1.はじめに

オージオメータって何? オーディオメータじゃないの? と思われるでしょう。audiometer と書くのでその通りと思いますが、実際に日本ではオージオメータと呼ばれているようです。健康診断で聴力の検査をする「ピーピー」「プープー」でボタンを押すあれです。どうしてオージオになるのか不思議です。オージオメータで検索するとたくさん製品が出てきますが、さすがに自作はありません。世間一般的に自作するものではないので当然でしょう。ちなみにオーディオメータで検索するとVUメータ等の、いわゆるステレオ関係が出てきます。これはaudio meterと書き、スペースが入ります。このように日本語も英語も言葉として分けられているようですが、私は門外漢なのでよく解りません。

さて、私のように還暦を過ぎた年齢になってきますと、視力、聴力、嗅覚の衰えを感じます。視力は紙の視力表が入手容易ですし、嗅覚はどう考えても無理でしょう。何とか作れるのが、聴力の測定器であるオージオメータです。要するに、感覚のひとつである聴力を知り、残った能力を大切にしようというのが目的です。このようにして、写真1のようなオージオメータを作りました。もちろん遊びの範囲で作ったものですので、診断等に使う事はできません。上記のように述べておきながら、写真1ではAUDIO METERと表示しているのが見えます。後になってスペースは不要と気が付いたのですが、貼り付けた後のため修正は諦めました。

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写真1 このようなオージオメータを作りました。

2.オージオメータ

普通の健康診断で行う検査は1kHzと4kHzを30dBの音圧で聞いて判断をします。これは簡易的な検査で、聞こえないのは既に老化が進んでいるのです。音圧については、健康診断の目的によって変わるようです。耳鼻科に行って精密な検査を行うと、125Hz、250Hz、500Hz、1kHz、2kHz、4kHz、8kHzを使います。各周波数で音圧を変化させて、聞こえる範囲を測ります。

ちなみに私も耳の精密検査を一度行いましたが、この他に耳栓をして気圧を上げ、音を聞く検査もしました。鼓膜等の反応を測るらしく「インピーダンスオージオメータ」とか装置に書いてありました。インピーダンスという名称に反応していただけです。気圧が上がるので「イテテ」と騒いでいると、「静かに!!」と怒られました。このように気圧を上げるような装置は無理ですが、普通に測るオージオメータなら作れない事はないでしょう。

このようなオージオメータを作るとして問題となるのが、音圧の確認方法です。電圧や電流であれば何とでもなりますが、音圧は我々には難しい問題です。ヘッドホンにしても電気回路に比べると、周波数によるレベルの変化が大きそうです。そこで写真2のサウンドメータを用いて、ヘッドホンの音を測ってみました。これが高価な測定器に見えますが、実は2000円台です。これはコンデンサマイクのテストのために仕入れたものなのですが、都合よく流用する事にしました。また、同時に写真3のデジタルテスターでも測れる事に気が付き、両方で試してみました。このようにして、ある程度の正確さは確保できると思います。もちろん数dB程度の誤差を気にしても仕方ありません。なおデジタルテスターは少々問題があり、最終的には使用しませんでした。

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写真2 騒音を測るサウンドメータです。

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写真3 最近のデジタルテスターでも測れます。

3.回路

本来は125Hzから8kHzの7つの周波数を作りたいところです。しかしロータリースイッチを使うとすると、6つが都合としては良いのです。そこで不本意ですが、2回路6接点のロータリースイッチを使い、6つの周波数に絞る事にしました。グラフ1は年齢によって、どのように聴力が変化するかを表します。下がるほど聞こえるレベルが上がりますので、年齢と共に高域から劣化する事を表しています。このように高域から劣化しますので125Hzを省略し、250Hzから8kHzを測る事にしました。

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グラフ1 年齢と共に変化する聴力を表しています。(※クリックすると画像が拡大します。)

