1.はじめに

7MHzのDC(ダイレクトコンバージョン)受信機を作った事ありますか?自作の世界を覗いて見るには面白い選択です。とにかく聞こえないと自作もつまりません。

連載の一回目は、サイテックより出ているスパロー40という7MHzのDC受信機のキットを紹介します。スパローはスズメの事ですが、ウルサイ位に聞こえて、小さくカワイイという意味でしょうか。

2.スパロー40について

自作好きのHAM、内田さんが運営しているのがCYTEC(サイテック)です。スパロー40は、ここの「砂漠の売店」で入手する事ができます。基板、説明書の他に、部品の付いた基板キットですから、ケース、スピーカ、配線材、ネジ等は別に用意する必要があります。「砂漠の売店」ですので、入手困難な部品も調達できるオアシスという意味と思います。

スパロー40は2年位前にJE1AHW内田さんとJL1KRA中島さんの共同開発、実験によって頒布された7MHzのDC受信機です。最初は発振回路にFCZコイルを使っていましたが、トロイダルコアを使用する改造用基板が追加されました。最近になってJF3HZB上保さんの案を取入れて、AF段の発振を抑えるための改造がされたバージョンが出ました。少しずつですが、使っている人のアイデアを取入れて進化している受信機です。残念ながら私は作っただけで、改造には関わっていません。

DC受信機は、図1のように入力した電波を直接検波し、音声周波数にします。スーパー方式と違って、中間周波数、フィルタがありません。簡単な構成ですので、自作にはもってこいです。周波数変換がないため、ノイズレベルが低いのも特長です。但し、大きな欠点があります。普通に中間周波数のフィルタを使ったスーパーでは、LSBあるいはUSBをしっかり分離します。DC受信機にはオーディオフィルターしかなく、分離できません。つまり、キャリアの両側で信号が聞こえてしまいます。混んだバンドが2倍混んで聞こえます。もう一点、感度は良いのですが、AGCがありません。強い局は極めて強く、弱い局は小さく聞こえますので、一番困るのが、いきなり強い信号を受けた時にビックリする事です。

図1

3.回路について

最近の部品は、長期にわたって安定に入手する事が困難になって来ました。専用IC=特殊ICですので、小型で高性能は良いのですが入手不能となると、どうしようもなくなります。実験記の場合はそれで良いのですが、広く多くの方に作ってもらうコンセプトの場合、第一に部品の入手を考えなくてはなりません。このキットの場合、基板は上記のサイテックで入手し、その他の部品については汎用と言われる2SC1815を9個とLM386を中心にして、後はCR類です。つまり特殊な部品は全くありません。10年後でも何とか工面できるのではないかと思ってしまいます。

図2に全体の回路を示します。DC受信機の場合は、発振器と検波が心臓部になります。LC発振を使っていますので、7MHzの100kHz幅程度は簡単にカバーしますが、QRHがあります。この辺は特殊部品の水晶は使わず、多少のQRHには目をつむってもバンド中を楽しく動き回れる事をコンセプトとしているのでしょう。

図2

検波にはトランジスタスイッチ式を使っています。普通はダイオードミキサーとかICを使うのですが、これも汎用トランジスタを使うというこだわりでしょうか。スパロー40にはこれが良くマッチしていると思います。

フィルターはオーディオ周波数用のLPFです。これが無いと、どこまでも高いビート音が聞こえるハイファイになってしまいます。スピーカの性能もあって、普通はそれ程伸びませんが・・。このスパロー40では、サレン・キー方式のフィルターを使っています。インダクターの入手の問題からのようです。このフィルターの動作をFRMS-AF(オーディオ専用の測定器で近々に紹介予定)で測ってみたところ、写真5,6に示すような特性でした。

写真5 10kHzまでのサレン・キー方式のフィルター特性をFRMS(AFバージョン)で測定してみました。

写真6 100kHzまでです。実際はスピーカの性能がありますので、ここまでは絶対に聞こえません。

4.作成

キットには詳しいマニュアルが付いており、作成方法についての全てが書かれていますので、ここで特に追記するような事はありませんが、少し変わった作り方の部分や、気の付いた点を紹介します。

まずVFO用のトロイダルコイルを巻きます。以前のバージョンではFCZコイルを使っていましたが、QRH対策のためトロイダルコイルに巻きます。コイルはフラックスで固めるようになっていますが、私は相当古い高周波ニスで固めました。発振周波数に関係するコンデンサには、温度係数ゼロを使っています。もっと良く、と考えるのであれば、ディップドマイカに、トリマーはフィリプス製に変更するのも良いかと思います。そこは簡単な受信機と割り切って、あまり神経質にならずに気楽に作りましょう。比べてはいませんが、高周波ニスを使ってもフラックスを使っても、あまり変わりは無いのかもしれません。

