[D−STARは]

D−STARは、アマチュア無線の分野で初めて日本が世界に先駆けて開発したデジタル通信システムとなった。このため、D−STARは国内のみならず海外でも注目され、また、アマチュア無線にとどまらず、業務用無線からも関心も集めている。そのシステムの概要を紹介すると、電波形式F7W、変調はGMSKであり、電文仕様については「D−STAR規格」を定めている。

したがって、当然のことながら従来のアナログ機や他方式のデジタル機などのD−STAR規格準拠以外の機器との交信は出来ない。ただし、D−STAR機はアナログFMモードを併せ持っているため、従来のアナログFM機との交信は可能である。また、デジタルモードには音声と低速データを伝送するDVモードと、デジタルデータを伝送するDDモードの二つのモードがあるのも特徴である。通信形態は、端末機(トランシーバー)同士の交信、レピーターを介しての交信が出来る。

[DV/DDモード]

これらの概要をさらに詳しく紹介する。DV(デジタル・ボイス)モードの伝送レートは4.8kbpsで、実質800bps程度の低速データ伝送が可能であり、144MHzと430MHz機で採用されている。DD(デジタル・データ)モードの伝送レートは128kbpsで、デジタル映像やデータファイル、デジタル音声などのデジタルデータの伝送や、インターネットとの接続も出来る。比較的広い占有周波数帯域が必要なため、1200MHz機で採用されている。

交信モードは「上位互換」のため、1200MHz機ではDVモードでの運用も出来る。DDモードはD−STARのデジタル伝送の特徴機能であり、D−STARの機能を活用した新しい用途を見つけ出す端末機としても利用されつつある。

[レピーター経由の運用]

D−STARは端末機同士での交信が可能であるが、レピーター(中継機)経由でのさまざまな中継が出来る。1基のレピーターを使い端末同士が交信する「山掛け」中継や、複数のレピーターを5.6GHzや10GHzのマイクロ多重回線で結んだ中継、更にレピーター同士をインターネットで接続して長距離通信が出来る。この結果、日本の隅々まで交信範囲に入れることができる。レピーターを介した交信では、相手局がどこにいても、交信できるレピーターが瞬時に探し出せ、接続可能。

これらのレピーターは徐々に設置が進んでおり、今年(2007年)8月現在、430MHz局が32局、1200MHz局が25局程度に達しており、このうちインターネット利用のゲートウェイ局は45局程度である。D−STARシステムは、日本とともに米国、ドイツで熱心に取り組まれており、米国ではすでに日本を大きく上回るレピーターが設置されている。

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D−STAR交信概念図

[デジタルの特徴]

デジタル電波は、アナログ波に比べその伝搬状態に大きな違いがある。アナログ波の場合は距離に応じて減衰や雑音の障害を受けても、雑音混じりの不明瞭な音声ながらも受信される。ところが、デジタル波の場合は、受信限界点がはっきりしており、受信可能、不可能の距離が明確である。このため、受信可能であれば音声は雑音等の影響をあまり受けず、明瞭に伝送される。

また、デジタル化により、他のデジタル機器との接続が可能となり、その通信用途が拡大することになる。その一つであるインターネットとの接続により、通信距離が延びるだけではなく、さまざまな情報が入手できる。また、GPS(グローバル・ポジショニング・システム)機器の接続により、電波の発信点が交信相手に分り、相手局のパソコン地図上にプロット出来ることも可能だ。従来のAPRSのデジタル版である。

[アナログ派からの反発]

アマチュア無線の歴史の一つは、雑音のなかで聞こえるか聞こえないかの弱い信号をキャッチすることを試みる歴史でもあった。デジタルは、先に触れたとおり受信音声の限界点がはっきりしており「雑音も受信」と楽しんできたハムから反発がある。まして「インターネットを介在させるなど無線通信ではない」との厳しい指摘もある。水島さんは「D−STARはアマチュア無線をすべてデジタル化するために開発されたわけではない」と言い切る。

「アナログを否定するものではなく、アナログとデジタルの良さや楽しさを見分けて共存するもの」と言う。もっとも、過去一貫してアマチュア無線家たちは、アナログ無線を楽しみながら極力雑音を排除する無線機を求めてきた。また、SSTV(スロースキャンテレビジョン)、RTTY(ラジオテレタイプ)、FAXなど古くからスペシャライズドコミュニケーションとしてチャレンジしてきた新しい試みは、デジタル化によっていとも簡単に実現できることになる。

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関西アマチュア無線フェスティバルでのD−STARデモ展示(2004年)

[普及活動]

この「日本初、世界標準のアマチュア無線システム」の普及はようやく緒(ちょ)についた。水島さんはその普及のために先頭に立って活躍した。JARL主催のハムフェア、各地方本部や支部が手がける催しなどで講演を行うとともに、ブースを設けて実演を実施した。

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東京・ハムフェアでのD−STAR実演説明会(2005年)

その活動が認められたためと言っても良いが、今年(2007年)8月号の「CQ ham radio」誌では、水島さんが全面的に取材・編集した別冊付録「やさしいD−STAR入門」が発行された。水島さんが編集面で心掛けたことは「理論的には難しいと言われるデジタルのシステムや端末でも、実際には簡単に使えることを紹介する」ことだった。

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同ハムフェアでのD−STAR討論会。司会する水島さん。