1.はじめに

ダイオード用のカーブトレーサはNo.68No.83で紹介し、今まで使っていました。No.68はオシロスコープ上に表示するものです。No.83はLCDに表示するもので、小型で持ち運びに便利でした。これはCMで使う事がありました。その使い道というのが、落雷で破損したダイオードのチェックです。テスターでダイオードの良否判定をしようとすると、それなりの熟練と知識が必要です。完全なショートや断線は明らかなのですが、順方向の特性劣化は厄介です。特にデジタルテスターでは、レンジが勝手に変わってしまい、ますます分かりません。落雷を受ける状態によるのでしょうけど、劣化するケースも相当ありました。

そこで一般的に言われる公私混同とは異なる「逆」公私混同を行い、雷の後にはNo.83のカーブトレーサを持ち込んでいました。これで作業効率が上がり、順方向の劣化状態が明らかになり便利でした。ところが、私も定年を過ぎて嘱託の終了も近づくので、いつまでも放置できません。また、ソフト的に改善すべきポイントもありましたので、写真1のように新たに作成してみました。

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写真1 このようなダイオード専用のカーブトレーサです。右にあるのは試験用ダイオードです。

2.問題点

No.83のカーブトレーサは、ダイオードの特性がどんなものかをザックリと測るのを目的として作ったものです。ですから、立ち上がりの具合や、ハンダコテを当てての温度変化を見て楽しむのには十分でした。ところが、怪しそうなダイオードを片っ端からチェックする場合、ショートとオープンが良く解らないという欠点がありました。それは、X=0とY=0のところに罫線を引いていたのがひとつの原因です。この罫線をX軸もY軸も消してしまえば、完全ショートは表示できます。ところが、完全オープンの場合は、定電流で測っているため測定にならないのです。これは定電流回路を使って0~3mAを0.05mAステップで流し、両端の電圧を測る方法だからです。高抵抗となってしまうと、0.05mAを流す事ができず、測定ポイントを作る事ができません。あるいはポイント間隔が広過ぎて気が付かない事もありました。作った本人がそうなのですから、測定方式を知らない人が解るはずありません。

これらは、ダイオードの特性を測る場合には問題になりませんが、ダイオードの良否判定では問題となります。しかしソフトの工夫により、ある程度はカバーする事が可能です。正常なダイオードを測る場合、測定したポイントだけ表示すれば特性として表せます。下から上にポイントが繋がるからです。ところが高抵抗となると、左右の距離が開き過ぎてしまいます。オープン時の表現もできません。ダイオードは定電流が測りやすいのですが、抵抗の場合は賢明な方法ではありません。電圧を可変して電流を測る方が賢くなります。しかし、測定方法を切り替えるのは大掛かりとなり、簡易な測定冶具には相応しくありません。そこでソフトを変更し、ポイント間は直線を引く事にしました。しかし、実は欠点があり、正常なダイオードの立ち上がりの表現に難点が出てきます。これは後述します。

また、測定電圧は2.5Vまでとしていましたが、これだと立ち上がりの状況しか見る事ができません。LEDやツェナーは限られた種類しか測れません。測定範囲は電圧を上げれば広げる事が可能です。そこでDC/DCコンバータで電圧を上げ、電流も電圧も4倍とするモードを作り、スイッチでレンジを選べるようにしました。

電源はニッケル水素を4本使っていたのを止め、ACアダプターを使う事としました。誤ってアルカリ電池を入れたりすると、電圧オーバーでAVRが破損してしまうとか、電圧の低下でLCD表示が見難くなるような不都合が無くなりました。誰でも間違いなく測れるようになったと思います。実は一番心配していたところでした。

このように改良を行い、少しだけ「本格的」に近づけたカーブトレーサです。もちろん、まだまだ完成の域とは思っていません。

3.実験

電圧と電流の4倍モードを作ろうと考えたので多少のハード変更も必要です。組み立て始めてから変更すると、何倍もの手間がかかってしまいます。そこで何時ものように、写真2のようにバラックを組んで試してみました。これはNo.83の回路で試しているところです。ところがこの旧バージョンの回路で組んでもトラブルが続出し、スタートラインに戻るのも大変でした。何個かのAVRにソフトを入れて試していると、うまく動くICと動かないICがあって、壁に当たってしまいました。どうして動かないのか分かりませんでした。いろいろと設定を変えていて気が付きました。FUSEビットのJTAGENにチェックが入っているとPC2~5のビットに出力が出ません。従ってD/A変換が上手くできず、測れません。JTAGインターフェース用のプログラムに使用されるようですが、本機では不要です。結局はソフトの問題だったのですが、これに気が付くのに時間がかかってしまいました。