まずトライダルコアにコイルを巻きます。この時には、なるべく密着巻きで巻きます。その後から間隔を少し広げて調整し、均一になるようにします。間隔を狭くするような調整はできません。

キットの説明ではフラックスを塗るようになっていますが、相当古い高周波ニスを塗りました。大差はないと思います。

部品のハンダ付けも数時間程度でできると思います。ハトメは一番先に付ける必要がありますが、他はどこからでも大丈夫です。

基板にハトメを打ちます。ハトメにポンチあてて、ハンマーで軽く叩いて固定しました。

ケースはタカチのMB-11を使いました。どのようなケースでも良いのですが、こじんまりした感じのケースが良いと思います。基板の固定は4本のカラーでケースに固定するのが普通です。しかし、このような小型のケースにネジ穴を開けると目立ち過ぎます。そこで生基板をケースに入る大きさに切断し、これにカラーをハンダ付けして基板を乗せました。生基板の下側に両面テープを貼ってケースに固定しました。このようにしてネジ頭を外に出さない工作をしましたが、特にこだわる必要はありません。

完成した基板をバラックで試験しました。この時点で、正常に動くことを確認しておきます。細かい調整はこの後で行います。

ケースはタカチのMB-11を使用しました。穴あけを行った後の様子です。

基板より少し大きい生基板にカラーをハンダ付けします。

この裏側に両面テープを貼ります。

生基板ごとケースに貼りつけます。このようにすると、余計なネジが外に出ません。気にしない場合はアルミにネジを付けます。

ケース内の配線を行ったところです。

このように、下側に余計なネジ頭が出ていません。スッキリしています。

ほとんど完成した後からですが、「やっぱり電源表示用のLEDがあった方が良い」と思い、穴を追加しました。普通はこのような事はしない方が無難です。

チューニング用、AF GAIN用のVRの配線には2芯シールド線を用いました。しかし、使ってみて気が付きましたが、極めて使い難い端子の位置になっています。1芯シールドであればピッタリしますし、特にシールド線を使わなくても大丈夫だと思います。

このようなものを作った場合に、必ず調整が必要となります。調整はめんどうな物ではなく、楽しいものですので、じっくりと楽しんで下さい。

自作のSGを使って調整しました。なるべく弱い信号を入力して調整します。電波を受信しても調整可能です。

5.使用感

最初にお断りしましたように、逆サイドバンドまでいっぱい聞こえてきます。慣れないとSSBの復調に苦労します。CWはどちら側のビートで聞いても良いのですが、他の送信機と組合せてQSOに使う場合には注意が必要です。

安定度は、電源ONから安定するまで30分かかります。その後も多少は動いて行きます。私の作ったものではON直後から30分で3kHz動きました。その後は100Hz/10分位です。周囲の環境にも大きく影響を受けますので、目安に過ぎません。ケースを開けて周波数カウンタで測定したのですが、ケースを開ける事で変動も変わります。

以前のバージョンでは、VRをあまり上げるとAF段で発振気味になりました。リップルフィルターが効果抜群で、ピタリと止まって快適です。

SGを使って感度を測定してみたところ、-5dBμの信号でS+N/Nが10dBでした。あまり感度云々しても仕方ないと思いますが、数値的にはこのような値です。

SGを2台使って歪みを調べたところ、65dBμ付近よりビートが濁って来ました。80dBμでは相当歪みが増えます。FFTアナライザがありませんので、正確な測定はできません。検波用トランジスタで歪むのでしょう。強い信号の復調がしにくい場合には、外部にアッテネータを付けてみて下さい。復調が容易になる場合は、歪んでいる可能性があります。

キットにはチューニング用に10kΩのVRが入っていますが、5回転くらいのポテンションメータにすると使いやすくなります。写真15の右側は1年前に作ったスパロー40です。こちらには5回転を使っています。手持ちを使ったのですが、新たに購入したのでは金額的にバランスがとれません。しかし、それなりの効果はあって同調が取りやすくなります。

DC受信機は簡単な受信機です。完璧な性能は無理ですが、欠点がある方が面白い事もあります。作ってみることで、自作の楽しさを味わって下さい。

左が今回作成したスパロー40.右側が1年前に作成した旧バージョンのスパロー40です。

旧バージョンを作成した時には、回転のポテンションメータを使いました。そのため同調が容易です。こちらではアルミに直接カラーの穴を開けています。