まず写真4のようなリサイクル品のロータリースイッチに、写真5のように半固VRを付けておきました。周波数毎にレベル調整を行うための構造です。黄色のワイヤーがロータリースイッチのコモンに、黒のワイヤーは半固VRを接続したメッキ線に繋がっています。これを使って写真6のようにブレッドボード上にCPUとDDSを載せて実験を行いました。先を考えて作っているのであって、ロータリースイッチはそのままケースに入れる予定でハンダ付けしています。このようにして決めたのが図1の回路です。なお、ロータリースイッチはもう一回路をCPUに接続し、周波数の切り替えに使っています。今まで何度も使った中華製AD9850のDDSユニットを用い、出力には600Ωの40dBアッテネータ(2dBステップ)とTA7368PによるAFアンプを入れました。周波数は6波ですのでロータリーエンコーダではなく、ロータリースイッチにしています。このように半固VRを切り替える事でレベルが一定になるようにしていますので、ロータリースイッチの方が都合良いのです。もちろん、使うヘッドホンによって半固VRの調整が必要となります。これは仕方ありません。周波数の範囲は広くないので、高級なヘッドホンであれば調整不要にできないものか・・。なお、アッテネータはインピーダンスが合わないと正しく減衰しません。そのため、アッテネータの入力側と出力側は一応600Ω近くになるようにしています。かなり曖昧なところがありますが、それほど大きな誤差は生じないと思います。

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写真4 使うために端子をきれいにした自己リサイクル品です。

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写真5 半固VRを先に取り付けておきました。ケースに入れてからでは作業できません。

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写真6 ブレッドボードを使った実験です。

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図1 回路図になります。(※クリックすると画像が拡大します。)

試行錯誤をしていて気が付いたのですが、普通の発振器+アンプと少々考え方の異なる点があります。目的からして、電源をONした時にヘッドホンからボコッと出るようなノイズは極力避けたいものです。また、音のON/OFFによってもノイズを出してはなりません。こんな遊びの測定によって耳にダメージを与えるのでは、全くの本末転倒です。図1は一応そのように考えて作っていますが、まだまだ理想的ではありません。電源を入れてからヘッドホンを付けるべきでしょう。また、ヘッドホンで左右を別々に出力するのではなく、片方だけで出力しています。つまりヘッドホンを左右反対に付け替えるという、原始的な方法になりました。これも余計なノイズを出さないためです。スイッチによってON/OFFするために、OFF時にはDDSの発振周波数を100kHzとしています。もちろん絶対に聞こえない周波数です。AFアンプで細工をするよりも、このほうがノイズを出さずに簡単にOFFする事ができます。

4.製作

まず、中華製DDSユニットに付いている発振器の120MHzを3.57MHzに交換します。この理由は、発振器の消費電流が極めて大きいからです。出力を30MHzとか40MHzで使うのであれば仕方ないのですが、オーディオの周波数ですので低い周波数に交換するのが賢明です。もちろん他の周波数でも問題ありません。ソフトは3.57MHzで作りました。なお、元々は正方形の発振器でしたが、手持ちにあったのが長方形でした。基板にハンダ付けするために、少々細工をして取り付けています。この細工を基板裏で行ったところが写真7です。上から見ても全く解りません。LEDを外し、この付近に少し大きめの穴を開けています。そしてこの穴に+5Vのピンを基板に接触しないように通し、ジャンパーで基板の5Vにハンダ付けしています。もう一つの足はNCなので、基板の3mmネジ穴に通して放置しています。

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写真7 DDS基板の発振器を交換し、裏で細工をしました。

メインの基板は図2の実装図を作成して、ユニバーサル基板で作りました。さほどの回路でもないので、C基板と呼ばれる小型のサイズです。高周波ではないので片面だけの基板ですが、グランドがある方が作製は容易なので、グランド付きで設計し直しても良いと思います。写真8は基板が完成し、動作チェックをしている様子です。何回もこのような基板は作りましたが、大体どこかにミスがあるものです。今回は珍しく一発で動作しました。

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図2 実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真8 基板の動作チェックをします。

ケースは写真9のリードP-3を用いました。サイズ的にちょうど良い大きさであり、大げさな作品でもありません。但し、蓋の開くのが上だけですので、基板や大型部品のレイアウトに気を付けます。今回のような場合は、アッテネータをどうやってケース内に入れるのかを考えておく必要があります。

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写真9 ケースに使ったリードのP-3です。

写真10のように穴あけをしました。基板はシール付きのカラーで固定しましたので、ケースの下側にネジは出ていません。余分なネジ穴を出さないための工作です。アッテネータにはNo.141で不平衡に改造した、東京光音製の0~40dBで2dBステップを使っています。使ってみるとちょうど良いステップのようです。細か過ぎず、大まか過ぎずの感じです。写真11のように完成しました。左上に見えるコネクタはISP用です。基板に置くと奥になり過ぎると考え、写真12のように引き出せるようにしました。図2の実装図はこのように作り、ケーブルでひねりを入れているという事です。

