1.はじめに

はじめにお断りしますが、今回使用するLM373は45年前に入手したものです。従って、現在探す事は困難と思われますし、探すようなメリットは全くないでしょう。基本的にはこのようなビンテージな部品は、製作記事には使用しません。しかし、製作の幅を広げるという意味、昔懐かしい部品を使うという意味、さらに持っている部品は使うという「モッタイナイ」精神とか、古い部品を使いたくなる時はたくさんあります。そんな事で、LM373を使った受信機を作ってみました。あくまでも参考程度の「読み物」としてください。

当時のメモによると、このICは1974年11月に1200円の大枚をはたいて入手したとあります。就職した直後で、初任給が5万円ちょっとの頃でした。自由に使える資金はわずかですので、本当に大枚という感覚だったと覚えています。LM373というと、何となく可変電圧のレギュレータのような番号です。しかし、実は写真1のような受信機のIFアンプと検波用のICで、当時のCQ誌には写真2のような広告が出ていました。この頃は、まだ信越電気商会だったと思いますし、場所も今より総武線側の道筋でした。もちろん今の秋月電子です。広告の雰囲気の違いに少々驚いてしまいました。当時、今よりさらに技術力の無かった私は、これでオールモードの受信機が簡単に作れるぞと、勝手に思い込んで入手しました。ところが付いてきた写真3のデータを見て「うーん難しい・・」となり、その目的は簡単に消えたのでした。

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写真1 このようなCANパッケージのICです。

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写真2 CQ誌に出ていた広告です。

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写真3 付属の手書きのデータです。

このように昔からの思い入れがあるICなのですが、今ではオールモードに全くこだわりはありません。シングルモードで作る方がスマートで安定に作れると思っています。実際には、今でもオールモードは難しいでしょう。そこで、実験的に写真4のような21MHzのSSB受信機に仕立ててみました。

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写真4 このような21MHzのSSB受信機にしてみました。

2.回路

まずは周波数構成をどうするかになります。このように基本的な部品がビンテージなICですので、入手しにくいクリスタルフィルタでも全く気にせず使う事ができます。そこで、昔ながらの写真5のCB用の7.8MHzのクリスタルフィルタを使う事にしました。

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写真5 7.8MHzのクリスタルフィルタを使いました。

局発にDDSを使ったのではあまりに不釣り合いですので、VXOを使う事にしました。VXOは43.812MHz表示の3rdオーバートーンの水晶を基本波で発振させ、2逓倍して29.2MHzを作りました。ここから受信周波数の21MHzを引き算して7.8MHzにしています。しかし、これは明らかに好ましい周波数構成ではありません。受信なので問題にはなりませんが、送信で使うとたくさんのスプリアスが作られてしまいそうです。IFはもう少し高い周波数の方が良かったかもしれません。

1個しかない貴重なICです。CANパッケージだったのですが、写真6のような上下がオスピンの連結ソケットを用いてDIP化しました。片側のピンは切ってハンダ付けしました。ピンの並びもLM373のDIPタイプと同じにしてあります。図1のような接続ですので、交差するなどの無理なく14ピンのDIPタイプにできます。このようにして、写真7のようなICになりました。もちろん余分なワイヤー長が作られてしまいますので、高周波的にはプラスにはなりません。しかし脱着が自由にできますので、実験は容易になります。それ以上に、ユニバーサル基板やブレッドボードを使う事ができるというメリットがあります。このような場合、当然ですがICの足はなるべく短く配線します。もちろん、ケースに接触しては完全にNGです。

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写真6 DIP化に使った連結ソケットです。これは18ピンですが実際には14ピンです。

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図1 このような接続です。データシートの転用です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真7 このようにDIP化しました。

付いていた写真3の手書きのデータを基にし、7.8MHzのSSB用のIFユニットを作る事にしました。この頃のICのデータシートは今でも検索できますが、最近のICに比べてすごくシンプルです。これだけの機能なのですが、たった1ページしかありません。あまりの違いに驚いてしまいました。

このように実験し、図2のような回路としました。LM373の周辺は、データの回路を基にしてみました。問題点として、AGCがかかると歪むようです。コンデンサの値を変えたり試したのですが、大きな効果はないようです。もっと時間をかけて攻めたいところですが、今回は半固VRの位置でごまかしています。

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図2 全回路図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

そしてトランスバータ基板を付けて、21MHzの受信機としました。RFアンプと周波数変換については、2SK241を用いてサラッと流しています。VXO回路もこの中に入れています。

3.作成

RF部は図3の実装図を作成し、IF部は図4の実装図を作製しました。この通りに基板を作製しました。ミドリの点は部品面でグランドにハンダ付けするところです。基板は秋月電子で購入したシールド付きのCサイズの基板になります。写真8のようにクリスタルフィルタ用のネジ穴をあけました。この部分に写真9と写真10のように銅のテープを貼ってアースを強化しました。これは気休め程度でしょう。

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図3 RF部の実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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図4 IF部の実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真8 クリスタルフィルタのネジ穴をあけます。

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写真9 銅のテープを貼って、アースを強化しました。

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写真10 部品面まで折り返しています。

部品のハンダ付けを行うと、それ程時間もかからずに基板が作れました。そして写真11のように動作チェックを行いました。

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写真11 部品をハンダ付けし、動作チェックをしました。

なお、AFアンプは写真12のサイテックのキットを使うつもりでした。ところが、この後でケースに入れるほどでもないと考え、写真13の生基板の上に乗せる事にしました。写真14のようにアルミLアングルを加工しました。コーナーは45度の角度でカットし完璧のつもりだったのですが、AFアンプがわずかに大き過ぎて納まりません。そこで、モービルハム誌1990年8月号に記事を書いた「VR一体型オーディオアンプ」に付け替える事としました。写真15のようなAFアンプです。これも随分と古い記事になったもので、LM386を10年後も使うという事で書きました。まさか、30年近く経った今でもこの基板を使っているとは、当時は思ってもいませんでした。VRの端子に基板を直付けしてしまうというアイデアですが、回路的には全く普通のAFアンプです。写真15は電源スイッチの付いていないボリュームを使っていますが、この後で交換しています。図3の回路図は修正したものです。AFアンプですので、キットでも何でも大丈夫です。

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写真12 AFアンプは、このようなサイテックのキットを使うつもりでした。

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写真13 このように生基板上に載せるようにレイアウトしました。

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写真14 アルミLアングルも加工しました。

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写真15 AFアンプは昔々に作った基板に交換しました。

完成したところが写真16になります。スピーカは小型ボックス入りのものを使いました。スピーカの裏側からの回り込みがなく、このような用途にはちょうど良いでしょう。工作的にも使いやすく、聞きやすいと思います。写真17がLM373の近辺になります。

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写真16 このように完成しました。

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写真17 LM373はICソケットも使っていますので、2階建てのようになりました。

4.使用感

一応は動いたというレベルで、まだまだ詰めるべきポイントがたくさんあると思います。ICをソケット式にしたので、他に応用する事も可能です。ただ、あまりにビンテージ部品なので、再度使おうと考えるのかは不明です。なかなか面白いICなのですが、AGCのフィーリングは考え物です。付いていた回路図ではどうにもならないフィーリングでした。AGCは外部で考えた方が良さそうに思えます。