その次に松ヶ谷さんらは、同じくロサンゼルス在住のW6CZLマスさんのところを訪ねた。

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W6NGOケイさんの自宅とアンテナ

滞在中の日中は、ケイさんやマスさんが車で各所を案内してくれ、リニアアンプメーカーのヘンリーラジオ社、大手アマチュア無線機器販売店のHRO(Ham Radio Outlet)をはじめ、ハリウッドやディズニーランドに連れて行ってもらった。当時まだ東京ディズニーランドはなかったため、初めてディズニーランドを訪れた松ヶ谷さんはカルチャーショックを受けたという。夜は夜で、毎晩のようにローカルのハムを集めてホームパーティを催してくれた。

[W6NQO]

ある日、ケイさんの案内で、イワタ(W6NQO)さんの自宅を訪ねた。イワタさんは医師で、ロサンゼルスの小高い丘の上に住んでいた。訪問時、ガレージに車が3台駐車されていたため、松ヶ谷さんは「お客さんですか」と尋ねたところ、「えっ?」と返答されたことを覚えている。すぐにイワタさんのところでは、車は家族1人に1台ということがわかり、松ヶ谷さんはここでも日米経済の差に驚かされた。

イワタさんの自宅には144MHz帯のレピータが設置されていた。レピータは当時日本ではまだ免許されていなかったため、松ヶ谷さんは初めて稼働中のレピータの実物をそこで見ることができた。イワタさんの自宅は高台にあって見通しが良いため、ロサンゼルス市内を走る車からも容易にレピータにアクセスできたと言う。

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W6NQOイワタさんの自宅でのスナップ

その他にも松ヶ谷さんは、生まれて初めて見たものが多くあった。まずはコードレス電話。今の日本では珍しくないが当時はまだ認可されていなかった。次に庭のプール。TVや映画ではもちろん見ていたものの、個人宅の実物を見るのは初めての経験であった。その他には、屋外のアイスクリーム専用冷凍庫。当時から米国ではアイスクリームを大量に購入して、冷凍庫で保管し、必要な分だけ出して食していたようだ。イワタさん宅の屋外にあったのはパーティ専用の冷凍庫だった。

同行した葉子夫人は、電磁調理器に面食らったと言う。火も付いていないのに、なぜ調理できるのかが大変不思議であった。「今思うと、まるで30年後の日本を見ているようだった」と話す。ロサンゼルスの後はサンフランシスコに移動し、タツミ(W6IMP)さんの自宅を訪問した。ここでも例によって、ローカルのハムを集めてパーティを開いてくれた。

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W6IMPタツミさんの自宅とアンテ

[クランクアップタワー建設]

松ヶ谷さんの仕事場である松賀屋(まつがや)洋傘店は、自宅兼用であったが、仕事場として手狭になったため、1984年、自宅を移設して仕事場を広げることになった。新しい自宅は仕事場から200m程西に位置した場所だった。

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家の基礎と同時に作ったタワーの基礎

設計は建築士をしていた中学の同級生に頼み、前々から計画していたクランクアップタワーの建柱位置も含めて設計してもらった。そのため家の基礎の中にタワーの基礎も入れてもらったと言う。タワーは、松ヶ谷さんが所属していたNDXAのメンバーの1人が、タワー屋を始めたという話を聞き、「それでは」と言うことでその愛知タワーに頼んだ。注文したのは、全長22mの4段クランクアップタワーで、家の建前に合わせて納入してもらった。したがって、家よりタワーの方が先に完成したことになる。

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完成したクランクアップタワー

初めて上げたアンテナは、14MHzのフルサイズ4エレ八木と、50MHzの3エレ八木、それに衛星通信用の144MHz/430MHzのクロス八木だった。衛星通信用のアンテナには仰角ローテーターも取り付け、狙った衛星がどんな軌道を通ってきても追尾できるようにした。

その後、松ヶ谷さんが興味を持ったアマチュア無線のジャンルが変化すると、それにともなってアンテナも順次取り替えていった。2007年の現在は、夏期における50MHz帯の異常伝搬に力を入れるため、50MHzの8エレ八木をトップに取り付けている。ただし14MHz4エレ八木だけはタワー建柱時から取り付けたままだ。