1.はじめに

自作のために秋葉原の店頭で部品を探していると、掘り出し物が入手できる事があります。もちろん予定外の衝動買いというものです。これは通販にはない楽しみなのですが、最近は少なくなってしまいました。

写真1は数年前に秋月電子で売られていたターミネータです。このような構造をフランジマウントと呼ぶようです。よく見かけるのが2個のネジで固定するタイプですが、これは1個で固定するものです。300円というQRPな値段に釣られ、写真2のように3個も購入してしまいました。写真3が付いていたデータです。このように30Wで4GHzというスペックですので、どう考えても私には充分過ぎるものです。ネットに情報が出たためか、枯渇するのも早かった記憶があります。今から考えるともう2個位入手しておけば・・と考えてしまいます。このように既に入手は不可能なのですが、最近では同じようなターミネータがハムフェア等でも見かけるようになりました。そこで見つけた時に、どうやって使うのかを考えてみました。
 


写真1 このようなフランジマウントタイプのターミネータを入手してしまいました。
 


写真2 300円でしたので3個も購入してしまいました。
 


写真3 添付されていたデータシートです。
 

まず考えられるのが普通のダミーロードです。もちろんそれでも良いのですが、+αのパワー計や30dB位のアッテネータにする事も可能です。最初ですので、取りあえず軽く放熱するだけの、写真4のような3Wのダミーとしてみました。QRP送信機用として、気軽に使えるところが便利です。
 


写真4 このような小型の3Wダミーとしてみました。

2.ダミーについて

このようなターミネータの使用例を探してみましたが、あまり多くありません。まず疑問ですが、超小型なのですが30Wまで使える点です。当然ですが完璧な放熱をせずに30Wで使えるはずがありません。3W程度で済ませてしまうならザックリでも良いかもしれませんが、本来はしっかりとシリコングリスを塗って熱抵抗を下げる必要があります。しかし、シリコングリスは導体ではありません。つまり、高周波的にはグランド側にしっかりと接地する必要がありますが、ネジだけで接地する事になってしまいます。フランジとネジの長さによって距離ができてしまい、高周波的にはまともな接地にならないように思いました。HF帯なら問題はないとしても、これで4GHzまで使えるのかが疑問でした。

そこで、取りあえず試してみる事にしました。まず写真5の状態を作りました。これでは良く解らないのですが、アルミ板の5mm厚の部分に穴をあけてタップを切り、そこにBNCコネクタをネジ止めしています。VHF帯程度であればこれで充分でしょう。これで完璧とは全く思っていませんが、可能な範囲で工作してみました。ターミネータにはシリコングリスを塗ってネジ止めした状態です。No.188のFA-VA5で測ったリターンロスが測定結果1です。低い周波数ではリターンロスが48dB程度取れており、充分といえる性能でしょう。但し、600MHzまでですので、それ以上は解りません。使っている基準用の50Ωとかの精度は保証されていますので、ある程度の信頼性はあると思います。次に、ターミネータとアース間にできるコンデンサがVHF帯やUHF帯に貢献するのかと考え、そっとネジを外してみました。写真5ではターミネータを固定するネジがありますが、この状態からそっと外しています。このバランスは難しいのですが、ネジは無いもののシリコングリスだけでピッタリとアルミ板に付いている状態を作ります。すると測定結果2のように低い周波数では全くNGですが、400MHz以上ではあまり変化がありません。なるほど、低い周波数はネジを介し、高い周波数はコンデンサを介して接地されるようです。しかし、これで正しいのかは私には良く解りません。最近見かけるゲル状のシートでは、厚みができてしまい良くないと思います。ここはシリコングリスを極めて薄く塗るのが良いと思います。もっとも、これが一番基本的な使い方です。ついでですが、最近流行りのnanoVNAでも測定しています。測定結果3がネジを付けた状態になります。測定結果4がネジを外した状態です。多少の相違はありますが、同じような結果です。
 


