[JARL移管に憂慮]

すでに新規登録時の事務は、会員獲得に便利であるという理由から、JARL事務局が郵送で受け付けていた。これに対して会員からは「インターネットの時代に何で郵送なのだ」という意見も多かった。水島さんらは「受付の自動化を進めるためにも、また、将来実施するであろう会員向けのメールマガジンサービスなど、会員の利便性を考えるとすべての作業をJARL事務局に移管するほうが全体にとって最適ではないだろうか」との結論を出す。

2003年3月、巣鴨のJARL事務局の会議室を訪問した水島さんをJARL職員や一部の理事が待っていた。水島さんは、KDCFの活躍に対してのねぎらいの言葉を受けたあと、直ちに移管を前提とした打ち合わせに入った。あらかじめ用意しておいた懸念事項を提示する水島さんに対し「そのほとんどはJARLに移管することで解消できる」と返答を受ける。

「内心、本当にうまくゆくのかと心配があったが、全体のことを考えると移管がベターと思って」そのまま具体的な移管スケジュールの検討に入る。「ホッとするやら、何だか悲しいやら、複雑な心境でした」と当時をふりかえる。仲間と試行錯誤を繰り返しながら開発し、その後は普及と管理に全力をあげてきただけに「それまでの苦労がよみがえってきた」からである。その後、どういうわけかその運営はJARL事務局を離れ、アマチュア無線の開局、変更申請などの保証業務を行なっているTSSが請け負っている。

[KDCFの解散]

メール転送サービス業務がJARL事務局に移管されたのにともないKDCFは解散することになる。平成10年(1998年)4月に最初の会合があってからほぼ5年間、インターネットとアマチュア無線の新しい楽しみ方を模索しつづけてきた組織は解散した。活動の歴史は水島さんらしく、インターネットのWebに細かく多岐にわたり掲載されている。その解散に当たっての挨拶文で水島さんは「KDCFはアマチュア無線を愛する多くの方々に支えられた。これからもアマチュア無線の楽しさを多くの人に知っていただくようにしたい」と結んでいる。

その5年間というわずかな期間にKDCFがメール転送に次いで開発したのがQSLカードの電子化であった。水島さんによると「メール転送の運営に目鼻がついたころ、次に何をするかが討議された。いくつかのアイディアが出たなかでQSLカードの電子化がもっとも時宜を得たテーマと言うことになった」と言う。

[電子QSL]

QSLカードに対するハムの考えは千差万別であるが、アワードなどに挑戦する人や、交信による交流を大事にするハムにとっては貴重なもの。ただし、その枚数が増えれば増えるほどその管理は面倒な作業になる。このため、QSLカードのデータをパソコンに登録するハムが増加し始め管理用の「ハムログ」などのソフトが生まれていた。

これらのハムのなかには「最初から交信データをインターネットで送受信できたら」という願望が強まっていた。水島さんらは「米国にe―QSLを開発しているグループがあるということを聞いているが、中身は単にQSLカードをネット上で作るだけのようだ。それなら自力で開発を始めよう」と決断する。といっても交換するデータは決まっており、それほど多い項目ではない。画期的なことはコールサイン、交信日時、バンド、電波型式など交信者同士のデータが自動照合されることであり、合致して始めて交信が認められるようにソフトを組んだことであった。

[電子QSLのメリット]

開発に当たっては「ハムログとも提携し、JARLが制定しているJCC(全市)JCG(全郡)のリストも内蔵させた。開発は平成12年(2000年)に開始されたが開発よりもその後の普及に苦労した」と水島さんらは言う。電子QSLカードの利点をあげると(1)即時性がある。(2)コストがかからない=郵送料が不要。(3)手間がかからない=手書きの必要が無く、パソコン上で出来あがる。(4)正確である=双方データが一致しなければ認められない。(5)管理が楽=コールサインで簡単に交信履歴が引き出せる。などである。

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QSObankのロゴまで制作した

このため、開発後には「QSObank」として話題となり、アマチュア無線雑誌にも取り挙げられ、ガイドブックも発刊された。「JARLアワード委員会からは、電子QSLはJARL発行アワードに有効であると見解を得ています」と水島さんは言う。しかし、その半面では、従来の紙のカードへのノスタルジアもある。水島さんらは言う。「われわれは紙のカードを集める楽しみを奪おうとは思わない。紙と電子、うまく使い分けてほしい」と。

[全国に強力なスタッフ]

この「QSObank」はビジネスモデルとして特許を取得しており、現在、登録者は約7000名。KDCFの理念に沿って「登録して利用している人にも一切経費負担は無い。」サービスである。水島さんはJARLの新しいサービスとして実施したらどうかと理事を通じてJARL理事会に提案したことがある。ところが理事の一部から「JARL事業の根幹を脅かすことになり、けしからんこと」と意見がつき、その理事会では「(検討の)仕切り直し」となり数年が経ている。

電子QSLは利用者からいろいろ要求されている。その一つに「移動運用の移動場所も一致するよう項目を作り変えて欲しい」という要請があり「そこまで必要か」と水島さんらは悩んでいる。また衛星通信の対応も長い課題になっている。

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ハムフェアでも電子QSLサービスの紹介が行われた。

KDCFの解散は電子メール転送サービスをJARLに移管したためであるが、解散にともない電子QSL(QSObank)も「献身的かつ強力なスタッフが全国で支えるようになってきた」と、水島さんはほっとするとともに「毎週利用者が3、40名のペースで増えており、この方々に運営を委ねる方が今後の発展につながる」とKCFが無くなったことを心配していない。こうして、平成15年(2003年)3月31日、アマチュア無線にさまざまな新風を吹き込んだKDCFは解散した。

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電子QSLシステムを説明したチラシ