1.はじめに

7MHzはその上側と下側にAMの放送局が並んでおり、影響を受けやすいバンドになっています。上側の方が「やっかい」と言われていますが、下側にも十分に強力な電波が並んでいます。これを避けるためには7MHzのアマチュアバンドだけを通過させる、鋭いBPFが必要になります。

アマチュア的には、今までトロイダルコアを使ったものや、同調回路を使ったBPFしかありませんでした。JA3NPLさんのHP(http://www.geocities.jp/ja3npl/)に7.37MHzのセラミック発振子を使ったBPFが紹介されている事に気が付き、追試をしてみました。7MHzルーフィング・フィルタの中の「その4 セラミック素子 ラダーフィルター」です。その1から5までありますので、読まれると面白いと思います。

写真2のような3端子の発振子ですので、これをフィルタに使うという発想は私には全くありませんでした。素晴らしいアイデアと思います。写真1のように試作し、測定して使ってみました。性能的には、他に見られないようなバッサリ感があります。特に旧式のリグや、自作のリグでは抜群の効果がありそうです。

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写真1 セラミック発振子を使ったBPFです。

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写真2 使用した3端子のムラタ製セラミック発振子です。

2.回路

ムラタの7.37MHzのセラミック発振子(型番CSTLS7M37G53)を6個使用した図1の回路になります。JA3NPLさんのサイトでは、同じ7MHzでも4種類のフィルタが紹介されています。私の追試した図1はスタンダードな仕様ですが、この他に周波数を少し動かしたバージョン等があります。

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図1 回路図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

部品として一番大事なセラミック発振子は、RSオンラインにて1個16円ほどで購入できました。6個で96円ですので非常に安価で作る事ができます。もっとも10個単位での購入になりますし、別途の送料もかかります。まあ10個で発注する事もないでしょうけど。今では多少値上がりをしているようですが、それでも十分にコスト以上のフィルタが作れます。最近ではマルツでも通販している事に気が付きました。昔々には品番をメモして、秋葉原の心当たりのある店を回って探したものです。今では家に居ながらレアな部品も探せるという、良い時代になりました。

横道でしたが、最初はこの回路をバラックで組み立てて、ざっと測定してみました、その結果はJA3NPLさんの記事のとおり、高性能のフィルタを作る事ができました。このままでは構造的に不安定ですので、しっかりと作り直す事にしました。このように作っておけば、次のトランシーバを作る時の実験も簡単にできます。

3.作製

この回路を、部品面にシールドの付いているユニバーサル基板に組み立て直す事にしました。最近秋月電子で入手できる、C基板のサイズです。コイルは手持ちのチップタイプを使いました。いつものように実装図を作成してからハンダ付けします。これが図2になります。コイルは下側に端子があるのですが、少々間隔が狭すぎるためカッターでこじって両方の端子を曲げています。写真3の右側がノーマルなもので、左側が間隔を少し広げたものです。ハンダ付けが容易になるような加工です。このチップのコイルは、部品面ではなくハンダ面に付けました。ところが、この基板は両面スルーホールとなっており、部品面でアースにするとハンダ面でもアースになってしまいます。そのため未使用に見えても、チップのコイルが触れてはならない部分があります。この部分にカプトンテープを貼って、絶縁したところが写真4です。これを跨ぐようにチップのコイルをハンダ付けしたところが写真5です。後で考えた事ですが、面倒な処理をするよりも普通のユニバーサル基板を使った方が良いかもしれません。入出力間に銅のテープでも一本貼れば十分のように思えます。

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図2 実装図になります。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真3 使用したチップタイプのコイルです。左側のはカッターでこじって足を広げています。

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写真4 カプトンテープで絶縁処理をしています。

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写真5 チップタイプのコイルをハンダ付けしたところです。

5.5t:2tのコイルはFB801に巻いています。普通に巻いていますので、6tと変わりません。但し2tを取り出すタップは、写真6のように調整できるようにしています。ここで最良のポイントを探せば良いと思っていました。ところが2t以上の位置を探ろうとしたところ、穴の中になってしまいました。巻き方を反対にすべきだったのかもしれません。じっくりとタップの位置決めをすると多少の変化が出るかもしれませんが、特性的には2tで何の問題もありません。とりあえずこのままにしていますが、タップによっての変化は試してみたいです。

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写真6 タップの取り出し方です。調整ができるようにしています。

入出力には大宏電機のTMPコネクタを使ってみました。BNCコネクタほど場所を取らないため、このような使い方にはちょうど良いと思います。但し、入手的には問題があるため、今では安価に入手できるSMAコネクタをお勧めします。このようにして、写真7の基板を作りました。

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写真7 完成した基板です。

今回は実験として作っていますので、ケースには入れない事にしました。ただ、このままでは破損してしまいますので、写真8のようにアクリル板の上にネジ止めしておきました。

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写真8 アクリル板の上に固定して完成としました。

4.測定結果

作製後にスペアナを使って測り直したのが測定結果1です。バラックの状態でテストした時と、ほとんど変化はありませんでした。周波数がそれほど高くないためでしょう。写真9のトロイダルコアを使ったフィルタの特性は測定結果2です。比べてみると一番気になるバンドの上側にある放送波は、本機の方が良く除去しそうです。それにロスも少なくなっています。小型で安価に作れるのは大きなメリットです。何しろトロイダルコアもT-106のサイズになると、結構な大きさと値段になります。但し測定結果3のように0~50MHzで測ると、15~20MHz付近に通り抜ける周波数があります。もちろん受信機に同調回路がありますので、問題にはなりません。どうしても気になるのであれば、簡単なLPFでも入れれば十分と思います。ちなみに測定結果4がトロイダルコアを使ったBPFを0~50MHzで測ったものです。

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測定結果1 本機を7.1MHzを中心として1MHzのスパンで測ったところです。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真9 比較したトロイダルコアのBPFです。

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測定結果2 トロイダルコアのBPFを同様に測ったものです。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果3 本機を0~50MHzで測ったものです。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果4 トロイダルコアのBPFを同様に測ったものです。(※クリックすると画像が拡大します。)

試しにIC-7300のウォーターフォールで比較してみました。測定結果5がフィルタなしです。アンテナはプアなロングワイヤーですので、入力レベル的には低めと思います。本機を入れたところが測定結果6です。バンド外がバッサリと落ちている事が判ります。もちろん通過ロス分はレベルが下がります。写真9のフィルタの周波数を、7.1MHzに合わせたところ測定結果7のようになりました。当然ですが、どちらもスペアナで測った結果を別の方法で確認した事になります。

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測定結果5 IC-7300を使って、直接アンテナを接続したところです。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果6 本機のフィルタを入れるとこのようになりました。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果7 トロイダルコアのフィルタを入れてみたところです。(※クリックすると画像が拡大します。)

JA3NPLさんのサイトには、7.205MHzをカットするために全体の周波数を少し下げたバージョンもあります。これだとバンドの上側のロスはありますが、CWバンド優先とすれば効果は大きいと思います。

5.使用感

使ってみると、その効果が良く解ります。7.2MHzの少し上にある放送波を完全にカットする事は不可能ですが、大陸からの強力な放送や国内の放送も、十分な程度までカットできました。

特に少々古い受信機の前段に入れてみたところ、ノイズが減り聞きやすい受信機になりました。次に作る7MHzのトランシーバには内蔵してみようと思っています。