1.はじめに

ネットワークアナライザとしては、以前は中古のHP8754Aで遊んでいました。これでSパラメータとかスミスチャートを必死で覚え、どれだけ勉強になった事かと思います。その後で仕事の方面にも大きなプラスになりました。しかし相当に古い中古でしたので、動作がおかしくなり処分してしまいました。そのため、次のネットワークアナライザをどうするのかが課題でした。

アイキャスエンタープライズ社(http://icas.to/index.htm)で、やや本格的なネットワークアナライザのVNWA3ECが購入できる事は知っていました。この相当前のモデルであるキット(N2PK)の基板と部品を共同購入で入手していたのですが、パソコンとの接続に難点があって使い難くなっていました。8万円程度で入手できるネットワークアナライザのVNWA3ECも魅力的なのですが、アマチュア無線ではそれ程の精度も必要ありませんし、144MHz以上の自作も行っていません。そこで目に入ったのがFA-VA5です。FA-VA5はアンテナアナライザとはなっていますが、VNWA3ECのソフトが使用できてパソコン上でスミスチャートが描ける事を知りました。つまりS11が測れます。そこでこれを購入し、組み立ててみました。写真1のようなアンテナアナライザで、600MHzまで測定する事が可能です。

 


写真1 完成した、アンテナアナライザキットです。

2.FA-VA5について

ベクトルアンテナアナライザとなっているのですが、ネットワークアナライザとはなっていません。恐らく、反射のS11を測る事はできるのですが、通過特性のS21が測れないためにアンテナアナライザとしているのだと思います。アイキャスエンタープライズ社ではキットと完成品を取り扱っています。もちろん工作室ですので、迷う事なくキットを購入しました。キットには校正に必要な、基準のSOLキットが付属しています。つまり、ショート、オープン、ロードの基準になります。これ以外に、更に精度の良い完成品のSOLが別途購入できますので、これも併せて購入しました。

本格的なネットワークアナライザはS11、S22、S21,S12を同時に測る事ができます。S21はスカラーであればスペアナとTGでも測れますので、全く不便はありません。私としてはS11が測れれば充分です。もちろん普通はアンテナの測定に使用するのでしょうけど、私のように工作に係わる測定で使う場合にも充分に使えそうです。

3.作製

写真2のような箱に入ってキットが送られてきました。内部には写真3の基板とLCD、写真4と5の部品が入っていました。写真5の細長いのは厚紙です。これを使ってLCDの高さを合わせますので、大切です。英文の冊子も入っているのですが、アイキャスエンタープライズ社のHPにある日本語の取説の方が詳しくて解りやすいようです。ここにはパソコンで使うソフトの取説もありますので、安心です。

 

写真2 このような印刷された箱に梱包されて届きました。

 

写真3 基板とLCDです。

 

写真4 ハンダ付けする部品になります。

 

写真5 USB基板の入った袋と、大切な厚紙です。

 

取説のとおりケースの保護用ビニールを剥がす事から始めました。少々汚れが付いていましたので、アルコールで掃除しておきました。簡単に綺麗になりますので、行っておくと良いでしょう。また怪我をしてはいけないので、細かい紙ヤスリで切断面を簡単に磨いておきました。個人的には最後にビニールを剥がす方が、ケースにキズを付けなくて済むようにも思います。ここは判断に迷うところでした。剥がした後で養生用テープを貼るのも何かな・・と思いながら、手順どおりに進めていました。写真6はケースの切断面を磨いて、掃除をした後だと思います。もちろん切断面以外を磨いてはいけません。

 

写真6 ケースの保護用のビニールを剥がし、加工面を磨いたところです。

 

基板は、ほとんどの部品がハンダ付けしてあります。スイッチやコネクタ、LCD等の大型の部品をハンダ付けするだけです。写真7がハンダ付けをする前の準備完了というところです。

 

写真7 これからハンダ付けです。

 

USBコネクタのハンダ付けをする前に、基板との絶縁を図るために中間に放熱用のマイカ絶縁シートを入れるようになっています。しかし、このマイカ絶縁シートが動いてしまいハンダ付けがやり難いため、写真8のように耐熱と絶縁のカプトンテープを貼ってしまいました。これで済ませようと思っていたのですが、あまりに薄いので破れないか心配になり、その上に写真9のようにマイカ絶縁シートを置いてハンダ付けしました。これはちょっとやり過ぎでした。過剰絶縁作業・・とでも言われそうです。

 

写真8 USBコネクタのハンダ部分にカプトンテープを貼ってみました。

 

写真9 マイカ絶縁シートも置いてハンダ付け

 

LCDの高さを合わせるのに注意をする必要があります。厚紙を使ってLCDの高さを調整します。ここは要注意ですので、良く読んで作業をする必要があります。私は厚紙をハサミで切って、数か所で高さを合わせました。

最終的な作業として下側のケースにゴム足を付けるのですが、これは先に行った方がキズを付けなくて済みます。私の感覚からすると、なるべく早めに行いたい作業です。最後に行う理由は解りません。