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写真10 穴あけをしたところです。

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写真11 完成した内部の様子です。

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写真12 ISP用コネクタは、このようにして引き出します。

正面の左側には、写真13のようにPOWERスイッチとTONEのONスイッチを設けました。音のレベルは写真14のようにケースの上から調整ができます。アッテネータは40dBですので、20~60dBを出力するようにしました。私の年齢ではちょうど良いところでしょう。若ければ0~40dBでも良いと思います。

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写真13 左側に付けたスイッチです。

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写真14 半固VRは上から調整します。

測る時によく解るように、グラフ1をラミネートして貼ったところが写真15です。これがあるだけで、使い勝手が格段に向上します。

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写真15 聴力の年齢変化のグラフを貼り付けました。

5.調整

さて、調整で問題が出てきます。使ったレベルメータは、騒音を測るもので単位はdBAです。これはフラットに測ったものではなく、人間がどのように騒音として感じるかに調整した値になります。これをフラットな音圧とするため、表1のような補正をする必要があります。60dBにおいて、調整すべき値を計算しています。騒音の定義はJIS C 1509で決まっているようですので、これをフラットに戻したものです。1kHzが基準で、8kHzでも-1.1dBですので大きな差ではありませんが、250Hzでは-8.6dBの差になってしまいます。たぶん、これで合っているかと思います。

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表1 騒音計で測った値は、このように補正します。

調整は、アッテネータで設定した値を表1で補正します。この値とレベルメータで測った値が合うように、周波数毎の半固VRを調整します。全体の調整範囲はTA7368Pの1ピンに入る半固VRで調整します。最大レベルで調整するのが良いと思いますので、60dBを例としています。

6.ソフト

VFO等のソフトに比べると単純です。ロータリースイッチによって周波数を切り替えるのと、ON/OFFスイッチによって音にならないような高い100kHzに一時的にジャンプさせるだけです。この周波数に根拠は全くありません。基準には3.57MHzを使用しましたが、それほど細かい桁まで合わせても意味はありません。ここに置いておきますので参考にして下さい。但し、決して上手なソフトではありません。

なお、PCの環境はWINDOWS XPで、BASCOM AVRの製品版 VER.1.11.9.8を使ってコンパイルしています。書き込みはAVR ISPmkII ですが、基板のISP端子との接続には自作の変換ケーブルを使っています。これ以外の環境についての確認はしていません。

ソフトダウンロード

7.使用感

まず、「う~ん歳だな」という印象が第一でしょうか。会社の健康診断では「所見なし」でも、確実に衰えている事が解ってしまいました。1kHzと4kHzの30dBだけだと「所見なし」なのですが、貼り付けたグラフ1で確認してみると明らかに20歳や30歳のレベルではありません。左右の相違もあります。実際に「所見あり」だと、かなり進んでいるのでしょう。あまり嬉しくないのですが、相応に老化しているという事です。

以前に耳鼻科で言われた事は、「余計な暴露をしない」でした。新幹線はすれ違いから離れた左側に座る。自動車内でのオーディオは最小限の音量にする。このような事でしたが、音も「暴露」という単語に少々引きました。受信機等で私がヘッドホンを使わないのは、このためでもあります。電車に乗りながらのヘッドホンステレオなど、とんでもありません。

会社にしばらく置いて意見を聞き、気が付いたところを修正しました。スイッチでON/OFFをすると、どうしてもガサガサと周辺からノイズが入ります。自動的に「ピーピー」「プープー」と繰り返すようにすれば良かったと思います。調整時にはジャンパーピン等で連続発振モードにすれば大丈夫でしょう。作ってみないと気が付かない事がたくさんありました。ただ、気が付いたとしても、2台目を作る事はたぶんありません。これは1台で十分でしょう。

作った後そのまま置いていたのですが、毎年1回とか定期的に測って記録を取っておかないと、全く何の意味もないと気が付きました。そこで、あわてて記録を取るようにしました。これでやっと目的は100%達成です。