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写真2 No.83に戻ってバラックで試している様子です。

そして追加したのが写真3の昇圧型のDC/DCコンバータです。これは秋月電子のキットです。もちろん、キットを作ったところで単体での動作確認をしました。このキットを含めてテストしているところが写真4です。これでハードとソフトの問題点を洗い出し、正常に動作するところまで追い込みました。もちろんこのレベルのカーブトレーサですので、本格的な製品と一緒にしてはいけません。

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写真3 追加で使用した、秋月電子のDC/DCコンバータです。

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写真4 このDC/DCコンバータを加えてテストしている様子です。

4.回路

図1のような回路としました。D/Aコンバータの抵抗ラダーやグラフィックLCDを使っていますので、出力のピン数が多いCPUが必要です。そのためAVRにはATmega164Pを使っています。もちろんI2CのD/Aコンバータでも使うのであれば、もう少し作り方も変わるのでしょう。基本的にはNo.83とほぼ同じ回路としました。オペアンプで引き算をしていたのを、CPUのソフトで行うように試しましたが、どうも思ったように行かず諦めました。OPアンプは2回路ありますので、余らせても仕方ないという事情もあります。

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図1 回路図です。

4倍モードのため、測定用の電源に秋月電子のDC/DCコンバータキットを用いました。これで10Vまで測れるようになりました。ただ、このDC/DCコンバータを使うと、表示にノイズが重なって表示するようになってしまいました。この原因はDC/DCコンバータの出すノイズが、A/Dコンバータの基準電圧に影響を与えていたためです。基準電圧には簡単なCRのフィルタを入れる事で対応できました。後で比べてみると、No.83でもノイズの影響があったようです。実は全く気が付いていませんでした。本機では対策をしたため、ずっときれいにカーブが描けるようになりました。

5.作製

今回は小型に作る目的はありません。普通にユニバーサル基板で作り、アルミ板の上に固定する事として作りました。ユニバーサル基板は、秋月電子のBタイプを使っています。実装図を図2のように作成してから、ハンダ付けをしました。完成したところが写真5です。ハンダ面が写真6になります。

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図2 実装図になります。

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写真5 基板を組み立てたところです。

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写真6 ハンダ面の様子です。

写真7のように2台分のアルミ板の加工を行いました。厚さ1mm程度だとペナペナとしてしまいますので、ここでは厚さ2mmを使っています。写真8のように位置関係の具合を確認します。基板とグラフィックLCDの間は、写真9のようにコネクタを介して接続しました。直付けでも良いのですが、何かのトラブル時にめんどうです。何しろワイヤー数がかなりあります。動作チェックを行い、写真10のようにアルミ板上に固定しました。

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写真7 アルミ板の上に組み立てる事とし、2枚をカットして穴あけをしました。

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写真8 位置関係を確認しているところです。

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写真9 基板とグラフィックLCDの接続にはコネクタを使用しました。

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写真10 アルミ板に固定した様子です。

デモのために、写真11のような「テスト用ダイオード」も作りました。これでシリコン、ゲルマ、LED、9Vツェナーまでの測定が試せます。LEDが明る過ぎて目に悪そうなので、スモークのアクリルをネジ止めしています。もちろんですが、これも2個分作りました。特に選んだわけではなく、手持ちのダイオードの中から各種を選んだに過ぎません。一応図3のような回路になります。ゲルマとか一般的なシリコンは順方向で測るようになっていますが、ツェナーだけは逆方向で測るように作っています。もちろん極性の反転は容易です。比較と調整用に1kΩの抵抗も付けています。これがあると便利です。

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写真11 テスト用のダイオードも作りました。

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図3 テスト用ダイオードの回路です。

6.ソフト

No.83と同じで、BASCOM AVRを使っています。ソフトは表示を少し変更する事と4倍モードを作ったため、大幅に変更する事となりました。基本的な考え方は何も変わっていません。グリッド線を書くための画像データがありますので、テキストだけでは収まりません。必要なソフトは私のHPに置いておきますので参考にして下さい。

