1.はじめに
2019年9月21日、22日に札幌で第6回目の北海道ハムフェアが行われました。私は1エリアから出向き、概ね「札幌QRPミーティング&QRPクラブ」のブースに居ました。その目の前に「USBIF4CW・第一工業大学」のブースがあり、色々なキットが並んでいました。この中で、クリスマスツリーがずっと光っているのが見えていました。どちらかというと、他のキットの装飾用だったのかもしれません。よくある各色のLEDをピカピカするもので、交互に4個ずつが点滅します。一日目はマルチバイブレータか何かで制御しているのかな・・程度にしか思っていませんでした。ところが、2日間も目の前で7台位が動いていると、それだけでないような気がしてきます。不思議に明るさが微妙に変わるのです。「面白いのかな」と思って見ていました。

そのうちに、ブース内「お姉さん」のロープで引っ張る仕草に釣られ、ブースの見学をしていました。じっくりと見ると、デザイン的にも完成度が高く面白いキットと考えるようになりました。そこでクリスマスツリーについて聞いてみました。あいにく完成品しか持参していなかったようです。そこでキットを送って頂くようにお願いし、後日入手したクリスマスツリーのキットです。ネット(http://nksg.net/usbif4cw/)で入手する事が可能ですし、他にもキットがあります。この工作室では初登場になりますが、写真1のような「癒し系」のキットです。

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写真1 このような「癒し系キット」のクリスマスツリーです。

私が何かを作ろうとする時には、第一に合理的になるようにと考えています。後から考えると、なっていない場合もよくあります。ところがこの基板は「合理的」と同時に、「いかに見せるか」を考えているように思います。私は気が付かなかったのですが「抵抗がローソクに見える」と言われ、なるほどと感心しました。すると、更にコンデンサは靴下に見えてきました。試しに熱収縮チューブを用いて、写真2のようにしてみました。これはキタナクなっただけで、失敗でした。この後で外しています。基板の色は写真3のように各色があり、それぞれが味を持っているようです。もちろん4個ずつのLEDを交互に点滅させるだけですので、単純な動きと言えばその通りでしょう。

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写真2 試しに靴下にしてみましたけど・・。

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写真3 このように各色を選ぶ事ができます。

2.クリスマスツリーの動作
上記のとおり、マルチバイブレータでLEDを4個ずつ交互に点滅させるキットです。そこで、マルチバイブレータの動作を説明しておきます。まずは、試しにLTspiceで図1のように回路を設定してシミュレーションしてみました。コレクタにはR1とR2の1kΩの抵抗を入れています。

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図1 LTspiceでシミュレーションした回路図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

シミュレーションをスタートすると、図2のように交互にON/OFFを繰り返す事が解ります。Q1がONになった瞬間を考えます。Q1がONですので、コレクタの電圧はほぼ0Vです。図1にはありませんが、Q1に接続されるLEDが点灯します。この直前のC1は、左側が3.3Vで右側は0.6Vだったので、C1の両端は2.7Vです。ここで、C1の左側が0Vとなったため右側は-2.7Vとなります。このためにQ2はベース電圧が-2.7Vに下げられてOFFになります。Q2のLEDは消灯します。徐々にR3によってC1が充電され、Q2のベース電圧が上がります。0.6V程度まで上がると、Q2がONします。Q2のコレクタ電圧が0V近くまで下がるので、Q2に接続されているLEDが点灯します。この直前のC2は、右側が3.3Vで左側は0.6Vだったので、C2の両端は2.7Vです。しかし、C2の右側が0Vとなったため、左側は-2.7Vとなります。そしてQ1のベース電圧が0.6Vから-2.7Vまで下がりQ1がOFFとなります。Q1のLEDは消灯します。徐々にR4によってC2が充電され・・こんな動作を永遠に繰り返します。

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図2 各部の電圧変化はこのようになりました。(※クリックすると画像が拡大します。)

図2を細かく見るとスタート直後は不安定なようで、Q1とQ2が0.3秒ほど同時にONするタイミングがあります。その後はQ2がONとなり、安定して0.7秒で交互にONをします。何回試しても同じ結果となりました。全く同じ値の場合には、ソフトで順番が決まってしまうように見えます。実はこれを試したくてシミュレーションしました。更にR1の値を1Ω増やすと逆にQ1からONするようになりました。1000.001ΩでもQ1からONしますが、小数点を十数個付けるとQ2からのONに戻りました。シミュレーションは正確だけど、あいまいな部分はない・・・のでしょうか。