ハンダ付けが終わって、ケースに入れて完成となります。単3電池を2本入れて電源を入れると、写真10のようにLCDのバックライトが点灯し、表示を始めます。ホッとする一瞬です。これは撮影用に上蓋を開けています。

 

写真10 電源を入れたところです。表示が出てホッとする瞬間です。

 

この後ですがネットで作った方の方法を真似し、100均でスマホ用の保護シートを購入して貼り付けてみました。これは写真で写しても解らないでしょう。サイズが合わないのでカッターで切って合わせる必要があります。まあ大きな相違はないとは思いますが、気持ちの問題だけです。

4.基準(SOL)の作製

校正に使う基準は前述のように、キットとは別に写真11のように校正表の付いているものを購入しました。しかし、元々キットにもSOLのキットが入っています。当然ですが、特性的には多少劣るのでしょう。そのままにしても仕方ないので、これも組み立てる事にしました。何故か、ここだけは英文の冊子にしか取説がないようです。

 

写真11 キットとは別に購入したSOLです。

 

写真12のようなBNC-Pの普通のコネクタを使ったキットで、右側は50Ωの完成品になります。OPENとSHORTは写真13のような部品で作ります。英文の冊子の最後にあるとおりに作ります。OPENはピンをワイヤーに入れるだけで、カチッと入るまで押し込みます。ワイヤーは工具として使います。イメージよりも強く押し込む感じでした。これでピンだけ付いた、OPENのコネクタになります。SHORTはそのワイヤーをハンダ付けしてから押し込みます。カチッと入れてからワイヤーを切って、コネクタのアース部分に最短でハンダ付けします。

 

写真12 キットに付いているキットのSOLです。50Ωは完成品です。

 

写真13 OPENとSHORTはこのような部品で作ります。

 

写真14で完成となり、スリーブは使いません。それでも良いのですが、ハンダ付けした部分をそのままにするよりもカバーしておくべきと思い、エポキシ系の接着剤でスリーブを付けました。鉛入りハンダを使っていますので、なるべく手に触れないようにするためです。そしてテプラで写真15のように表示しました。この表示をする目的もあります。表示をしないと、何となく締まりません。

 

写真14 一応完成した様子です。

 

写真15 スリーブも付けてテプラで表示して、これで完成としました。

5.使用感

使用方法は安易に簡単と言えませんが、測定好きにとってはそれも楽しみの一つです。Sパラメータとかスミスチャート以外に機能が沢山あります。単体で使う場合とパソコンからの制御もあり、そう簡単には使いこなせるものではありません。どちらかと言えば、パソコンからの制御を主として、記録を残すような使い方をしています。従って、私的には単体での使用は実は苦手になります。

 

もちろん、最初に行うのはキャリブレーションつまり校正です。校正をすると、そのコネクタ面から見た負荷側のインピーダンスを正しく測定できるようになります。取りあえずはFA-VA5のコネクタに直付けで校正して試しました。ここに測定用のケーブルを介してから、その先で校正する事もできます。アンプの入力等を測る場合の、回路の入口での校正が可能となります。そのような意味では、SOLにはオス用とメス用があると便利です。変換コネクタを使ったのでは、自分から誤差を作っているようなものです。しかし、普通はオス用のSOLセットがあれば充分なのでしょう。私もメス用は持っていません。

 

パソコンから使ってみると、S11がうまく表示されます。このような細かい表示は小さいLCD画面よりもパソコンに限ります。測定結果1が基準の50Ωを測ったリターンロスで、パソコンから測ったものです。一番上が基準で0dBになります。校正した基準を測っていますので、どんな周波数でも一番下に張り付くのが理想になります。それが理想の50Ωになります。可能であれば70dBや80dBは・・となりますが、実際には思ったようにはなりません。測定結果1は低い周波数では70dB以上もとれています。600MHz付近でも40dB以上とれています。これだけ測定できれば充分と思います。つまり、これ以上にSWRの良いものは測れないという事になりますが、600MHzでも30dB程度のものは測れる事になります。使う目的にもよると思いますが、50dBもあれば充分ではないでしょうか。40dBあればまあまあで、30dBでは用途によっては何とか使えるのかな、20dBだとアンテナをザックリ調整するには何とか、というところでしょうか。これは個人の見解です。目的によって求める精度が違いますし、見解の相違が出て来るのは当然と思います。測定結果1にはノイズのギザギザがありますが、限界を測っているので仕方がありません。測定結果2はキットのL、つまり50Ωを同様に測ったものです。校正に使ったものより悪化するのは当然ですし、限界から離れるためノイズもありません。測定結果3はこれをスミスチャートで表したものです。もちろんキットのSOLを使って校正すると、全く逆の結果になります。

 

測定結果1 基準を測ったリターンロスです。

 

測定結果2 キットの基準を測ったリターンロスです。

 

測定結果3 キットの基準のスミスチャートです。周波数が上がると多少+jXに向かっています。

 

実は最近話題のnanoVNAも持っています。コストや性能の面での単純な比較は難しいとは思いますが、少なくともFA-VA5の性能には何の不満もありません。