1.はじめに

前回はFRMSの製作について紹介しました。今回はFRMSを使った測定方法について、紹介します。FRMSはクリスタルフィルターなどの特性を測る事はもちろんですが、この他に工夫次第でL,C等の測定が可能です。

前回周波数ズレについては修正不可能と書きましたが、FRMSの作者の上保さんからメールがあり、ファイルの中身を修正する事で可能だそうです。上保さん、アドバイスありがとうございます。さっそくFRMSのフォルダーからfrms_prm.txtというファイルを探して開けてみると、2行目に67108864というオシレータの発振周波数がありました。これを書き換える事で、見事に修正ができました。

2.FRMSのダイナミックレンジについて

前回、FRMSのダイナミックレンジを大きくする方法について説明をしました。しかし、行っていない実験が一件ありました。

FRMSの基板は、RF-IN側のグランドがDDSや出力アンプ側のグランドと基板内で接続されています。このため、本来は同軸を流れるはずの高周波電流が、僅かですが基板内のグランドを通して流れてしまいます。僅かな部分をカットするだけで離す事ができるパターンになっていますので、ここをカットしてみました。するとノイズフロアが約5dBと驚くほど下がりました。

今度はAD8307の電源が同軸ケーブルの外側を通るようになってしまいます。そこで、カットした後にはFBの2t巻きでショートしました。1tでは効果は半減でしたので、2tとしています。写真1がパターンをカットし、FBを入れた部分です。測定結果1はこの対策前の状態です。測定結果2がこの対策後で、ノイズレベルが約5dB程度下がっている事が分かります。10MHz以下では約80dBというダイナミックレンジになりました。ログアンプに誤差がありますので、画面上では80dBですが、実際には78dB程度になります。

写真1 FBの下側に見える、ほんの一部をパターンカットしFB(2t)でつなぎました。左側の同軸がRF-INです。右側のネジはFRMSの固定用です。

測定結果1 前号までの対策を行った時点でのノイズフロアです。

測定結果2 写真2のようにパターンの一部をカットして、2tのFBを入れた時のノイズフロアです。測定結果2に比べて、約5dB下がっている事が分かります。

また前回紹介した、絶縁性のカラーを使う、同軸にFBを使う、等と組み合わせないと効果は無いと思われます。また、ケースのフタを閉めた時にノイズフロアが上昇する現象がありましたが、ほとんど変化は無くなりました。なお、この測定結果1、2は、次項のFRMSの校正を行った後で、入出力間のケーブルを外したものです。

FRMSとしては、ここまでする必要はないでしょうし、しなくても十分な性能を持っていますが、一応気になっていたので試しました。このような改造は自己責任でお願いします。作り方にもよりますので、必ず同じ結果になるという保障はありません。

3.FRMSの校正方法

FRMSの電源をONし、パソコンのソフトを立ち上げた時はTHRU、つまりスルーのモードになっていますので、DDSの出力特性を測っている事になります。20MHz近辺ではレベルがダラダラ下がりますが、FRMSでは絶対値はあまり重要ではありません。

最初に写真2のようにRF-OUTとRF-INを直接接続します。次に測定するものに合わせて周波数を設定します。STARTとSTOPを設定する方法と、CENTERとSPANで設定する方法があります。ソフトのバージョンにもよりますが、M(メガ)やk(キロ)の補助単位も使う事ができます。

写真2 校正をする時には、このようにRF-INとRF-OUTを直結します。

次に校正を行います。まず、MODEのCALをクリックしてキャリブレーションを行います。これだけでは何も変化は現れません。一サイクルの間データを収集するのを待って、NORMをクリックしてノーマライズを行います。すると、REFで指定した位置(上から)にきれいに揃ってきます。これが基準の位置になります。基準の位置は、校正後も上下させる事が可能です。

いよいよ測定になります。INとOUTの間に測定したいものを入れます。先ほどの基準の位置から、どの位下がったを読む事で、どのように通過するか、SパラメータでいうS21を知る事ができます。測定結果3はT型フィルターの例です。このように結果を画面で表示する事ができます。

測定結果3 7MHzのT型フィルターの特性です。基本波で0.4dBのロスがあります。第2高調波は37.9dBの減衰が得られる事が読めます。

4.クリスタルフィルターの測定

FRMSは、0~20MHzが測定範囲ですので、送信機のLPFを測るのには少し低すぎますが、クリスタルフィルターを測るには丁度良い周波数です。最近ではラダー型のクリスタルフィルターを自作する方も増えてきましたので、調整にはもってこいです。一つ注意すべきは、普通クリスタルフィルターは最大レベルが0dBm以下の入力で使用します。それ以上は歪みが増えるだけならまだしも、特性の劣化や破損も考えられます。このレベルについては周波数やフィルタによっても異なってきます。1MHz以下では、-20dBmが最大レベルという場合が多いようです。FRMSの最大出力レベルは+10dBm程度ありますので、十分に注意して測定する必要があります。

