1.はじめに

このトランシーバは、JF1RNR今井さんがCQ誌2006年10月号で発表されたものを基本に、少しだけアレンジしたものです。ポケロクの愛称で親しまれており、ネットで検索してみると随分と作られている事が分かります。キャリブレーション(http://calibration.skr.jp/)からキットが出ていますので、キットで作るのも良いかと思います。

私としましては、小型の50MHzのDSBトランシーバを作ってみたいと思っていました。そこで目に留まったのがこのトランシーバです。キットを仕入れても良かったのですが、ICやコイル等の手持ちの部品もたくさん在庫しています。そこで、部品面にシールド付きのユニバーサル基板を使って作る事にしました。今井さんと同じような実装として、写真1のようにまとめてみました。

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写真1 このように作った50MHzのDSBトランシーバです。

2.回路

図1のような回路としました。基本的には今井さんの考えた回路とほとんど変わりません。最初は秋月電子でμpc1037HAが入手できるという情報がありました。これを使ってリニューアルする考えもあるかな、と思っているうちにICが枯渇してしまいました。結局はTA7358Pを使った、ほぼ元のままの回路となりました。

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図1 全回路図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

このような超簡単なトランシーバですので、あまり音質等にこだわる必要はないと思います。ただし、多少アレンジした部分があります。出力のT型BPFはπ型として2個のトリマーで調整し、インピーダンスの合う範囲を少しだけ広くできるようにしました。MIC入力には簡単なLPFを外付けで入れています。これは占有周波数帯幅を意識したものです。高周波のパスコンには0.01μFではなく、0.0022μFを使いました。50MHzですので、この程度の方が良いと思います。図面では長くなりますので222と表現しています。アンテナは電源のR9VとT9Vの切り替えと同時に、トグルスイッチで行うようにしました。このように枝葉的なものであって、基本的な変更は何もしていません。

3.作製

いつものように図2の実装図を作ってから、基板のハンダ付けを始めました。この実装図も今井さんの図面と基本的には同じです。ユニバーサル基板ですので、少しだけ押し込み方の違うところがあります。ジャンパーも2本ほど使う事としました。基板は秋月電子で入手したCサイズのもので、部品面にグランドの付いているタイプです。図2の緑の点は、グランド面にアースするところです。普通の片面基板の実装よりも楽に作る事ができます。もちろん高周波的にも良いはずです。マイク入力のLPFは後から付けたため、基板外となってしまいました。可能であれば入れたかったところですが、結構厳しかったです。写真2が基板を作ったところで、動作チェックと調整、測定までしています。これで目的の性能が出ている事を、納得できるまで確認しました。

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図2 実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真2 基板を作ってテストしているところです。

ケースにはタカチ電機工業のSW-100Bを使いました。これも今井さんと同じです。もう一回り小型にしたいところですが、今回はあきらめました。生基板上に空中配線で組めば、もう少し小型に作れるでしょう。まあ、このような製作記事には相応しくありません。たまには良いとは思いますけど・・。写真3がケースの穴あけをしたところです。個人的にヘッドホンが苦手のため、小型のスピーカを内蔵しています。従って、イヤホンやマイクのコネクタは付けていません。このあたりは好みと思います。

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写真3 SW-100Bに穴あけをしたところです。

電池には006Pを使い、電池ボックスはケースの外に付けています。ケース内部に入れてしまうと電池の交換時に面倒ですので、見栄えよりも使いやすさを優先しています。これも今井さんと同じ考えでしょう。ところで、最近は写真4のようなコネクタ部分が別の006Pホルダーが入手し難いようです。モノタロウではカタログにあります。写真5は秋月電子で入手したもので、これを使用しました。ちょっと固定状態に難点があるかと思ったのですが、電池交換は容易で悪く無さそうです。

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写真4 このタイプの006Pホルダーは入手し難いようです。

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写真5 このようなタイプを用いました。

写真6はスピーカの前に入れる紙を、使う直径に合わせて丸く切ったところです。これがあった方が、内部に線材の切れ端が飛び込んだりしません。一度入ってしまうと取り出すのは困難です。この紙は、オーディオの世界ではサランネットとか保護ネットと呼ぶようです。しかしこのような超安物は、今では入手が困難と思います。高級な布製よりも、紙製の方が無線機には扱いやすいと思います。以前、秋葉原の鈴商でまとめて買ったものの残りで、いつもハサミで切ってサイズを合わせていました。いよいよ残りわずかです。

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写真6 スピーカの口径に合わせて切った、紙製の保護ネットです。

VRやスピーカ等を取り付けたところが写真7です。基板は写真8のタカチ電機工業「貼り付けボス」のASR-9を用いてタッピングネジで固定しています。シールでの固定部分が四角形でケース内に収まりません。そこで、一部を金ノコで切断して使っています。この様子が少々見難いのですが写真9です。右側の「貼り付けボス」が切断してあります。太めに見える青いワイヤーは極細の同軸ケーブルです。シールド線ではありません。意に反して、ポリバリコンへの配線が長くなってしまいました。もう少し基板で工夫できたかと思います。

