エレクトロニクス工作室
No.117 モバイル型スタンダード・オシレータ
1.はじめに
無線機などの自作をしていますと、周波数カウンタは普通に使用しています。しかし、この精度については以前から気になっていました。これに誤差があると、作った無線機やSGなどにも誤差が出てしまいます。そこで、最近流行っているルビジウム発振器でも入手しようかと思いましたが、水に入れて爆発させるという動画をネットで見てしまいました。こんな恐ろしいものは、とりあえず遠慮する事にします。実は借り物を、ちょっとだけ動かした事はあるのですが・・。
そこでOCXO、つまりオーブンで温度を制御する水晶発振ユニットを使って、持ち運び可能な発振器を写真1〜3のように3台作りましたので紹介します。
写真1 10MHzローインピーダンス出力です。
写真2 10MHzのTTL出力とローインピーダンス出力です。
写真3 26.7MHzの50Ω出力です。高めの周波数が調整に便利な事もあります。
使い方は簡単です。どこぞの周波数カウンタで調整して家に持って帰って使う、という極めてセコイ発想です。この「どこぞ」は会社であったり、OMさん宅であるわけです。だから、多少は大きくてAC100Vを使うコード付きにしても、「モバイル・・」です。
2.OCXO
使用したOCXOは写真4〜6の3個です。今まで貯めたというより、何となく集まって手元にあったというジャンクばかりです。
写真4 その1 ネットワークアナライザに入っていたOCXOで基板に載ったままです。基板としては50Ω出力のようです。
写真5 その2 NDKのOCXOです。10MHzTTL出力のようです。
写真6 その3 NDKのOCXOです。26.7MHzの50Ω出力のようです。
その1(写真4)はHPのネットワークアナライザに入っていた基準用で、これだけは素性が明らかです。10.00MHzで基板での出力は50Ωのようですが、OCXO単体での出力インピーダンスは不明です。図面があったので端子の確認をすると、電源は15Vです。仮配線して測ってみると、投入時には0.42A流れました。
その2(写真5)は日本電波工業の10.00MHzでTTL出力です。カウンタ用のICに接続して基準にする事を考えると、このTTL出力は便利です。電源は12Vと表示されており、実測すると投入時には0.35Aほど流れ、温度が安定すると0.15Aとなりました。
その3(写真6)は日本電波工業製の26.706875MHzです。出力は50Ωで、電源も出力も特殊なコネクタを使っています。電源は-15Vとなっており、実測すると投入時は0.6A流れました。内部を覗くと、断熱用の綿?が詰まっていてずっしりとした構造です。周波数は中途半端で使い難いのですが、素性としては良さそうなユニットです。
いずれもかなり古いものですので、ネットでスペックを探してみても全く解りません。しかし、ピンや電圧は何とか解りました。一般的にOCXOは±1×10-7〜±1×10-8程度の精度があります。普通に考えると、重くて消費電流の大きいOCXOほど高級品といえるでしょう。ただ、実際の誤差は別ものですので、一度調整しておかないと安心して使用できません。手元にあるOCXOを動かす参考にして下さい。
3.回路
その1は図1に示すようにスイッチング電源15V1Aを接続しただけです。そのまま50Ω出力として使う事にしました。従ってカウンタの基準用には使い難い事になります。5Vの電源を作るよりも、受け側でTTLレベルに変換するのが簡単と思います。
図1 その1の回路です。 (※クリックすると画像が拡大します。)
その2はTTL出力の他に低インピーダンス出力を付けました。図2のように、FETでのインピーダンス変換を追加しているだけです。実は何のためにこれを付けたのか、全く記憶がありません。電源は12V0.5Aのスイッチング電源を用いました。
図2 その2の回路です。50Ω出力を設定しています。 (※クリックすると画像が拡大します。)
その3は図3のように、15V1Aのスイッチング電源を接続しただけです。
図3 その3の回路です。 (※クリックすると画像が拡大します。)
このように、あまり回路図と言えるレベルのものではありません。スイッチング電源を使ったのは、このような実験は必ず長時間になり、また電圧に依存するため安定化は不可欠と考えたからです。実験のたびに周波数が変わるのが一番困りますし、意味がありません。どこでも同じ電圧を長時間安定して使える事が第一です。もちろん、小型軽量でないとモバイルする私が大変、という事情も大きな理由です。このような事から、スイッチング電源による出力のノイズについては、初めから考えていません。もちろん、トランスを使った電源などは、全く考えていませんでした。
4.作成
大き過ぎるケースでは、車でも電車でもモバイルする私が大変です。従って、なるべく小型のケースにしています。その1はタカチのCU-21を、その2とその3はリードのPS-12を使用しています。OCXOに見合った電源を固定し、無理なく入れられるケースを選んでいます。
スイッチング電源はアルミ板をL型に折り曲げて台を作っています。15V1Aが写真7、12V0.9Aが写真8です。内部はそれぞれ写真9〜写真11のようになっており、特段の作り方はしていません。3台共に同様の作り方になっています。写真12のように、できるだけOCXOに合ったコネクタを探して利用するようにしました。写真13の右下の穴は、微調整用の半固VR(青の)を回せるようにしました。それぞれ調整の方法を考えておき、なるべく蓋を開けずに調整できるようにしておくべきです。この点ではかなりの失敗をしています。
写真7 TDKの15V1Aのスイッチング電源です。
写真8 TDKの12V0.9Aのスイッチング電源です。
写真9 その1の内部です。
写真10 その2の内部です。
写真11 その3の内部です。
写真12 なるべくOCXOに合ったコネクタを使うようにしています。
写真13 右下の穴は外からの調整用です。
5.校正
試しに某所の校正済み周波数カウンタで測ってみました。当然ですが、ウォーミングアップは相当時間行います。この場合は、3時間程度電源を入れたままで放置しました。もちろん、3時間程度では長期間の安定度は確認しようがありません。本来は、電源を入れたまま月単位で行う位の覚悟が必要と思います。
その結果、その1は9.999,998,13MHz、その2は9.999,999,93MHz、その3は26.706,869,74MHzとなりました。ここは周波数カウンタの校正済みを信じてモバイル側で、それぞれの誤差がゼロ近くなるようにトリマーを回して調整しました。その3についてはメモしておくだけで十分だと思います。
なぜその2の成績が良かったのかを思い出してみると、秋月電子のTVのバースト信号を利用した10MHz標準発振器で校正したことを思い出しました。ずい分と前の事です。その時はトリマーを回し過ぎたような気がしており、多少疑問に感じていました。それで正しかった事が解りました。このようなものは見た目も大事ですが、調整したものが合っているのでしょう。
とりあえず、何時どこで校正した云々の「較正済」シールをテプラで作って貼っておきました。もちろん、公的な証明には全くなりません。個人的に何時合わせたのかの、単なる「メモ」です。一般的にパソコンで出てくる文字は「校正」ですが、電波法的には「較正」を使います。従って、「較正済」のシールにしました。ちなみに、電波法的には問題のない資格を持っていますので・・。
6.終わりに
3台も作ると信頼性はそれだけ上がります。その2は写真14のように周波数カウンタの外部基準として使用中です。これでこのカウンタの精度も上がりました。
写真14 その2は常に周波数カウンタの外部基準になっています。
次はルビジウムかGPSをお持ちのOMにお願いし、再度試せば完璧かと思います。とは言っても、小型とはいえ3台を同時に持ち運ぶのは重かったです。