1.はじめに

FRMSはFrequency Response Measuring Systemの略で、CQ誌の2003年1月号に製作者の内田さんの記事が載りましたので、作られた方や、知っておられる方もたくさんおられる事と思います。私がこのFRMSを作ったのは、ちょうどその頃でした。とても便利な測定器で、工夫次第で使用範囲を広くする事も可能ですので、使用方法を含めて、再びFRMSの紹介をしたいと思います。

写真1 FRMSの外観です。

2.FRMSについて

FRMSは秋月電子のDDSキットを発振器に使い、ログアンプのAD8307を使ってレベルの測定を行います。結果は、周波数対レベルの表示をパソコン上に行います。周波数はDDSのため安定ですし、1Hzステップで可変できますので、クリスタルフィルターの特性を表示するのに最適です。詳しくは、内田さん、上保さんのHPを訪問して下さい。上保さんのHPには、ケプストラム解析という、反射の位置を測定する高度な技術も紹介されています。ネットで検索しても、私に理解できるような説明は見つかりません。

私も似たような構成でオシロにクリスタルフィルターの特性を出して遊んでいましたが、パソコンで図が書けると保存するにも便利ですし、私としては「マイッタ」というしかありません。もう、オシロに波形を表示する方法は「時代遅れ」と大いに実感したのでした。スペアナとトラッキングジェネレータを持っていますので、一応同じような測定はできるのですが、1divで10kHzが一番広げた状態ですから10divで100kHzとなります。これでクリスタルフィルターを測定した場合、何となく形は見る事ができますが、帯域が3kHzか4kHzか全く解らない状態でした。しかも周波数の安定度が悪く、チューニングを取り続ける必要がありました。このように、今までクリスタルフィルターの測定が課題だったのでしたが、これを一気に解決したのがFRMSです。つまりFRMSがあれば、「スペアナが欲しい」としても、ずっとお買い得なスペアナで間に合う場合もある、という事になります。

初代FRMSの後で、ICの入手難による若干の部品と回路の変更がありました。それ以降FRMS2となっていますが、私の作ったのは初代FRMSのバージョンです。

3.回路

図1に回路を示します。この回路は現在入手できる部品を使った、FRMS2の回路です。写真は初代のバージョンですから、回路とは一部の部品が異なる部分があります。

図1 FRMSの回路です。最新のFRMS2の回路となっています。

FRMSの部品の中には、秋月電子のDDSキットも入っています。ICも含めて、大体の部品を秋月電子で揃える事が可能です。最近では部品の入手も困難で、いつのまにか店頭から消えている事も良くあります。部品の入手先がはっきりとしているFRMSは、作る側にとって大変助かります。とはいえ、いつまで製作が可能かは誰も保証できません。

FRMSはDDSを中心とした構成で、出力に20MHzのLPFとアンプを通してRF-OUTに出力されます。ここに被測定回路を接続し、出力をRF-INへ戻します。これをログアンプのAD8307に入力し、対数に変換して直流を出力します。これをPICでA/D変換します。PICはパソコンとADM232Aを介して通信し、DDSの周波数の設定を行い、その結果のA/D変換したデータをパソコンに戻します。後はパソコン上でソフトの処理を行い、特性曲線を画像に表します。

写真2 内部の様子です。

写真3 RS232Cコネクタは、元々は25ピンですが、9ピンを使用しました。パソコン側と合わせたかったからで、わざわざ25→9ピン変換コネクタは使いたくありません。

4.作成

作成については、CQ誌の記事やキット付属の説明書に詳しく書かれています。そこで一点だけ考えておきたい事を述べておきます。

RFの入出力間に結合が生じた場合、DDSの出力が入力側に回り込み、ノイズフロアが上昇してしまいます。つまり画面いっぱいを使って特性が描けない、ダイナミックレンジが狭い状態になります。図2は、ケース内を上から見たところで、普通に行う配線です。このような配線の場合、図3の赤い点線のルートで高周波電流が流れ、被測定回路へと信号が送られます。つまり、DDSの出力はRF-OUT端子から被測定回路の負荷に終端され、アース側を通ってDDSまで戻ると考えられます。また、被測定回路を信号源として、右側の赤い点線でログアンプを負荷とした電流が同じように流れます。これらはノーマルモードで、同軸ケーブルの内部を通り外へは漏れない信号です。ところがアルミパネルも導体のため、アース側の帰還ルートに入出力のコネクタ間のアルミパネルも含まれるようになってしまい、青い点線のような電流も流れてしまいます。このような電流が流れることで迷結合を生じ、ダイナミックレンジを悪化させます。いわゆるコモンコードです。これを防ぐためにBNCコネクタをケースから浮かせる方法があります。

