1.はじめに
No.164の周波数カウンタの中で、CQ出版のGPSDOのキットを入手して使っている事を紹介しました。GPSDO(GPS Disciplined Oscillator)ですので、衛星を利用した正確な10MHzの発振器です。この出力を使って周波数カウンタの調整や、ゲートタイムを作るような使い方では全く問題なく使えます。しかし、少々気になった点がありました。

そこで新たなGPSDOを作ってみようと考え、まずは第一歩の実験として写真1のような10MHzのGPS発振器を作成しました。もちろん、普段は上のフタは閉めています。発振器といってもGPSの出力を10MHzとして取り出しただけですので、まだ周波数的には揺らぎもスプリアスもあります。これはPLLの基準に使おうと考えたものではありません。ちょっと違った方法で基準にしようと考えています。

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写真1 このように作った、10MHzのGPS発振器です。

2.気になった点
CQ出版のGPSDOですが、普通に使っていると全く問題点も不便もありませんでした。電源ONするとすぐにロックするのも便利です。しかし、出力をキーサイトの周波数カウンタ53132Aで測った時に、周波数がチラチラと安定しません。10Hzの桁なのですが気になりました。

そこでAPB-3をスペアナとして測ってみたところ、測定結果1のようになりました。またIC-7300Sで受信しても測定結果2のようになりました。200HzのAM変調が僅かにかかっているような波形です。試しにアンテナを外してロックを外すと500Hzズレていました。普通の水晶発振なので、この位の差を追い込むのは普通なのでしょうけど、使い方によっては誤差要因になる可能性があります。そんなに酷いというものではありません。

もちろん、これで1秒や10秒のゲートタイムを作って周波数カウンタにしても、誤差が平均化されますので、全く問題にはなりません。ただ、最小桁の表示で+1や-1の値を出す事もまれにあり、少々気になりました。但し、これは水晶を使った相当前のバージョンです。現時点ではOCXOを使ったバージョンもあるようですので、状況は大きく異なると思います。たぶん、ずっと改善されているはずです。

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測定結果1 CQ出版のGPSDOをスペアナで測ったところです。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果2 IC-7300Sでもこのように見えます。(※クリックすると画像が拡大します。)

3.GPS
GPSのユニットは、No.164ではu-bloxのNEO-6Mを使っていました。これでも良いのですが、なるべく新しいものを試したいという事で、同じu-bloxのNEO-8Mを使いました。aitendoのHPでGM-8013Tの型番で売られているものです。少々高くなるのですが、アンテナの裏にGPSユニットが付いているタイプになります。写真2がアンテナ側になり、写真3がGPSユニット側です。このユニットはアメリカの衛星の他にロシアの衛星も捕捉しますので、精度的には良さそうに思います。まあ期待感だけかもしれません。但し、日本の「みちびき」は捕捉しますが、出力には使われないようです。使うようにする設定があるのかもしれませんが、よく解りません。

今回は、このユニットとUSB-TTL変換を同じケースに入れてみました。設定の変更をしたい時に、USBでパソコンに接続します。GPSDOや周波数カウンタ等に使う場合には、12Vを供給しBNCコネクタから10MHzを出力します。周波数はGPSユニットの範囲で自由に設定できます。

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写真2 使ったGPSユニットのアンテナ側です。

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写真3 GPSユニット側になります。

4.回路
図1のようにしました。使ったユニットはGPSの裏にアンテナがあるタイプですので、これを分離する事はできません。そこでGPSユニットごと窓際に設置する事としています。実験用の電源から常時12Vを加え、設定変更時にはUSBコネクタを接続するというスタイルです。USBコネクタと12Vを同時に接続しても支障がないように、対策は必要です。ダイオードを通すようにしています。入出力の端子は2mm間隔で手持ちにはありません。写真4のコネクタも同時に仕入れておきました。

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図1 出力アンプを含む全回路図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

USB-TTL変換は写真5のAKIT-DTR340Bというキットを使用しています。写真6のような部品で、今までも良く使っているキットです。USB-TTL変換もGPSユニットも、秋葉原のaitendoで購入したものです。

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写真4 このようなGPSユニット用のコネクタがありましたので、同時に入手しました。

