1.はじめに

7MHzのCWトランシーバはNo.52,53でも紹介しました。今回は熊本シティスタンダードの基板を利用し、DDSを使って作る方法を考えてみました。30年以上前に自作派の間で一世を風靡した熊本シティスタンダードです。今でもこの基板を手にすると、「何をどう作ろうか?」と考えるのが楽しくて仕方ありません。まあ、私くらいかもしれません。コイルの手巻きに課題があって、ここで躓いた人が多いと言われています。FCZコイルが無くなった現在では、なおさら敷居が高いのかもしれません。私としては、基板を見ると今でも自作熱が上がってしまいます。最近ではサイテック(http://www.cytec-kit.com/)で復刻基板が入手できますので、安心して製作記事にする事ができます。

このようにして、写真1のような7MHzのCWトランシーバを作ってみました。入力にはNo.166で紹介したセラミック発振子のBPFを、早速ですが利用しています。トランスバータ基板のVXO発振回路は使わずDDSで発振し、アンプだけ使っています。送信時にはミキサーを使わずに、直接送信周波数を発振させています。CWならではの作り方です。

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写真1 このような7MHzのCWトランシーバです。

2.構成

一般的に熊本シティスタンダードを使用すると、送信側も受信側に合わせて同じ周波数変換をする構成になります。SSBトランシーバだと一般的な作り方です。CWでも同じように作るのが一般的だったと思います。どうやってキャリアを入れるのか、が考えるポイントだったのでしょう。当時の発想としてはこれで普通でしょう。しかし、最近の作り方でDDSを使う事を前提として考え、図1のように省略して作る事としました。

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図1 このように熊本シティスタンダードを使ってCWトランシーバにしました。(※クリックすると画像が拡大します。)

DDSは周波数を簡単にジャンプさせる事ができます。従って受信中はIFの分だけ周波数をシフトしていたものを、送信中はシフトせずに表示の周波数を発振させます。そのままトランスバータ基板の送信側アンプに入れれば良い事になります。当然ミキサーがないのでスプリアス的には有利となり、高調波のみに注意すれば十分となります。

SSBジェネレータの送信部は使用しないので無駄になるという考えもありますし、DDSを使う方が大変という考えも当然あります。そこはメリットとデメリットの交差する部分になるので、どちらが良いというものではありません。このようにSSBジェネレータ基板とトランスバータ基板を改造し、CW用として使用してみました。

3.回路

SSBジェネレータ基板は図2のような回路としました。表現し難いのですが、実際にはSSBではなくCWの受信用基板になります。受信側だけを使用し送信側の回路は使っていませんので、少々無駄な使い方です。IFは480kHzの800Hz幅の世羅多フィルタを使っています。これはJA9TTT加藤さんが、CQ誌やブログで紹介されたフィルタです。回路は図3になります。キャリア発振回路は、IFフィルタと同じセラミック発振子を用い、コンデンサで周波数を下に引っ張っています。これで十分に下げる事ができました。もちろん455kHzでも同様に使えるはずです。480kHzの方がイメージ的に多少は有利になるかと考えただけです。

トランスバータ基板は図4のような回路としました。トランスバータ基板の中にDDS基板を入れるような形にしています。図5の左側のDDS回路が、トランスバータ基板に含まれています。右側のCPUは別の基板としています。このDDS基板は最近では値上がりしていますが、AD9850を使った中華製のユニットです。このユニットを多量に買い込んだため今でも使っていますが、これから考えるのであればSi5351の方が良いのでしょう。またAD9851や、ディスコンとなった秋月電子のキットでも使えるはずです。もちろんソフトの修正等は行う必要があります。なおDDSの基準は125MHzの発振器を外し、48MHzに交換しています。発振周波数も低いので、消費電流を減らすのが目的です。もちろん125MHzのままでも使えますが、発振器が熱を持ちます。

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図2 SSBジェネレータ基板はこのようにしました。(※クリックすると画像が拡大します。)

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図3 世羅多フィルタの回路です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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図4 トランスバータ基板の回路です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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図5 CPUとDDSの回路です。(※クリックすると画像が拡大します。)

DDS出力は、受信側はトランスバータ基板のVXOのアンプに直接入力し、DBMをドライブします。送信側は、直接送信回路のアンプにバイパスします。従って本来はDBMから送信側アンプに入る部品がありますが、不要になりますので外しています。送信側アンプのFETにKEYが付けられるような変更もしています。

