1.はじめに

  今回は、 FRMS を使ったSWRの測定方法について説明します。前回の予定でしたが、今月になってしまいました。

FRMS の作者の上保さんに、SWRの測定について、画面で表せないか問い合わせたところ、あっという間にVer.1.43のソフトをリリースして頂けました。上保さん、ありがとうございます。今回は、この新しいバージョンのソフトを使っての測定を紹介します。このソフトは上保さんのHPで公開されています。内田さんのHPでも、近々に公開される事と思います。

2.FRMSの測定ユーティリティ

FRMS は、SパラメータでいうS21(順方向伝達係数)を測定します。つまり、RF-OUTから出力した信号を、フィルターやアンプを通してRF-INに戻し、比較する事で、どのように増幅あるいは減衰したのかを表します。機能は限定されますが、スカラーのネットワークアナライザとも言えます。

パソコンの画面では3つのユーティリティを選択できるようになっています。周波数を150MHzまで拡張するFREX、反射位置を測定するケプストラム解析が今までのユーティリティでした。そして今回追加されたSWRは、RF-INに戻ってきた信号を、反射量と見なして計算し表示します。SパラメータでいうS11(入力反射係数)を測定する事になります。この3つのユーティリティは同時に選択する事が可能です。

前号で紹介したフィルターやアンプの測定の接続(前号の図4、図5)でも、SWRの指定はできます。しかし、通過した量を反射した量として計算してしまうため、何ら意味を持たないものになってしまいます。この場合は、SWRで表示してもSWRではありません。この点は注意して下さい。

3.方結を用いたSWRの測定

方向性結合器は、方結あるいはDCと言われます。DC=Directional Couplerです。伝送路上には進行波と反射波が重なって定在波を生じます。SWRの元ともいえる、この進行波と反射波を分離して取り出すのが方結です。方結は図1のように2方向同時に取り出せるタイプと、図2のような1方向のみを取り出すタイプとがあります。一例として-12.5dBで取り出すように書いていますが、-75dB程度までの多種があります。

図1 両方向の方結です。IN側から入力する信号の-12.5dBを出力します。

図2 1方向の方結です。IN側から入力する信号の-12.5dBを出力します。

この方結と FRMS を使って、SWRを測定する事ができます。写真1は秋葉原の斎藤電気で購入したR&Kの方結DC-1を、BNCコネクタにマウントしたものです。この方結は図2の1方向のみを取り出しタイプになっています。今でもCQ誌の広告に2100円で出ている、1~500MHzの方結です。左側から上側へ進む信号のみの12.5dB減衰した信号を下側より取り出す事ができます。上側から左側へ進む信号に対しては、出力は出ません。これを伝送路に入れると、送信機からアンテナに向かう進行波と、アンテナから送信機に戻る反射波とを、分離して取り出す事ができるわけです。ピンの接続から、このようにBNCコネクタにマウントしましたが、図2をイメージできるような配置にしたいところです。

写真1 斉藤電気で購入した方結のDC-1を、BNCコネクタにマウントしたものです。

方結とFRMSを図3(写真2も同じです)のように接続し、アンテナは接続せずにオープンにしておきます。また、FRMSの周波数はアンテナの周波数を中心に数100kHz~数MHZにしておきます。アンテナがないので、出力から入った信号は入力から出ますが、全反射して全て入力に戻ります。とりあえず、ユーティリティでSWRは選択していないとします。次に前回で説明したように、FRMSをコマンドで校正をすると、REFで指定した位置に直線に揃います。この位置が基準の点で、0dBとなります。

図3 方結を使ってSWRを測定する接続です。方結の方向は間違っていません。

写真2 FRMSとDC-1を使って、アンテナのリターンロス、SWRの測定をする設定で、図3と同じです。

次に方結にアンテナを接続します。すると、測定結果1のような表示をします。使いたい周波数で基準から下がった値のdBを読みます。マウスでFRMS画面上のカーソルを動かす事ができますので、見たい周波数まで持って行くと便利です。この場合は-20.3dBですので、FRMSが出した信号よりも20.3dB低い信号がアンテナ側から反射波として戻って来た、という事になります。つまり、この下がった値が大きければ大きい程SWRが良いアンテナという事になります。この値をリターンロスと呼びます。

測定結果1 方結を使って、しょぼい7MHzのホイップを測った時のリターンロスです。バンド幅が狭いので100kHzに設定しました。

リターンロスでは馴染みが薄いので、FRMSのユーティリティでSWRを選択すると、SWRを直読する事が可能となります。測定結果2に示すように、SWRは1.203になりました。FRMSでの校正は、SWRにして行っても同様に可能です。このように、FRMSの測定する範囲を、ツールを使う事によって広げる事が可能となります。この測定は市販されているアンテナアナライザと変わりません。このままアンテナチューナを使って調整してみると、測定結果3のように、SWRは1.019となりました。