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写真5 USB-TTL変換キットです。

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写真6 入っている部品です。

出力には2SC1815のバッファを入れています。出力は低インピーダンスで引き出す事としました。GPSの出力はデジタルと言って良いのでしょうけど、揺らぎもスプリアスもそのまま出力するように考えています。

5.作製
まずUSB-TTL変換のキットを写真7のように作り、ハンダ面は写真8のようになりました。下側にジャンパー線が見えると思います。これは普通に作れば、キットとしては不要なものです。しかし、ケースにタカチ電機工業のSW-75を使おうとしたのですが、ギリギリで基板が接触して入りません。しかし、ひと回り大きいケースに入れるのも面白くありません。そこでコネクタの外側をヤスリで削り、何とか入るようにしました。コネクタのアース端子と基板のグランド間の銅箔が無くなってしまいましたので、その補修用にジャンパー線が必要になりました。それ以上の意味はありません。プラスチック製のケースを用いたのは、衛星からの電波がそのまま受けられるからです。

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写真7 組立てたところです。

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写真8 ハンダ面です。補修用のジャンパー線が2本見えます。

各基板のグランドには短めのスズメッキ線をハンダ付けしておき、それを生基板にハンダ付けして固定しました。間違ってハンダ面が生基板に接触しないように、写真9のカプトンテープをハンダ面に貼っています。これは無くても支障はないと思います。写真10は生基板へのハンダ付けをしたところです。コネクタのワイヤーですが、電源が赤でグランドが黒でないと気持ち悪いです。間違いの元にもなりますので、自分で入れ替えました。写真11がGPSを動かしているところです。写真12がアンプを図2の実装図のとおりに作ったところです。写真13がそのハンダ面になります。写真14が出力アンプを生基板に乗せてケースに入れたところです。

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写真9 絶縁用のカプトンテープです。

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写真10 生基板にハンダ付けし、コネクタの準備をしているところです。

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写真11 GPSユニットを付けて動かしているところです。

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写真12 出力アンプを作ったところです。

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図2 出力アンプの実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真13 出力アンプのハンダ面です。

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写真14 ケースに組み込んだところです。

ソフトはu-centerをダウンロードし、GPSの設定をする必要があります。NEO-6Mの時はV8.2を使っていたのですが、これではNEO-8Mに対応していません。そこで新しくV18.11をダウンロードしています。

これを立ち上げて、View→Message Viewでツリーが出てきますので、UBX→CFG→TP5と選びます。ここでFrequencyを10MHzとして、Duty Cycleを50%にします。そしてReceiver→Action→Save Configを行うと、変更が保存できます。GPSユニットのバックアップのバッテリーで変更が保存されますので、次に電源を入れた時は再度行う必要がありません。

6.出力の測定
出力の10MHzは測定結果3のようにとてもスプリアスが多くなっています。中央が10MHzですので、2MHz置きにスプリアスが並んでいます。更に測定結果4のように近接スプリアスも多く、まあ酷い状態です。これなら測定結果1のCQ出版のGPSDOの方がずっと良い事になります。しかし、これはこのままスルーしました。そして、受け側のカウンタあるいはGPSDOでフィルタを入れるという考えです。これは理由があり、1MHzとか100kHzの出力であればずっとクリーンなのです。問題があってうまく動かない場合には、そのまま周波数が変更できます。従って、このユニットとしては意識的にフィルタを入れていません。この後でGPSDOを自作し、この10MHzを使っています。もちろん受け側で10MHzのフィルタを入れていますが、今からなら送り側でも絶対にフィルタを入れているでしょう。なお、簡単なLCフィルタ程度では測定結果4は改善できませんので、それなりに使用目的は制限されると思います。

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測定結果3 0~20MHzで出力のスプリアスを見た様子です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果4 10MHzを中心に200kHzのスパンで見た様子です。(※クリックすると画像が拡大します。)

7.使用感
このままでは使用感も何もありません。「10MHzが出ました」で終わってしまいます。取りあえずNo.164の周波数カウンタで測ってみると10.0000・・MHzと表示し、少し揺れているように思います。一応カウンタの基準にもなりそうです。もっとも、それならば10kHzとか1kHzにする方が使いやすいでしょう。それは設定で簡単にできます。

この後に続く、ちょっと変わったGPSDOの自作のために作製した発振器です。これだけでは、わざわざノイズだけの10MHzを作ってどうするの、となります。