クリスタルフィルターのインピーダンスは50Ωではなく、500Ω程度の事が多いようです。このマッチングに注意して測定しなくてはなりません。写真3は可変抵抗をインピーダンスマッチング用ツールとして、BNCコネクタにマウントしています。回路は図1のようになります。抵抗は2k(Bカーブ)を使っていますので、目盛直読とはいかないのですが、リップルの様子を見るには便利なツールです。これをRF-INとRF-OUTで使います。50ΩのFRMSに450Ωをシリースに入れたとすると、クリスタルフィルターのインピーダンスは50+450=500Ωと計算されます。また、この抵抗はレベルを下げますので、この場合は0dBm程度になります。

写真3 2kΩのVRをBNCコネクタ間にマウントしたマッチング用ツールです。

図1 VR(2kΩ)を用いたインピーダンスのマッチング用ツールです。1kΩでも良いと思います。

FRMSの表示レベルを低下させたくない場合もあります。その場合には写真4と5に示す、1:4と1:9のマッチングツールを用います。ある程度インピーダンスの目処がついて450Ω位と確認できたのであれば、可変抵抗を取り外してRF-IN側に1:9を入れます。200Ω位であれば1:4を入れます。この回路を図2と図3に示します。もちろんFRMSが1側でクリスタルフィルター側が×4あるいは×9側となります。これらを用いて図4の接続で写真6のクリスタルフィルターを測定したのが、測定結果4です。このように、写真3~5のようなインピーダンスマッチング用のツールを使って、最良のポイントを探すようにしています。

写真4 1:4のマッチング用ツールです。コイルが動くと線が切れそうですので、ホットボンドで固定しています。

写真5 1:9のマッチング用ツールです。

図2 FB801に4tバイファイラ巻きを用いた1:4のインピーダンスマッチング用ツールの回路です。

図3 見た目は同じですが、FB801に4tトリファイラ巻きの1:9になります。

図4 FRMSでクリスタルフィルターの測定をしている接続です。この前に図1のVRを入れて、RF-IN側を500Ωと判定したので1:9を使っています。RF-OUT側のVRは540Ωででした。500Ω以下に回した場合はクリスタルフィルターの入力レベルのオーバーになりますので、十分に注意して下さい。

写真6 実験用にBNCコネクタにマウントしたクリスタルフィルターです。このようなツール類がジャラジャラと・・。

測定結果4 図4の接続で写真6のクリスタルフィルターを測定したものです。

なお、この場合のインピーダンスマッチは電力のピークではなく、クリスタルフィルターの特性が正しく得られるようにします。規格が解っていれば良いのですが、ジャンクのクリスタルフィルターなどは画面を見ながらインピーダンスを探って最良の値を決めます。これが難しく、なかなか思ったようにピタリとは決められません。

5.アンプの測定

アッテネータを使って基準を低い位置に下げれば、アンプの周波数特性が測定できます。この場合には、入力レベルはもちろんですが、アンプのゲインと出力レベルにも十分に注意して下さい。ログアンプのAD8307が飽和する程度ならまだ良いのですが、焼損しては泣くに泣けません。

写真7のような2SC1906の広帯域アンプの測定をしている様子が写真8です。図5のように入出力にアッテネータを入れてレベルを調整しています。RF-INとRF-OUTを直結して校正した後、レベルを確認しながら入出力のアッテネータを調整したところ、測定結果5のようになりました。入出力にそれぞれ30dBのアッテネータが入っていますので、実際の基準の位置は表示よりも60dB低くなります。従って、このアンプは30dB前後のゲインがある事が分かります。

写真7 2SC1906を使った広帯域アンプです。

写真8 広帯域アンプを図5の接続で測定している様子です。

図5 アンプの測定をする場合には、このように入出力にアッテネータを入れてレベルを調整します。

測定結果5 図5の接続で写真7の広帯域アンプを測定したものです。アッテネータが入っていますので、基準線より下ですが、30dB前後のゲインがあります。

入力インピーダンスはもちろん50Ωとなっていますので、他のインピーダンスの測定をする場合にはマッチングを取る必要があります。

6.おわりに

100万円以上する測定器メーカのスペアナ+トラッキングジェネレータと比べるのは無茶ですが、パソコンを別として、1万円程度でこれだけの性能、機能を作った、上保さん内田さんに敬意を表します。これからは、このようにパソコンで制御して結果をグラフィックで表示して、更にデータを保存するような測定器が増えるのでしょう。パソコン内にデータを蓄積できるのは、とても便利で、今までのようにカメラを使用したり、データをメモで記録する等の手間が不要になります。また、内田さんのホームページには、FRMSの出力するCSVファイルを使って、保存や表示をするソフトも紹介されています。これでデータの整理が更に楽になりそうです。

次回(こそ)は、SWRの測定方法の紹介を行います。