測定結果2 方結を使った測定で、SWR表示に切り換えたところです。この方が親しみがあると思いますし、解りやすいです。

測定結果3 方結を使って測定しながら、アンテナチューナーで調整後のSWRです。

もし、図1のような進行波と反射波が同時に取り出せる方結が入手できた場合には、図4のように最初からアンテナを接続します。方結の進行波側にFRMSのRF-INを接続して校正を行います。次にRF-INを反射波側に替えた時の表示がリターンロスになります。この場合には進行波と反射波を直接比較する事になります。

図4 両方向の方結を使う場合はこのように接続します。赤線の接続で校正を行い、測定時は黒線の接続にします。

4.リターンロスブリッジを用いたSWRの測定

方結はちょっと高価という方は、リターンロスブリッジ(SWRブリッジとも呼ぶ)を使う方法もあります。図5のような回路で、写真3は私の自作したものです。詳細については、モービルハム誌1996年4月号を参照して下さい。この内部は写真4のようにホットボンドで固めてしまっていますので、面白くありません。写真5は試作段階のもので、配線の様子が解ります。500MHz程度まで使える特性になりました。これを図6のように接続し、まずはアンテナを接続せずにFRMSを校正します。次に写真6のようにアンテナを接続すると測定結果4のようなリターンロスになりました。ユーティリティをSWRにすると測定結果5のようになりました。アンテナチューナで調整したところ、測定結果6のようになりました。

図5 自作したリターンロスブリッジの回路です。

写真3 自作のリターンロスブリッジです。

写真4 リターンロスブリッジの内部ですが、振動防止のためホットボンドで固定していますので、全く見えません。

写真5 試作段階のもの、角型のBNCコネクタ以外は同じです。バランスが乱れないように、左右対称に作ります。

図6 FRMSとリターンロスブリッジで、アンテナの測定をする設定です。

写真6 アンテナの測定をしている様子です。

測定結果4~6は、測定結果1~3と比べて少々誤差がありますが、基本的には方結でもリターンロスブリッジでも同じ結果を得る事ができます。

測定結果4 リターンロスブリッジで測定したリターンロスです。基本的には測定結果1と同じになります。

測定結果5 リターンロスブリッジを使った測定で、SWR表示にしたところです。

測定結果6 リターンロスブリッジを使って測定しながら、アンテナチューナーで調整後のSWRです。

5.SWRの測定精度について

人間の感覚的には、リターンロスよりもSWRの方がマッチしています。指針式のSWRメータの場合には、SWRが1近くになるとほとんど指針に変化が無くなってしまいますが、リターンロスの場合にはSWRが1.1以下でも変化が解るという長所があります。もっとも測定系として、どこまでのリターンロスが信頼できるのか、誤差がどの程度かを考えると、この場合はせいぜい40dB(SWR1.02)程度が限界かと思います。このような場合は、SWRよりもリターンロスの方が、表現しやすくなります。SWRでは掴めない変化も、リターンロスだと見える事もあります。場合によって、使い分ける事で細かい状態を把握する事ができます。高性能のネットワークアナライザなどは、70とか80dB位までキャリブレーションできますが、そこまで低くしてもアマチュア的には意味がないと思います。

6.効害波のため測定できない場合

もし、近所に放送局など、強力な電波を発射するものがある場合には、FRMSの入力に飛び込んでしまいます。測定できないケースや、ある程度以上SWRやリターンロスが下がらないケースもあると考えられます。スペアナとTGを組合わせた場合には、効害波のある周波数のみSWRが異常に悪化して見えるのですが、FRMSでは周波数の選択性がありませんので、直撃を受けてしまいます。このような場合は、効害波と測定する周波数が離れているのであれば、図7のようにFRMSの入力にHPF、LPF、トラップ等を入れる事で、ある程度は防ぐ事ができるはずです。測定周波数と効害波が近接している場合には、どうしようもありませんので、送信していない時間を見計らって測定する他の手段はありません。市販のアンテナアナライザでも、同様の現象を起こす場合があります。あまり関心しませんが、FRMSの出力レベルをアンプを使って上昇させてから方結に入力して測定する、力づくの方法もあります。この場合は、方結の対電力に注意しなくてはなりません。

図7 外来の強力な電波が妨害となって測定できない場合には、効害波を除くフィルターを使います。

7.おわりに

市販のアンテナアナライザは、携帯に便利で屋外での使用には適すると思います。FRMSを使った場合には、パソコンやケーブルなど大掛かりになりますので、屋外では使い難いものです。しかし、固定用と割り切れば、パソコンにデータとして残す事ができるメリットがあります。アンテナの経年変化などの状態を定期的に保存する事で、より良い状態での管理が可能となります。

FRMSは0~20MHzの測定を行うものです。クリスタルフィルタの測定には十分ですが、送信機のフィルタの測定やアンテナの調整など、もっと高い周波数まで使いたくなります。DDSの出力が20MHzまでなので仕方がないのですが、外部に付加して周波数範囲を0~150MHzまでに広げるFREXがありますので、別途紹介しようと思います。この場合でも、もちろん方結やリターンロスブリッジと組合せて使う事ができます。