1.はじめに

私がハムを始めた頃の入門バンドといえば50MHzでした。それもAMが全盛の時代で、まだ自作機で電波を出す人も多かったようです。そのころ、6AQ5シングルなる、今から考えるとちょっと危ない送信機で、細々と電波を出していました。その中で、学校のクラブ局の先輩が持っていたのが「井上電機」のFDAM-3で、後に譲り受けたものが写真1です。ハンディ機とはいえ、単一電池を9本も使っているのですから、最近の感覚とすると恐ろしく大きく重いものです。ロゴもICOMではなくICE使っていたのが見えます。今でもFDAM-3より良いものを自作するのは難しいと思いますが、昔を思い出して写真2のような小型のQRPトランシーバーを作りました。50MHzのAMの世界を思い出すのも面白いと思います。

写真1 FDAM-3です。ダイアル照明用のスイッチが付けられたり、本体を国防色にしたのは高校の先輩です。ロッドアンテナが折れたため、Mコネクタを付けたのは私です。

写真2 小型ケースに入れた自作の50MHzのAMトランシーバーです。

このように直接無線には関係しませんが、周辺回路の実験を行う時に使う、写真1のようなツールです。

2.構成

ハムフェアでは、毎年AMきの人々が会場内でAMの交信をしています。見ているだけではつまらぬと、作ったのがこのトランシーバーです。但し、回路的にも組み立て方にも難点があり、再現性には問題があると云わざるを得ません。

図1に本機のブロックを示します。このように送受信が切り離された、セパレートタイプです。送信と受信の周波数を合わせるのにキャリブレ-トを行ってから電波を出します。この感覚はFDAM-3と全く同じです。FDAM-3はアナログのLC-VFOで、50~54MHzを送信用と受信用の2つのVFOでカバーしていました。今では、50.6MHz付近をカバーできれば十分ですので、送信用と受信用の2つのVXOとしました。

図1 ブロックを示します。

送信側は16.88MHzの水晶を基本波で発振させて、3逓倍します。基本波や×2、×4などの不要波は複同調で減衰させ、2SC1906のファイナルに入れます。出力は約30mWとしていますが、電池の電圧で大きく変わります。変調はコンデンサマイクをLM386で増幅しSD-32を変調トランスにしています。

受信機は普通のスーパーです。高周波増幅、混合の後にFM用のフィルターを入れています。手持ちの関係で15kHz幅の10.7MHz使っていますが、バンド中空いていますので狭過ぎない程度に入れれば十分と思います。ダイオードで検波したあと、AF出力とAGC出力に分岐して使っています。平凡で面白味に欠ける構成となっています。

3.回路

図2に回路を示します。最近ではLA1600のようなICで受信機を作る事が多いのですが、どのような気分か?(覚えていないのですが)、AFのLM386以外は全てトランジスタやFETで組んでいます。

図2 本機の全回路図です。

送受の切替えはトグルスイッチで行っています。普通はリレーとかダイオードスイッチを使うのですが、直接送受の電源とアンテナの切替えを行ってしまいました。少々乱暴ですが、消費電流を少なくする事と、小さいケースに押し込むためです。高周波を切替えますので、実装面での制約は出て来ますが、人力を使うのが一番の省エネです。何しろ電源が006Pですから。

VXOは受信機側も送信機側も、一番再現性に問題のある部分になります。部品が変わると発振周波数も変わります。組み立てを始める前に、発振する周波数を確認しておく必要があるでしょう。

4.作成

ケースはタカチのプラスチックケースFX-120を使いました。大きさはW60×H24×D120しかありませんので、立体的に空中配線を行いました。少々前に作ったため、途中経過の写真を写していません。もう一回り大きいケースの方が楽に入れる事ができます。ハンディという事で、出来る限り小さく押し込みましたので相当細かくなりました。立体的にギリギリですので、何種類かケースを用意して検討するのが良いと思います。

内部は写真3のようになっています。ポリバリコンの裏側に生基板を貼り付けて、ここにコイルを載せて組み立てて行きました。ケースの大きさと部品配置を考えながらの一発勝負になりますので、時間をかけてじっくりと検討します。自分で同じように再度作っても異なる実装になりそうです。あまり真似をしても・・ですので、参考程度にして下さい。

写真3 内部はこのように、立体配線でギチギチに詰め込んでいます。

操作面の実装と、内部の実装を同時に考えながら,ギリギリのスペースを埋めて行きます。作れるユニットより少しずつ作成し、そのたびに思ったような大きさに収まっているか、確かめながら進めます。全体の見通しがある程度決まったところで、プラスチックケースに穴開けをして、また少しずつ作成して組み立てました。コイルの調整は必要になりますので、裏蓋を開けた時に回せるような構造にしておきます。写真4のとおり006Pをどけて、何とか回せる構造ではありますが、調整しやすい状態とは言えません。

写真4 電池を外して、ポリバリコンの上に貼り付けたコイルを調整します。

このケースは006Pを入れるのにピッタリの大きさです。多少は振動しますので、最後に隙間風防止用のスポンジテープを少しだけケースに貼って仕上げます。横から見ても写真5のようにギリギリです。

写真5 横からみると、配線が浮き出るくらいに詰まっています。

AFのLM386は、昔々作った専用基板を使っています。VRの端子に直接基板を付けてしまうという、手抜きができる省スペースの基板です。MH誌の90年8月号を参照して下さい。

5.使用感

私の住む那須塩原市(2005年1月1日に誕生しました)では全く聞こえません。ハムフェアに2年続けて持参し、AM長屋とかQRPクラブで超近距離の交信は行いました。

スプリアスはT型BPFを入れる事で、写真6のようになっています。完全に良いという状態ではありませんが、QRPという事で十分かと思います。

写真6 出力のスプリアスです。十分な特性を得ています。

使った印象は、スペースの都合もあって006Pを使っていますが、電圧が下がった時にキャリブレをとろうとすると、AF段が発振気味になります。お世辞にも音質が良いとはいえません(送受とも)。回路を変えようにも、このような組み方のため簡単ではありません。FDAM-3よりも良いところがあるとすれば、周波数の安定度と小型軽量くらいでしょう。欠点が多いので検討の余地は多々ありますが、久々に50MHzのAMの世界を思い出してしまいました。

6.おわりに

AMは変調の基本です。いきなりSSBやFMの自作は困難ですが、AMなら比較的容易に作る事も可能です。しかし、AMもきれいな変調をかけるのは相当に難しいものです。QRVする局が少ない事は仕方ありませんが、自作を志すのであれば一度はAMにチャレンジしましょう。超近距離の電話ごっこでも、AMのDXでも、何でも良いではありませんか!

完成度の低いトランシーバーの紹介で申し訳ないのですが、自作への多少の刺激となれば良いと思っております。