1.はじめに

SSBを作るには、フィルタを使ってサイドバンドを切り取る方法が一般的に使われます。しかしフィルタを使う以外にも、PSN方式が古くから知られています。昔々の高校生時代ですが、CQ出版のSSBハンドブックに記載のあったJA7LK高橋さんの記事を参考に、真空管でPSNを作った事が思い出されます。これは送信機までにはなりませんでしたが、綺麗なSSBが作れるジェネレータにはなりました。もちろん、この頃の私にサイドバンドやキャリアのサプレッションが測れたはずがありません。モニターした受信機にしてもロクな代物ではありませんでしたので、正しい評価かは疑問です。思い起こせば、これが私の作った最初のSSBでした。当時は実験の記録も残していませんでしたが、図1の手書きの図面が残っていました。

 

図1 高校2年の時に作った真空管のPSNです。7MHzのSSBが出ました。
 

次に作ったSSBは、CQ誌1974年1月号にJR1UJT中村さんが書かれた「50MHzミニパワートランシーバー」です。これはPSNを使ってダイレクトに50MHzのSSBを作るというものでした。これは製作に苦労しましたが、電波が出た記憶はあります。50MHzのSSBをダイレクトに作り受信もダイレクトという、誠に斬新なトランシーバでした。今でも使えそうなアイデアです。

PSNを使った方法では、音声と高周波を、それぞれ90度の位相差を作って変調しSSBを作ります。高周波で90度の位相差を作るのは比較的容易なのですが、昔から苦労するのが音声の方です。音声帯域の周波数で90度の差にしないと、逆サイドバンドが残ってしまいます。これを一つの周波数だけに絞って90度の差にするという、超簡易的な方法が「ラジオの製作」や「アマチュア無線入門ハンドブック」、FCZ研究所のキットにありました。これらは作った事がありませんでしたが、それ程サイドバンドが抑えられたとは思えません。「ラジオの製作」に記載のあった記事は、当時は作りたくてずっと眺めていたものでした。本格的になるとナガード型等があり、音声帯域の周波数で90度を作るという回路でした。2Q4と呼ばれる製品の紹介もありました。JA7LK高橋さんの方式も本格的なものでしたが、PSNの自作には抵抗やコンデンサの値が中途半端になり、しかも精度が必要なので部品集めが大変だったのです。もちろん、今のようにデジタルテスターで抵抗やコンデンサが測れるような時代ではありませんでした。高校2年生だった私に性能の良いものが作れたはずがありません。

ところが、最近Tj Labの上保さんが、dsPICを使用した方法を自身のHP(https://tj-lab.org/)で発表されました。DSPのようなPICでデジタル的に処理をしてしまうというアイデアです。こんなICを自由自在に扱えるというのは、私には羨ましい限りです。このdsPICを使ったキットがサイテックより出ましたので、取りあえずSSBジェネレータの基板だけですが写真1のように作ってテストしてみました。

 

写真1 このように作ってテスト中のdsPICを用いたPSNタイプのSSBジェネレータです。
2.製作

写真2のような部品とCDの説明がキットに入っていました。これらを良く確認してから製作に入ります。基板は写真3のような赤い基板です。その裏側が写真4になります。表面実装のICとトランジスタは写真5のように袋に入っていました。トランジスタは2種類が判別できるようになっているので安心です。Q1,Q2は私が書いたような気がします。

まずハンダ付けする準備として最初にコイルを巻いておきます。バイファイラ巻きですが、説明書の通りに巻けば良いので、それ程難しいものではありません。いつもコイルを先に巻くのですが、ハンダ付けを始めてしまうと面倒になるからです。作業の流れなのですが、それ以上の理由はありません。

 

写真2 キットに入っている部品とCD。
 

写真3 部品実装面。
 

写真4 基板のハンダ面。
 

写真5 表面実装のICとトランジスタです。
 

部品面のディスクリートパーツを先に取り付けてしまうと基板の水平が取れなくなり、また不安定になって表面実装のハンダ付けがやり難くなります。そこで基板へのハンダ付けは、まずハンダ面に取り付ける表面実装部品から始めます。次に残りのコンデンサ、抵抗、コイルを一気にハンダ付けしました。ユニバーサル基板に組む時には回路毎に動作チェックをしながら作るのですが、キットであれば必要ないでしょう。写真6がハンダ付けの終わった様子です。このハンダ面が写真7で、表面実装の部品も見えます。

 