なお、PCの環境はWINDOWS XPで、BASCOM AVRの製品版 VER.1.11.9.8を使ってコンパイルしています。書き込みはAVR ISPmkII ですが、基板のISP端子との接続には自作の変換ケーブルを使っています。これ以外の環境についての確認はしていません。

7.調整

調整についてはNo.83と基本的には同じです。4倍モードはソフトで作っていますので、どちらかで調整すれば両方で合うはずです。基本的には、まずLCDが見やすいようにVOの電圧をLCDの半固VRの10kで調整します。ダイオードの代わりに1.5Vの乾電池を付けて、その電圧の位置に垂直に線が表示するようにOPアンプ出力の半固VRの10kを調整します。1.5V位だと×1モードが合わせやすいでしょう。次にダイオードの代わりに1kの抵抗を付けて、1kの傾きになるようにします。つまり1Vでは1mA、2Vでは2mAという傾きです。これは50k半固VRを調整します。

これでダイオードが正しく表示できると思います。ところで、DC/DCコンバータの出力電圧の調整も必要です。×4モードとして、10kΩ程度のVR等をダイオードの代わりに付けて可変します。すると直線が90度近く回転します。この時に右上の隅まで直線が伸びる必要があります。電圧が低いと、途中から上に上がってしまいます。電圧が高過ぎるのも無用ですので、多少の余裕を持った程度にしておきました。

8.使用感

CMでは大規模な設備の保守運用を行っていますので、世間一般で使う測定方法は別として、工夫が必要となるケースが多々とあります。その一つがこのカーブトレーサで、高くて精度の良い測定器は不要なのです。ザックリと測れるもので十分に良否は判定できます。これも趣味のひとつですが、創意工夫が楽しく自宅にある部品で作ってしまうという、実に便利な人です。

テスト用のダイオードを用いて測ってみました。測定結果1は×1モードで、測定結果2は×4モードです。それぞれで測定のしやすいレンジのダイオードを測ってみた結果です。もちろんツェナーは順方向ではなく、逆方向で測ったものです。×4モードでも10Vまでですので、9Vのツェナーが限界です。これは仕方ありません。電圧にしても電流にしても、上限は必ず出てきます。

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測定結果1 ×1モードで測ったダイオードです。(※クリックすると画像が拡大します。)

 ① ショットキー IN60P(ゲルマではありません)

 ② 電源用 RG2Z(200V 1.2A)

 ③ ゲルマ OA90

 ④ シリコン 1588

 ⑤ LED 緑

 ⑥ 抵抗 1kΩ

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測定結果2 ×4モードで測ったダイオードです。(※クリックすると画像が拡大します。)

 ① LED 白

 ② LED 青

 ③ ツェナー 6.2V(逆方向)

 ④ ツェナー 9.2V(逆方向)

 ⑤ 抵抗 1kΩ

テスターで測るのに比べて、格段の使い良さがあります。例えば、リレーの巻線には図4のように逆起電力防止用のダイオードを入れます。この場合は測定結果3のようにリレーの巻線抵抗とダイオードの両方が同時に確認できます。測定結果1の④と⑥を組み合わせたような波形です。つまり0.6Vまでは1kΩで立ち上がり、それ以上はシリコン 1588の曲線になります。これはテスターでも不可能とは思いませんが、結構大変で時間もかかるでしょう。これは会社で落雷によって破損したダイオードを、片っ端からチェックしていて気が付いた事です。図4はリレーだけの回路ですが、このような回路を描くと就職した頃に保守していたクロスバー交換機の書き方になります。

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図4 リレーにはこのようにダイオードを入れるのが一般的です。

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測定結果3 ダイオードにリレーの巻線がパラの状態のまま測ったとことです。(※クリックすると画像が拡大します。)

前述した表示を変えた事による欠点ですが、良く解るのが測定結果1の⑤です。実は1.8V付近まで電流は流れていません。1.8Vで電流が流れてポイントが一つ上になったのですが、ここと原点の位置とを直線で結ぶため0.9V付近で上に上がってしまうのです。測定結果2の③や④でも同様です。さんざん考えたのですが、この対策はできませんでした。頭の中をクリアにして、再度試したいところです。更に考えるとすれば、端子の極性を反転させて、もう一枚のLCDで表示させれば完璧と思います。まあ、これは当分先の事でしょう。

これを写真12のように2台作りましたので、一台は会社に置いておく事にします。数年後には修理依頼が来るかもしれません。

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写真12 このように2台を作成しました。