実際にキットの電源をONした瞬間には、LEDが8個全部点灯します。その後の順番も決まっているように思えます。このキットの場合は、元々LEDの色が同一ではありません。従ってトランジスタに流れる電流に相違があります。たぶんその相違によって順番が決まるのだと思います。

3.作製
まず、入っている部品が写真4です。基板の裏側が写真5になります。LEDは3色ですので、どの位置に何色のLEDを置くかのセンスが大切なのでしょう。取説としてはLEDの位置は自由になっています。しかし、1台しか作らないのであれば、取りあえずデフォルトの位置で作るのが普通でしょう。LEDの色に合わせて明るさを合わせるために、抵抗の値を調整しています。従って、抵抗も位置を間違えないように付けます。ところが、ここで少々しくじってしまい、2本を付け直す事になってしまいました。完全に私のミスです。これで少々手間取りましたが、それ程の部品数ではありません。こんな失敗をしなければ、簡単に終わると思います。電池ボックス以外のハンダ付けが終わったところが写真6です。

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写真4 入っている部品になります。

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写真5 基板の裏側です。

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写真6 電池ボックスを残してハンダ付けは一時停止しました。

取説にはないのですが、電池ボックスをハンダ付けしてしまうと隠れる部分でハンダ付けのミスがあった場合の修正が面倒になります。そこで写真7のように、宙ぶらりんの状態にして仮の動作チェックを行いました。不安定な状態ですが、動作チェック程度は可能です。これで動作に問題のない事を確認しました。その後で、電池ボックスの裏面にクッション付きの両面テープを貼って固定し、ハンダ付けをしました。両面テープで貼るような指定はありませんが、電池の重さで振動してしまうとハンダにクラックが入る等のトラブルの元になります。何かの方法で固定する方が良いと思います。もちろん、固定した後で再度動作チェックを行います。まあ、これは普通に行うでしょう。電池ボックスを固定して、ハンダ付けしたところが写真8です。

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写真7 このようにして仮の動作チェックをしました。

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写真8 電池ボックスをハンダ付けしたところです。

このようなキットですので、ハンダ付け等の知識が無い人も触る事がありそうです。鉛フリーのハンダを使っていれば良いのですが、あいにく鉛入りを使っています。そこでハンダに触れる事のないように、写真9のようにカプトンテープを切って貼りました。耐熱テープですが、耐熱には全く意味がありません。部品面にもハンダは回り込むので完全ではありませんが、多少はマシになると思います。

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写真9 絶縁用のカプトンテープを貼って、ハンダに触れないようにしました。

4.使用感
電池は単3を2本使っています。これをレギュレータ用ICのHT7733Aで昇圧し、3.3Vにしています。電池が満タンなら不要なのでしょうけど、電圧が下がっても昇圧するので3.3Vで安定して動かす事ができます。このレギュレータ用ICは電源がOFF時でも動いています。VCCの端子でも電圧が測れるようになっており、OFF時でも3.3Vが出ています。入力電圧が0.7Vまで使えますので、相当に使い切った電池でも更に使える事になります。ニッケル水素を使うと過放電になりそうです。

No.116で作った実験用の「0~8V電源」で電圧を変化させてみると、0.7Vでは3.3Vを出力し全く普通に動きます。0.3Vになると出力は2Vになり、マルチバイブレータとして動いてはいますがLEDは暗くなります。さすがに0.2Vまで下げると止まってしまいました。それはそうでしょう。この電池は物理的な「重し」にもなるので、安定に置ける2本のほうが良いのかもしれません。電気的には1本でも充分に動きそうです。なお、電圧はアナログのメータでは誤差の範囲になりますので、デジタルテスターを用いて測りました。

今までに作った事の無かった「癒し系」のキットです。動きは単純ですが、今年のクリスマスを盛り上げてくれる事でしょう。大学の先生が作られたキットですので、これを使ってトランジスタの動作を勉強し、ハンダ付けの実習をするのだと思います。鹿児島にある大学ですが、なかなか面白そうな学校です。シミュレーションなどして、私も勉強をしてしまいました。楽しいキットですが遊んでばかりではなく、「勉強せにゃあかん」モードになってしまいました。このような記事にまとめる時は、いつの場合でも私自身の勉強です。