受信機の入力には、No.166で作ったセラミック発振子のBPFを早速使っています。ファイナル部の基板に入れ、アンテナの切り替えやLPFと一緒に押し込みました。この回路は図6になります。組み立ててから気が付いたのですが、このBPFの有無の違いを確認しておくべきでした。すっかり忘れていましたが、組み立ててからでは少々億劫でやっていません。

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図6 ファイナル部の基板の回路です。(※クリックすると画像が拡大します。)

この他に、サイドトーンを作る図7のトーンジェネレータ基板があります。

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図7 トーンジェネレータ基板の回路です。(※クリックすると画像が拡大します。)

4.作成

写真2のようなIFが11.2735MHzのクリスタルフィルタで作っていたSSBジェネレータ基板を使う事にしました。昭和58年(1983年)1月23日に組み立てた事が写真3でも分かります。その頃に秋月電子で売っていたキットか、基板だけで買ったものでしょう。ただ部品だけ見ると、10μFのケミコンやトリマーはキットとは明らかに異なる部品です。ハトメにハンダの跡がないので、トランシーバにはしていません。目的が何だったのかは全く覚えていません。この頃は、こんな感じでSSBジェネレータ基板ばかり沢山作っていました。たぶん10台程度は作ったのでしょう。専用の調整ボードまであった位です。

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写真2 熊本シティスタンダードのSSBジェネレータ基板です。

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写真3 作った日付まで書いてあります。昭和58年です。

このSSBジェネレータ基板を改造し(作り直し?)、CW用受信基板にしなくてはなりません。まずはIFを480kHzの世羅多フィルタにしますので、フィルタと受信側のコイルを外しました。送信側は使いませんが邪魔にもならないため、ここでは外しませんでした。また、ケミコンを全交換するため、これも外しました。このようにして写真4のようになりました。この後で、気が付いて外した部品もあったかと思います。このような部品の取り外しには時間がかかります。最初から新しい復刻基板を使った方がずっと早く、しかも綺麗にできます。

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写真4 使わない部品と、交換する部品を外したところです。

まず、外したクリスタルフィルタの代わりに、写真5のような480kHzのセラミック発振子を使った世羅多フィルタを作りました。部品面がアース付きの基板で作っています。この特性は測定結果1のようになりました。周波数は480kHzより低い467.85kHzで、800Hz程度の幅です。ハンダ面は写真6のように、クリスタルフィルタと同じ間隔で端子を出しました。チップのコンデンサを使っているのが見えます。もちろん先に特性を確認しておかないと、後からでは修正が面倒な事になります。このようなフィルタや部品に付け替えて、新たにCW用基板としてテストしているところが写真7になります。

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写真5 作成した世羅多フィルタです。

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測定結果1 世羅多フィルタの特性です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真6 ハンダ面です。

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写真7 組み立て直して、動作チェックをしているところです。

トランスバータ基板は写真8のように7MHzのトランシーバにしようと実験したままになっていた基板を利用しました。これはサイテックの復刻基板です。受信側のコイルだけに21MHzが付いていたのを外し7MHzにしました。DDSはトランスバータ基板の使わない部分に穴を開けて固定しました。このDDSの下に5VのレギュレータICがあります。この5VはDDSの他にCPUにも使います。写真9のようにSSBジェネレータ基板とトランシーバ基板を接続し、動作チェックをしました。

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写真8 トランスバータ基板はサイテックの復刻基板です。実験途中だったものです。

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写真9 ここまでの動作チェックを行っている様子です。

受信用のセラミック発振子を使った7MHzのBPF、ファイナルとLPFの入るファイナル部の実装図が図8となります。ここには部品面がアースの基板を使っています。

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図8 ファイナル部の実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

CPUはLCDと一体化させ、ソケットで接続しました。図9が実装図になります。写真9の手前にあるのがこの部分です。CPUとLCD間のケーブルを省略したかったためです。

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図9 CPUの実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

このようなものを作る場合、実験と製作は平行に行われます。この時点で次に考えるのが、サイドトーンをどうするかになります。トランジスタやPSoCで作っても良いのですが、ここは古い秋月電子のキットを使ってみました。DIPスイッチで周波数を切り替える、写真10のようなキットです。内部の部品が写真11になります。これらを接続して再度動作チェックをしているのが写真12になります。このキットはもう入手できませんので、トランジスタ等で作ってみて下さい。モニタにしか使いませんので、多少の歪は関係ありません。

