1.はじめに

いろいろな実験や自作をしていると、消費電流の多い回路のノイズが他の回路へ影響を与えてしまう事が良くあります。そして、組み立てたけどトラブル発生となり悩む事になります。例えばDC受信機のAFアンプのLM386は、ボリュームを上げるとこの部分での消費電流が増加します。音声によって電源にノイズが乗ったVXOやRFアンプが影響を受け、ブルルやピィーと発振したりします。これは慣れてくるとAFアンプが原因だろうと想像ができますし、VRの位置で状況が変わるので解りやすい現象です。しかし確認をするためには、電源を分離するのが一番と思います。

そこで秋月電子のキットで、写真1のようなローノイズの電源を実験用として作ってみました。1Aほど流せますので、DC受信機なら影響を受けやすいVXO等の回路の電源は余裕です。AFアンプの電源としても使用できるでしょう。出力電圧は下がってしまうとしても、上手に設定する事で影響を最小限に抑える事ができます。そして、ノイズが遮断できるのは大きなメリットとなります。

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写真1 このように入出力にクリップを付けた、実験用のローノイズ電源です。

2.キット

写真2が秋月電子で購入した「超ローノイズ・プログラマブル可変電圧キット」です。入っている部品と取説が写真3になります。そのまま基板を使っていますが、取り付ける部品は電解コンデンサが1個とコネクタだけです。従って作製の手ごたえは全くありません。ノイズは4.17μVという事ですので、よほど特殊な用途でない限りは十分でしょう。ちなみに一般的な3端子レギュレータICでは、電圧にもよりますが40~120μVです。従って、桁違いに良い事になります。

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写真2 秋月電子で購入した「超ローノイズ・プログラマブル可変電源キット」です。

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写真3 入っている部品は基板とコンデンサとコネクタだけです。チップ部品はハンダ済です。

3.作製

入力も出力も付属のコネクタは使用せず、クリップを直付けしました。個人的な感想ですが、どうもこの手のコネクタは線が抜けてしまいそうで苦手です。他にハンダ付けするのは電解コンデンサが1個ですので、基板はすぐに完成します。どの程度の電流を流すかは、実験用ですので今のところ不明です。従ってキットの説明書にありますが、写真4のように基板直付けで放熱器を付けておきました。これは放熱器用を専用のシールで貼り付け、更に外れないように少しだけエポキシ系の接着剤で補強しました。このようにすると電圧を設定するDIPスイッチが反対側になってしまい、使い難くなります。これは今一つの構造と思いますが、とりあえず支障はないでしょう。写真5のように、DIPスイッチの操作もできるようにしました。こんな事が可能なのは、高熱伝導性のpanasonic エクール基板を使っているためです。普通の基板では効果は望めないと思います。

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写真4 放熱器を基板に直付けしています。

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写真5 DIPスイッチは反対側ですが、操作に支障はありません。

実験に使った場合に、他に接触する事も考えられます。電源ですので、下手をすると何かを壊す原因になります。そこで仕上げでもないのですが、樹脂製のカラーをナットで止めて多少は接触し難くしています。クリップを付けたワイヤーは基板面でテンションが加わり切れやすくなりますので、結束バンドで固定しています。また、絶縁用のカプトンテープを写真6のように貼っています。DIPスイッチの部分には切れ込みを入れていますので、操作に支障はありません。もちろんですが、このような対策をしても完ぺきではありませんので、使う時には十分な注意が必要です。

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写真6 絶縁用のカプトンテープを貼っています。

4.測定

オシロで比較しても、どの程度の効果なのか解らないと思います。そこで、パソコンのFFTソフトを使って電源のノイズをチェックする事としました。使ったのはWaveSpectraというソフトで、「efu's page」(http://efu.jp.net/)にあるフリーソフトです。今まで、この「エレクトロニクス工作室」の中でも何回か使用させて頂いています。パソコンのMIC端子に直接電圧を加える事はできませんので、途中に電解コンデンサを入れて直流をカットしました。

動作チェックのために、ノイズの多い電源を探しました。写真7は、いつも机上で実験用に使っている12.5Vの電源です。無負荷の状態をWaveSpectraで見ると、測定結果1のように電源の50Hzの倍数に結構なノイズがあります。黒がリアルタイムの表示で、赤がピークホールドとなります。作ってから30年以上経ちますが、ケミコンの交換など一度も行った事はありません。まあ、少々ガッカリするような結果ですが、普段の使用状況で問題が起きた記憶はありません。

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写真7 ノイズの多い電源を探しました。

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測定結果1 無負荷の状態で出力を測ってみました。(※クリックすると画像が拡大します。)

ここで常時接続しているNo.101で作った「ハンダ付け排煙システム」の、LED照明と排煙用のファンを同時にONしてみました。すると測定結果2のように、とんでもなくノイズが増えてしまいました。特にファンのモーターは、回転と共にノイズの周波数が上がり影響が大きいようです。ここで本機を通してみたところ、測定結果3のようになりました。本機の出力はパソコンのFFTアナライザのみで、ほぼ無負荷の状態です。元の電源が良くないのは確かですが、測定結果1の状態以上に良くなりました。ほぼノイズレベルと思います。出力電圧は10V程度に設定して測りました。しかし設定電圧を高くして、入力との差が0.3V以下になると、効果が少なくなるのが解りました。同じ形のノイズが出て来てしまいます。シリーズレギュレータですので当然ですが、電圧は0.5V以上の差があると良いようです。この様子については、本機に接続される負荷の状態によっても変わると思います。

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測定結果2 LED照明と排煙用ファンをONするとノイズが増えました。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果3 このまま本機を入れたところ、無負荷よりも良くなりました。(※クリックすると画像が拡大します。)

5.使用感

これで何かの実験時に、電源を経由するループを切る事ができるはずです。このようなループは厄介で、オシロ等で原因を追いかけても見つかり難いものです。経験による原因究明が多いのではないでしょうか。原因が解ればCRによるフィルタや、リップルフィルタを入れるなどの対策が解ります。

使用感と言っても、まだ実際に実験に使ってはいません。実験以外としても、ローノイズで使いたいところに最初から使うのも面白そうです。これは測定結果3を見て、つくづく実感した事です。