図2 ケース内の様子を真上からみたところです。

図3 赤い点線のルートで高周波電流が流れますが、コネクタがケースに接触していたり、基板がケースに接触していると、青色の点線のような不要なルートで信号が流れます。

また、図4のようにケース内の同軸にFBを入れると、同軸にノーマルモードは影響な無く流れますが、コモンモードは外皮を流れますので、流れ難くなります。両方試してないので、効果の比較は出来ません。私の場合は入出力には写真4のようなBNCコネクタを用い、図4のようにFBを入れる方法で、コモンモードが流れ難いようにしています。理想的にはRF-IN側はユニットごとシールドケースに入れて、入力コネクタ部分のみケースに一点アースする事と思います。また同じ理由で、導体のカラーを使って基板を固定した場合、カラーとケースを通る電流も生じます。このように、2点以上ケースに接触した場合、高周波電流が基板とケースに分散して流れてしまいます。ケースに流れた電流が他の回路と結合して悪さをします。このため、カラーは絶縁性のものを用いる方が良いと思います。

写真4 RF-INとRF-OUTにはBNCコネクタを使用し、内部配線の同軸にはFBを使用しました。

図4 基板の出入り口のケーブルにFBを入れる事で、コモンモードの通り道に抵抗を入れた効果があります。

基板上で、シールドをしようとすると、逆にアンテナになってしまう場合もあります。いろいろ試さないと、何が一番良いのか実は分かりません。場合によっては、ケースに入れない方が良い事もあります。また、大きめのケースの方が良い場合もあります。

このように苦労はしましたが、上のフタを開けるとダイナミックレンジが5dB良くなる現象がありますので、まだまだ改善できる余地が残っているという事になります。

5.FRMSの周波数の誤差について

FRMSで使っているDDSのクリスタルオシレータは、周波数の誤差が結構あります。正しく、細かく周波数を知りたい場合には、周波数カウンタで確かめておく方が良いでしょう。但し、補正する方法はありませんので、机上で換算して下さい。

また、ログアンプもAD8307の性能上、多少の誤差を生じます。外部アッテネータによって確認しておくのが良いと思います。この誤差をソフトで補正できると良いのですが・・。アッテネータの実験に使う場合には、この誤差が気になります。もちろん信号の強弱については全く問題ありません。

6.FRMSのトラブル

FRMSを使い初めて、波形は見事に描けるのですが、ソフトを終了しようとすると、正常に終了できませんでした。しばらくの間はそのまま使っていたのですが、内田さんに聞いたところ、パソコンでCD-Rからソフトをコピーした時に、「読み取り専用」になってしまうので、これを解除すれば良いとの話でした。そこでプログラムのプロパティを選んで解除したところ直りました。

最近になって、ハードのトラブルが続きました。DDSが時々発振しないのです。67MHzのXTOが時々止まるようで、これを交換しました。このトラブルは結構あるそうです。何か不調の時には、まず疑うと良いでしょう。

その後、DDSの出力が極端に低くなる事がありました。DDSの基板を触ると状態が変わるという、いやらしい現象です。これは、DDSキットのD/Aコンバータの抵抗ラダーが出力でハンダ不良になっている事が原因でした。ハンダをやり直して回復しましたが、これには苦労しました。10ビットの入力側だったら気が付かないかもしれません。

7.おわりに

測定方法はポイントを押さえると簡単です。このような測定器を全く使った事が無い方でも、多少の勉強と慣れですぐに使いこなせるようになると思います。自作する方にとっては、このような測定も楽しいものです。最初からFRMSの事を良く知っていて作る人はいません。作って、使いながら段々と覚えて行けば良い事と思います。

次回はこのFRMSを使って、クリスタルフィルターやSWR等の測定を紹介します。