Sメータは写真13のようなハムフェアで入手したジャンクを使いました。まずアクリルのカバーを開け、可動部分を隠す黒いプラスチックを外します。写真14の状態です。これには「OUTPUT POWER」と書かれていますので邪魔です。これは裏返しにして戻します。次に針を曲げないようにして目盛板を外します。目盛板が黒ですので針は白になっています。これでは使い難いので、写真15のように赤のポスカで針を塗ります。厳密に言えば針の重さが増して振れ方が変わるはずですが、元々がラジケータですので気にする事もないでしょう。パソコンで写真16のように目盛を作製します。私は専用の「Meter」というソフトを使っています。写真17のように元の目盛板に合わせてカットします。写真18のように組み立ててSメータの完成です。

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写真10 サイドトーンに使った古いキットです。

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写真11 入っていた部品です。

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写真12 ここまでを接続して、また動作確認をしている様子です。

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写真13 Sメータに使用したジャンクのラジケータです。

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写真14 アクリルのカバーを開けて外します。

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写真15 赤のポスカで針を塗ります。

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写真16 作成したSメータの目盛です。

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写真17 これを元の目盛に合わせてカットします。

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写真18 このようにSメータに変身です。

ケースはタカチ電機工業のYM-250を使い、写真19のように穴あけをしました。写真20がリアパネル側です。LCDの穴は黒のポスカで処理をしています。写真21は基板を固定し、配線しようとしているところです。ここでケースにキズを付けては仕方ないので、危なそうな箇所は養生テープを貼っています。写真22が完成した内部です。写真23がケースの裏面に付けたファイナル部の基板です。下の方に並んでいる青い素子が7MHzのBPFです。写真24が裏面に付けたサイドトーンの発振器です。

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写真19 YM-250に穴あけをしたところです。

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写真20 リアパネル側からです。

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写真21 配線をするところです。養生用テープでキズが付きやすい場所を保護しています。

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写真22 完成した内部の様子です。

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写真23 ファイナル部の基板の様子です。

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写真24 サイドトーンの基板です。

5.ソフト

ソフトは今までのDDSソフトとほとんど同じ作り方をしました。BASCOM AVRを使って作っています。AVRの13ピンのPD7にT+(送信側12V)を、抵抗で分圧して加えています。ここがHレベルになると送信に切り替わったと判断し、DDSの発振周波数をLCDの表示と同じにします。Lレベルになると受信と判断し、LCDの表示周波数からIF分を引き算してDDSの発振周波数とします。上手なソフトではありませんが、以下に置いておきますので参考にして下さい。

ソフトダウンロード

なお、PCの環境はWINDOWS XPで、BASCOM AVRの製品版 VER.1.11.9.8を使ってコンパイルしています。書き込みはAVR ISPmkII ですが、基板のISP端子との接続には自作の変換ケーブルを使っています。これ以外の環境についての確認はしていません。

6.測定

まず、受信機としての感度は良いというレベルではありませんが、不可ではないというレベルでしょう。7MHzですのでガンガン受信できますし、入力のBPFが効いているのか放送波の影響は感じません。まあ非常にプアなアンテナなので、条件が違うと解りません。

送信時のスプリアスは測定結果2のように、2倍波が一番大きく-45dBcとなりました。出力1W以下のケースでは、スプリアスは50μW以下が必要です。-43dBc以上あれば良いので、ギリギリですが問題ありません。帯域外領域は、測定結果3のようになりました。1W以下では100μW以下ですので、-40dBc以下が必要となります。中心の2.5kHz幅を(0.5kHzを除く)見ますと-85dBc以下となり問題ありません。

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測定結果2 送信時のスプリアスです。2倍波が-45dBcですので問題ありません。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果3 近接スプリアスも問題ありません。(※クリックすると画像が拡大します。)

受信時のスプリアスは測定結果4のようになり、トータルで-54dBm以下は間違いありません。全く問題ありません。あまり知られてないようですが、無線設備規則で受信機の不要輻射は4nW以下と規定されています。これを計算すると-54dBm以下となります。トータルですので沢山のスプリアスがある場合は合計を計算する必要がありますが、この場合はその必要もないでしょう。

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測定結果4 受信時のスプリアスも問題ありません。(※クリックすると画像が拡大します。)

7.使用感

最初からブレークインは考えていなかったので、完全に送信側と受信側の動作を分離しており、作りやすくしています。

DDSを使っていますので、周波数の安定度と安心度は抜群です。メカ式のロータリーエンコーダを2個使っていますので、バンド内の動きやすさは抜群です。ただ、AGCのかかり具合については昔から言われているとおり、少々の難があるようです。