写真6 部品の実装が終わった様子です。
 

写真7 ハンダ面には表面実装の部品も見えます。
3.調整

もちろんハンダ付けのミスが無いかチェックするのが一番先です。そして動作チェックをしないと調整にもなりません。取りあえず線クズ等でショートしないように、仮にカラーを付けて机から浮かせました。

チェックに必要となる電源や入出力を写真8のようにセットしました。出力にはアッテネータが接続してあります。このようにして動作チェックをしました。普通に使う出力としては9MHzなのですが、チェック用に7.1MHzにする事もできます。どちらでも良いのですが、受信機でモニターできる周波数にします。私はとりあえず9MHzに設定し、IC-7300Sでモニターしてみました。何の問題もなくSSBが聞こえてきました。しかし、画面を見るとキャリアの漏れがありますので、これを半固VR2個で最小になるように調整します。この調整はとてもシビアですので、何回も納得するまで行いました。

 

写真8 このように一部の部品は仮付けしてテストしました。
 

結果はAPB-3を使って記録しました。測定結果1はマイク入力を無にしたところです。測定結果2は1.5kHzを入力してみた様子です。キャリアの漏れが測定結果1よりも少し悪化しています。何回か試したのですが、マイク入力の有無によって、キャリアヌルの最良点が少しだけ変わるようです。この場合は無音声で合わせていますので、音声を入力すると少しキャリア漏れが多くなっています。逆に1.5kHzを入力して調整すると、マイク入力を無しにした時に悪化しました。いずれも微妙な調整です。どちらに合わせるのが理想なのか良く解りませんが、それ程の差はないのでしょう。逆サイドバンドも半固VRで最小になるように調整します。測定結果3は疑似音声を入力した様子です。教科書に出て来るような形になりました。疑似音声と1.5kHzにはNo.152の「疑似音声発生器」を使っています。試しにホワイトノイズを入れてみると、測定結果4のようになりました。ホワイトノイズにはNo.137の「ホワイトノイズジェネレータ」を使っているのですが、出力は10kHzまでは充分に伸びています。デジタル的にしっかりとカットされていますし、3kHzまではストレートに伸びています。なお、測定は全てUSB側で行っています。この先に送信機にした時に使うのがUSBという事情がありますが、LSBでも全く同じなので省略しました。完全に裏返しの結果になっていますので、どちらも充分な性能と思います。

 

測定結果1 MIC入力なしの時です。
 

測定結果2 1.5kHzを入力した様子です。中央がキャリア漏れで、1.5kHz高い方に信号があります。
 

測定結果3 疑似音声を入れてみました。
 

測定結果4 ホワイトノイズを入れてみました。
 

無変調時を2MHzのスパンで測ってみたのが測定結果5になります。このようにノイズの上昇する周波数があります。1kHzを入力したところが測定結果6ですので、ノイズの変化はありません。このノイズの原因は解りませんが、60dB程度は下がっていますので問題にはならないでしょう。

 

測定結果5 スパンを2MHzとして無変調の様子です。
 

測定結果6 1kHzを入力した様子です。
 

IC-7300Sで音声を聞いてみると、確かに素直な感じの良い声に聞こえます。これがPSNの音なのでしょう。hi-fiとは言いませんが今までにない印象の声です。このテストのためにモニター用の受信機を作ったという、内田さんのステップが良く解ります。

ところで、調整しようとして気が付いたのですが、マイク端子にECM用の電圧が印加されていません。一番簡単に対処する方法を探し、写真9のように3.3kΩの抵抗を追加しました。もちろん、使い方によって不要の処置です。

 

写真9 ECMが使えるように、追加した抵抗です。
4.使用感

昔々はPSNで苦労したのですが、嘘のように簡単にSSBが出力されています。本当はdsPICから始めないと面白さは半減なのでしょう。それは解っているのですが、この敷居は相当に高そうです。

 まだこの基板だけなので、使用感も何もありません。次にはミキサーやパワーアンプのキットもありますので、組み合わせてSSB送信機に仕上げたいと思います。その後ですが、受信はどうするの?となってしまい、なかなか難しいところがあります。つまり受信側でクリスタルフィルタを使うのであれば、送信側でPSNにする意味が半減してしまいます。送信側だけ作るとして、受信には別のトランシーバを使うという考えもありそうです。

 この記事を書いていて、私のSSBはPSNの自作で始まった事を思い出しました。苦労で始まったとも言えるのですが、ようやく50年近く経って送信機として形になりそうです。