1.はじめに

7MHzのAM QRP送信機を作ってみました。今までと同じ構成では面白くありませんので、新機能として、No.149で紹介したデジタル制御のマイクコンプレッサを入れてみました。写真1のようなQRPの送信機です。

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写真1 このような7MHzのAM送信機です。

No.133の7MHz AM受信機に入れる送信機を差し置いて、このような単独の送信機を先に作ってしまいました。

2.デジタルマイクコンプレッサ

PSoCを使ったデジタル処理のマイクコンプレッサです。PSoCにはアナログ回路とデジタル回路とCPUが入っており、これらを自由に組み合わせて使える便利なICです。このPSoCの中で図1のような回路を組み、マイクアンプ+デジタルコンプレッサとしています。詳細は、No.149と同じですので参照して下さい。

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図1 PSoCの内部の設定です。(※クリックすると画像が拡大します。)

なお、PSoCの設定についてはNo.149と同様に、一般的なソフトでないのでBEACONのページには置けません。私のHPのアドレスにメールを頂ければ対応します。

3.回路

図2に回路を示します。このような簡単な回路です。発振回路には7.2MHzのクリスタルを用いたVXO発振で、7.195MHzまで下げます。ここは周波数を可変させるのが目的ではありません。7.195MHzの固定周波数まで下げるという目的でVXO発振させています。次にドライバーの2SC1815で増幅して、ファイナルの2SC1815の3パラをプッシュして約1Wの出力を得るという回路です。つまり5個の2SC1815だけでRF部を構成しています。

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図2 全回路図になります。(※クリックすると画像が拡大します。)

LPFは2段として高調波を抑えています。ところが思いの他、2倍波14MHzでの高調波レベルが高く、-50dBc程度でした。QRPですし十分に規定内なのですが、見えると気になります。そこでLPFの出力側に14MHzのトラップを入れました。14MHzで直列共振させる回路で、2倍波は-60dBcとなりました。

マイクアンプとデジタル処理は、PSoCのCY8C29466で行っています。PSoCの内部で3kHzのLPFを入れていますが、PSoCのLPFはスイッチドキャパシタを使っています。AFの高い周波数で高調波が発生するため、600Ωで設計したLCの2.4kHzのLPFを入れて2.4kHz以上はカットしています。後から気が付いたのですが、かなりオーバースペックだったようです。

LM386で増幅し、トランス(ST-60)によってファイナルに変調をかけます。トランスは最初ST-46を使っていたのですが、変調波形がピークで歪むようになってしまいました。ST-60にしたところ、歪も無くなり出力も出るようになりました。小さいトランスでは飽和してしまうのか、直流抵抗が大きく出力に影響するのだと思います。

4.作成

まずはバラックでの実験を行い、動作を確認しました。図3~5のような実装図を作製し、基板を作製しました。3枚共に、作りやすいようにシールド付きのユニバーサル基板を用いています。グランド側は部品面のシールドに直接ハンダ付けしています。この基板で写真2のように動作チェックを行いました。

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図3 高周波部分の実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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図4 変調部分の実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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図5 フィルターの実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真2 バラックでテストを行い、その後でユニバーサル基板を作ってテストをしているところです。

ケースはタカチ電機工業のYM-150を用いました。ちょうど良いくらいのサイズです。ケースの底面にネジが出てくるのも無粋なので、基板を載せるための生基板を写真3のように作りました。そのため、時々このような作り方をしますが、それ以上の意味はありません。これをケースに入れて状態をチェックしているところが写真4になります。配線の作業中が写真5になります。ケースにキズが付かないように、養生用のテープをベタベタと貼っているのが解ります。写真6が完成した内部になります。写真7は裏面からです。写真8はファイナルの2SC1815×3の様子です。基板の小片をハンダ付けし、これにクールスタッフを巻き付けています。多少の放熱効果はあるでしょう。

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写真3 基板を載せるための生基板です。

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写真4 生基板をケースに入れて状態をチェックします。

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写真5 基板間の配線中です。

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写真6 完成した内部です。

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写真7 裏面からです。

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写真8 ファイナルの放熱は、クールスタックを用いています。

5.測定

送信機ですので、まずは出力です。これは電圧に依存します。9Vで0.5W、12Vで0.8Wとなりました。

スプリアスは1W以下ですので、50μW以下と規定されています。0.8Wに対して-42dBc以上必要となります。0~20MHzのスプリアスを測定すると、測定結果1のように2倍波は-60dBc以下ですので全く問題ありません。3倍以上は全く測定できませんでした。

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測定結果1 0~20MHzのスプリアスです。(※クリックすると画像が拡大します。)

帯域外領域におけるスプリアスは、AMですのでキャリアから±15kHzの幅を測定します。もちろん、中心の6kHzは除外します。1W以下とした場合、100μW以下と規定されています。0.8Wとした場合-39dBc以上必要となります。これも測定結果2のように問題ありません。ノイズフロアの高いスペアナのため、APB-3で測ってみたのが測定結果3です。この測定にはマックスホールドが必要なのですが、APB-3にはありません。参考程度という事になります。

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測定結果2 無変調時の近傍のスプリアスです。マックスホールドをしています。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果3 APB-3で測った近傍のスプリアスです。マックスホールドはできません。(※クリックすると画像が拡大します。)

占有周波数帯幅(OBW)は、6kHzに入れば良いのですが、3.5kHzとなり問題ありません。この時の波形が測定結果4です。少々AF段でのLPFを効かせ過ぎのようです。明瞭度を考えると、もう少し甘くするべきでした。OBWは後から測れるようになったため、本機の作製時点では絞る方向にしか向いていませんでした。

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測定結果4 OBWを測定した時の波形です。(※クリックすると画像が拡大します。)

6.使用感

PWMを使う方法もありますが、QRPではあまりメリットもないと考えてトランスを使った変調をしています。PSoCを使っていますので、もう一歩進めてPWM等を試すのも面白いと思います。

測定技術が少しだけレベルアップすると、新しい問題点が見えて来てしまうというイタチごっこのようです。長い間自作をしていますが、満足の行くものが作れた試しがありません。