1.はじめに

コモンモードのノイズフィルタといえば、写真1のパッチンコアがあります。様々な呼び方があるようで、フェライトコア、クランプコア、クランプフィルタなど、組み合わせを変えたバリエーションがあるようです。さすがにパッチンコアは俗称でしょう。フェライトコアだと材質だけで不十分な気もします。何が正しいのか知りませんが、これを送信機の電源やアンテナに使ってコモンモードを防ぐ事ができます。もちろん、もっと大型のフェライトコアを使った方が効果は大きく、耐電力も上がるはずです。

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写真1 良く使われるパッチンコアです。

そこで、同軸に乗るコモンモードを防ぐフィルタを作ってみました。フィルタではなく、チョークという呼び方もあるようです。私の場合は、送信機に使おうと考えているのではありません。マイクロワットのパワー計やSGの作製や実験をしていると、レベルを下げたのに表示が下がらない等の、思わぬトラブルに遭遇する事があります。このような場合、コモンモードの回り込みがある可能性があります。その確認をするための、強力な効果が期待できる写真2のようなフィルタです。もちろん様々な原因が考えられますので、万能ではありません。ノーマルモードはスルーしてコモンモードのみを阻止しますので、効果がある場合はコモンモードの影響と言う事になります。

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写真2 このようなケースに入れたフィルタを作ってみました。

2.実験

手持ちにあったFT114#43と#77を使ってみる事とし、どの位の効果があるのか試してみました。まず写真3のように、5回巻きでどの位の減衰になるのかを測ってみました。写真4が測っている様子です。測り方としてはコモンモードではなく、ノーマルモードという事になるのでしょう。このようにBNCコネクタにクリップを付けて測っていますので、当然正確なものではありません。ザックリと傾向を見る程度です。FT114#43に5回巻いて測ったのが測定結果1で、FT114#77に5回では測定結果2となりました。コアの材質によって効果のある周波数が、少し異なる事が分かります。つまり#43は高めの周波数で、#77は低めの周波数となり、フィルタとしては組み合わせるのが良さそうだと分かります。

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写真3 FT114に巻いてテストをしました。

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写真4 ザックリな測り方ですが、こんな感じです。

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測定結果1 FT114#43に5回巻きです。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果2 FT114#77に5回巻きです。(※クリックすると画像が拡大します。)

次に巻き方をトロイダルコア活用百科でも紹介されている、写真5のようなW1JR巻きに変え、FT114#43に5回巻いたのが測定結果3です。入出力を離すのが目的のようです。同様にFT114#77に5回では測定結果4になりました。普通に巻いてもW1JR巻きでもあまり目立った変化は解りませんでした。レイアウト的に良さそうに思います。写真6が測っている様子です。

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写真5 W1JR巻きも試してみました。

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測定結果3 FT114#43に5回のW1JR巻きです。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果4 FT114#77に5回のW1JR巻きです。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真6 同じように測ってみました。

更に比較のため、写真1のパッチンコアを写真7のように測ってみると、測定結果5のようになりました。2個をシリーズにすると測定結果6のようになりました。足し算にはならないようですが、減衰量は増加しています。使うのが簡単なため普段の実験では良く使うパッチンコアですが、低い周波数では減衰量があまり大きくなく期待できません。もちろん十分な効果が出る場合もあるでしょう。なお、これらの測定は0~100MHzをスペアナとTGを使って測ったもので、上から2divの位置が基準です。

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写真7 比較のために測ったパッチンコアです。

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測定結果5 パッチンコアの場合です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果6 パッチンコアの2個の場合です。(※クリックすると画像が拡大します。)

3.回路

回路というほどでもないのですが、図1のようにしてみました。私の場合は送信機に使うつもりはないので、電力についての検討は不要です。まあQRP程度には耐えられるとは思いますが、試してはいません。1.5Dの同軸ケーブルが何回巻けるのかだけですが、一応無理なく巻ける7回としました。もう少し巻けると思います。手元にあったFT114#43とFT114#77を用い、W1JR巻きのシリーズとしてみました。HF帯と50MHzを十分にカバーできるようにと考えています。

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図1 一応回路図になります。(※クリックすると画像が拡大します。)

4.作製

集めた部品を写真8に示します。この他に1.5D2Vの同軸ケーブルも必要です。実は手持ちの部品で済ませた結果でもあります。在庫部品の有効活用も大事です。

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写真8 集めた部品です。

W1JR巻きでFT114#43と#77に7回ずつ巻いています。巻き始めと巻き終わりは緩む事のないように、結束バンドで固定しました。また、作業中や測定中にコアが何かに接触して割れたりしないように、プラスチックのケースに入れました。このようなコアは結構もろいところがあり、金属にヒットすると見事に割れる事があります。まあ、普通は同軸ケーブルがガードになるとは思いますけど。

ケースはタカチ電機工業のSW-95を使い、写真9のように手回しのドリルを使って穴を開けました。ダイソーで100円のドリルですが、プラスチックケースの場合この方が丁寧な作業ができます。大きなドリルを使うより良いと思います。ケースの中に入れて、入出力などを結束バンドで固定したところが写真10です。ケースを閉めたところパタパタと動くため、写真11のようにホットボンドで固定しました。ホットボンドは容易に外す事ができますので、作り直しや改造の時に便利です。

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写真9 ケースにはこのように穴を開けました。

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写真10 結束バンドでワイヤを固定しました。

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写真11 ホットボンドでコイルをケース内に固定しました。

注意しなくてはならないのは、アルミ等の金属製のケースに入れてコネクタで入出力する事はできません。せっかく同軸の外線にノイズが乗らないようにフィルタを作っているのですから、金属のケースでコネクタ間をショートしてはNGです。また、フェライトとしても金属が近くにあると影響を受けてしまいます。高周波だからケースはシールドする方が良いだろうと思われる方もおられるかもしれませんが、シールドもアースも時と場合によりです。効果ではなく逆効果の場合もあります。ただ、コネクタに触れないようにし、コアとは離して全体をシールドするのは良いのかもしれません。試してはいません。

作成上で慣れないと最も困難なのが、1.5D2Vとコネクタのハンダ付けではないでしょうか。測定用ですのでBNCコネクタを使っていますが、普段からこのようなハンダ付けに慣れていないと、一回で成功するのは難しいかもしれません。

5.測定

写真12のようにしてスペアナとTGで、心線だけの間で測りました。測定結果7のように10MHzで21dB、50MHzで20dBの減衰と分かります。これはコイル以外に同軸ケーブルの余長の入った結果です。それなりの長さもあり、50MHzでは影響も大きいでしょうし、厳密な測定は難しそうです。使い方からしても、あまり細かい数値に意味はないでしょう。同じようにして外線だけで測ってみると、測定結果8のようになりました。測定結果7と大きくは違いません。また、ノーマルモードのロスを測ったのが測定結果9です。スケールが2桁違いますので注意してくださいさい。50MHzでのロスは0.2dBとなりました。

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写真12 このように測ってみました。

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測定結果7 心線だけの間で測ってみました。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果8 外線だけの間で測ってみました。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果9 普通にBNCコネクタ間で測ったところです。ロスの測定になります。(※クリックすると画像が拡大します。)

6.使用感

これでアッテネータを入れたのに下がらない、というようなケースの第一歩の対策ができます。これで改善するならば、同軸にコモンモードが乗っている事と考えられます。その機器の内部にフィルタを入れる等の対策を考えましょう。あるいはノイズの道を断つ工夫を考えれば良い事になります。