1.はじめに

No.162ではダイオードを使った「マイクロワットメータ」を紹介しました。この実験をしながら、「今だとICもあるし......AD8307で作ると?」などと考えていました。その結果、ほぼ並行作業で作ったのが本機です。

AD8307はログアンプで、No.11やNo.45No.79でも使いました。データシートでは92dBという広いレンジになっています。これはこれで良いのですが、メータにしてしまうと1~2dB程度の読み取りが精一杯です。そこで、OPアンプで10dB幅の表示に拡大してみようと作ったのが、写真1のマイクロワットメータ2です。このように作る事で、0.1dB程度の読み取りが可能となりました。もちろん比較はできますが、誤差は別問題です。ICの持つ周波数特性もありますので、校正した周波数付近でしか正しいとは言えません。No.162と比べて一長一短と言えるのでしょう。

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写真1 このようなレベルメータです。

入力にジャンクの可変アッテネータを使う必要があるのは良し悪しで、ネックにもなります。部品的には、No.162の方が問題がないとも言えます。

2.回路

写真2のように実験して回路を決めました。AD8307のユニットは別に作ってあったものを使い、OPアンプの回路を試しているところです。たぶん秋月電子のキットで作った、電界強度計の残骸でしょう。

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写真2 実験中の様子です。

試行錯誤を繰り返し、図1のような回路としました。AD8307の出力を5~10倍に増幅し、-60dBm以上はOPアンプが飽和する手前の3V程度にします。引き算回路で-72dBmに相当する約0.7V以下をカットします。このようにして、-70~-60dBmの10dB幅をメータに広げて表示しました。2dBは余裕として残していますので、正確には12dB幅です。最終的には半固VRで調整するので、大雑把な表現ではあります。AD8307としてはもう10dBm下げる事も可能ですが、目盛がリニアではなくなり使い難くなりました。これはデータシートの通りです。逆に10dBm上げてみたところ直線性は同じ程度で、特にメリットもありませんので-70~-60dBmを基本レンジとしました。

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図1 回路図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

入力には50Ωの10dBステップのアッテネータを入れています。MAX70dBですので、レンジとしては-60~+10dBmの7つとなり、-70dBmまで測れる事になります。測定器としてちょうど良いあたりでしょう。アッテネータが+20dBm程度までは耐えられそうですから、最小を-50dBmレンジにするという考えもあるとは思います。使ったアッテネータはジャンクを自分でオーバーホールしたものですので、同じようなものを探してみてください。このような使い方では、自作よりも品質の良い正確なアッテネータの方が良いと思います。

3.作成

いつものように図2のような実装図を作成し、ハンダ付けをしました。途中の写真を撮り忘れてしまい、ケースに入れた後になりますが写真3のように基板を作りました。部品面がアースの、サンハヤトの基板をカットして使っています。ケースへの取り付けには、秋月電子で入手した「貼り付けボス」を使っています。ケースの底面とはいえネジを出したくない事と、基板をケースから浮かせて余分な迷走電流を流さないためです。

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図2 実装図です。部品面がアースの基板を使っています。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真3 ハンダ付けした基板です。

ケースはリードのPSA-3を使用し、写真4のように穴あけをしました。このようにU字型に折り曲げたケースは、前後にペナペナしやすい構造です。特に高さがあると顕著です。そこで、写真5のように外側に養生用テープを貼り、内側からアルミの隙間にエポキシ系の接着剤を流し込みました。もちろん引く力には弱いのですが、押す力にはかなり有効です。更に写真6のように、基板の切れ端を貼って強度を上げてみました。これだけで「しっかり感」が違ってきます。完成したところが写真7です。またケースの前後に長いネジを通し、メータの裏に貼り付けボスで固定し、裏パネルはナットで挟むようにして固定しました。これで前後のパネルが固定され、更に「しっかり感」が増しました。

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写真4 リードのPSA-3に穴あけしたところです。

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写真5 養生用テープを貼り、接着剤で隙間を埋めました。

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写真6 更に基板の切れ端を貼り付けました。

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写真7 ケースの内部です。前後に長いネジを通して強化しています。

メータは写真8のような、変調度計目盛のジャンクを使いました。この目盛を外し、パソコンのソフト「METER」を使い写真9のように作り直しました。これを貼り付けたところが写真10です。フルスケール1.5mAの電流計ですが、1mAでも2mAでも半固VRで調整できると思います。

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写真8 使用したジャンクのメータです。

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写真9 下が外した目盛です。上がパソコンで作った目盛です。

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写真10 作った目盛を貼り付けたところです。

アッテネータがしっかりとした作りですので回転が重く、いつも使う丸いツマミでは回し難いフィーリングでした。そこで今回は矢印型のツマミを使っています。これなら握って回す必要がないので、アッテネータのバネに負けません。軽く回せます。

パソコンで表示を作って貼り付け、写真11のような前面パネルにしました。特にアッテネータの表示はパソコンで作るのが一番簡単できれいに作れます。

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写真11 完成したところです。

4.調整

このような測定器は調整が重要です。No.162でも同じですが、基準となる信号と1dBステップの正確なアッテネータが必要です。周波数によって多少のズレが出ますので、基準の周波数と誤差を明らかにし、表でも付けておければ完璧と思います。

基本的には、フルスケールになるべきレベルになるように、アッテネータ等を設定して信号を入れます。ゲイン調整でICの1ピンが3V程度になるようにします。次にメータの振れがフルスケールの位置となるように、フルスケール調整用VRを調整します。入力信号を10dB下げ、メータの振れが-10dBになるようにゼロ点調整をします。フルスケールの位置もずれますので、何回も繰り返して合わせ込んで行きます。普通はゼロ点調整というと、無信号時にゼロに合わせるのが普通です。この半固VRは引き算するレベルを調整しますので、フルスケールのレベルより12dB低い値が振れなくなる値になります。あるいは10dB低い値を入力して目盛に合わせます。

メータのフルスケールはゲイン調整でも可能です。しかし、誤って過大なレベルを入れた時にメータを壊さないために、極端な電流が流れないようにしています。

5.使用感

AD8307は手持ちに3個あったため、特性の差を比べてみました。5dB近く差が出たものもあり、やはり個々に調整をする必要がありそうです。最近では海外で極端に安く入手できるようですが、気楽に使えるならば、応用の幅も広がります。もう古いICの部類に入るのでしょうけど、いつになってもアイデアは出てくるものです。

メータの目盛が直線にできるのは使いやすいですし、10dBの幅があると便利です。これはNo.162の弱点をカバーします。