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写真7 基板を付ける前の状態です。

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写真8 基板の固定に使った「貼り付けボス」のASR-9です。

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写真9 このように基板を固定しました。

マイク入力に入れるLPFは写真10のように押し込みました。ECMの出力に直付けし、シールド線で基板まで配線しています。写真11が完成した内部の様子です。一部はかなり際どい配線になってしまいました。

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写真10 マイクに入れたLPFです。

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写真11 完成した内部です。

4.調整

調整は基板を作った時の動作確認時に行い、ケースに入れてから再度行っています。決して流れのように行っているだけではありません。調整の中で回路の修正も行っています。

まずVXOが発振している事を確認し、発振する幅を調整します。クリスタルは50.2MHzの3倍オーバートーンを使いました。これを基本波で発振させ、3逓倍しています。下げられるのは40kHz程度でした。広げるためにはVXO用のコイルを入れると良いのですが、ダイヤルの減速メカニズムがありません。小さなツマミ一個でチューニングしますので、広げ過ぎると逆に使い難くなってしまいます。半回転で40kHzの変化幅ですので、このあたりでちょうど良いのでしょう。性能と使い勝手のバランスは重要です。もちろん、多少大型に作って、減速のメカニズムを使う方法もあります。

VXOの発振レベルが最大となるように、VXOのコイルを調整します。次に受信側のコイルを回して、受信感度が良くなるように調整します。送信側のコイルとπ型LPFのトリマーを回して出力が最大になるようにします。

簡単に書くとこれだけなのですが、ここで実に苦労しました。何しろ上手く動かないのです。実装図の作成ミスもありました。出力LPFがなかなか合わせられず、試行錯誤を繰り返してしまいました。ファイナルの発振にも手を焼きました。結局は安定動作をさせるために、ファイナルの2SK241の50MHzのコイルとパラに1kΩを入れています。これが無いと今でも発振します。コイルの特性の影響があるのかもしれません。コイルはFCZコイルと同等に巻いたモドキコイルですので、同調はしますが特性は多少異なるのでしょう。

5.測定

測定も基板の作成段階で一度確認し、最終的にケースに入れて再調整後に行っているものです。 出力のスプリアスは測定結果1のようになりました。第2高調波は60dBc以上取れています。VXOの基本波の漏れが一番大きいのですが、45dBcですので充分に電波法をクリアします。この数値は内部の調整で簡単に様子が変わってしまいますので、参考程度としてください。受信時の不要輻射は測定結果2のようになり、これも問題ありません。マイクが直付けでコネクタがありません。占有周波数帯幅は測っていませんが、LPFの設定からすると過変調にしなければ問題ないはずです。

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測定結果1 送信時のスプリアスです。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果2 受信時の不要輻射です。(※クリックすると画像が拡大します。)

パスコンには0.0022μFを使ったと前述しました。試しにスペアナ+TGでパスコンの効果を測ってみました。写真12のような0.001~0.1μFのセラミックコンデンサを、パスコンとして使った時の減衰量の測定になります。もちろん50Ωのラインに入れた場合の特性になりますが、結果は測定結果3~7になります。全て同じ条件で0~100MHzを測っています。下がるピークは直列共振をしている周波数と考えられます。ノーマライズした基準は一番上になります。従って、50MHzでのパスコンの効果は、0.001μFは25dB、0.0022μFは26dB、0.01μFは21dBとなりました。使う事は無いと思いますが、0.1μFは20dBと18dBでした。ザックリとした測定ですが、50MHzでは0.01μFよりも値が小さい方が効果があるという事になります。そこで0.0022μFを使ったのですが、0.001μFでも良いと思います。0.001μFの方がサイズが小さいので、実装が楽になります。

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写真12 パスコンの効果を測った、サンプルのコンデンサです。

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測定結果3 0.001μFです。64MHzに直列共振があります。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果4 0.002μFです。37MHzに直列共振があります。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果5 0.01μFです。17MHzに直列共振があります。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果6 細めの0.1μFです。5MHzに直列共振があります。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果7 0.1μFです。写真12の右端です。4MHzに直列共振があります。(※クリックすると画像が拡大します。)

6.使用感

取りあえずは受信だけですが、感度は思ったよりも良いようです。出力は10mW程度のQRPpです。大声を出してもサイドが広がるだけです。大声を入れると20mWくらいは出るのですが、10mWと考えてトークパワーは3mW程度に抑えると良いでしょう。それ以上は歪みができます。もちろん、個体差で相応の違いはあるはずです。MICアンプのゲインが少なく大声を出さないと試せませんが、付けない方がバランス的に良さそうです。

かなり苦労したトランシーバになってしまいました。しかしできあがってみると、簡単で面白いトランシーバに仕上がりました。この21MHzバージョン等も作ってみたくなりました。「簡単」なトランシーバは何台も作りましたが、その中でも秀作ではないでしょうか。

2018年のハムフェア後になって、ようやく免許が下りました。このトランシーバも新スプリアス対応で通しています。