写真5 このような状態で測定してみました。
 


測定結果1 写真5のような状態で測定したリターンロスです。
 


測定結果2 そのまま取り付け用のネジをそっと外して測定したのが写真6です。
 


測定結果3 写真5の状態をnanoVNAで測ってみました。
 


測定結果4 ネジを外した状態をnanoVNAで測ったものです。


また、このようなフランジマウントタイプを使う場合、上側にシールドを被せると周波数特性が良くなるという説があり、一応試してみました。確かに改善される周波数もあるのですが、悪化する周波数もありました。このようなタイプはマイクロストリップラインで使うものですので、上にシールドを被せるとターミネータ単体でのインピーダンスがずれる事もあると思います。実験の結果としては、使いたい周波数で改善されるのであれば良いのですが・・・。という結果になりました。試し方に問題がある可能性もあります。

このような作り方をして、高周波的な特性を充分に確保しておきます。そして、アルミ板の下に取り付ける放熱器によって3Wでも10Wでも使えるようにと考えました。30Wは最初から考えていませんが、延長線上にはあると思います。

3.作製

 一応これで良いのかという疑問は残るのですが、このような実験結果を基に進める事としました。実際には実験をしながら作っているので前後するのですが、使用したのは写真6のような5mm厚で、40mm×300mmのアルミ板です。これは近くのホームセンターで購入しました。これを40mm×28mmにカットし、右下を3W用で使う事にしました。ちなみに左下は10W用のつもりです。
 


写真6 ホームセンターで調達した5mm厚のアルミ板です。


これにBNCコネクタを写真7のように固定してみました。前述のとおり、5mm厚の幅に穴を開けて2.6mmネジのタップを切っています。ここにBNCコネクタを固定しています。BNCコネクタとアルミ板が一体化できますので、高周波的には問題ないでしょう。なお。BNCコネクタとターミネータとの接続は、無理のない範囲で最短距離になるようにしています。あまり無理をして接続部分の金属に負担がかかってはよくありません。
 


写真7 BNCコネクタを固定し、放熱器に合わせた取り付け穴を開けています。


アルミ板は、写真8のように放熱器側にタップを切ってネジ止めをしています。注意するのは、このネジの位置は放熱器のフィンの谷間を狙う事です。また、アルミ板と放熱器側との間は接触面積が広くなります。このようなところでシリコングリスを使うと接触する面積にムラができてしまいますので、ここではゲル状のシートをカットして使用しました。実はシリコングリスを塗るのが「下手で苦手」という事もあります。このような構造ですので、このまま放熱器を大きくする事も可能です。3Wのつもりですが、放熱器を大きくすれば10Wでも20Wでも大丈夫でしょう。
 


写真8 放熱器側にタップを切ってアルミ板を固定します。


なおターミネータのネジ止めは、必ずアルミ板側にネジのタップを切る必要があります。アルミ板を素通しにしてヒートシンクにタップを切ると、ターミネータとグランド側との接続に問題が生じます。そのためターミネータだけは短めのネジとして、アルミ板にタップを切っています。その効果についての比較はしていません。ターミネータとアルミ板間は熱と同時に高周波的な接続を考えています。アルミ板とヒートシンク間は熱の結合だけを考えています。ネジをガッチリと固定して、写真9のようにして完成となります。
 


写真9 このようにして完成としました。

4.測定

完成してから測定しましたが、測定結果1とほとんど変化ありません。スミスチャートも入れて測定したのが測定結果5になります。この程度は誤差の範囲内でしょう。単位はSWRではなく、リターンロス(dB)を使っています。SWRに馴染みの深い方が多いと思いますが、ダミー等では相違が表し難くなります。アンテナのように特性の良いところと悪いところがあり、トータルとしてそれ程良くない場合にはSWRで表示するのが良いと思います。ところが、SWRがほぼ1に近い場合の比較にはリターンロスが適しています。SWR1.01のようなケースでも、それ以上に良くても相違を明確に表す事ができます。測定は写真10のようにしています。他も同様です。
 


測定結果5 最終的に測ったリターンロスとスミスチャートです。
 


写真10 測定している様子です。


このように、周波数が上がるとリターンロスが減る事が解ります。しかし、600MHzでも28dBですのでSWRにすると1.08です。まあ十分に使用可能な値でしょう。元々のターミネータのスペックは、2GHzまではSWR1.15以下で、2~4GHzはSWR1.25以下となっています。SWR1.15以下とするとリターンロスは23.1dB以上ですので、規格内です。周波数が低くても極端に良い値が出る事もないようで、試しにデジタルテスターで測ると49.7Ωでした。もちろん精度やXの値は別として単純に計算すると、リターンロスは50.4dBになります。測った結果を見ると、全体的に納得できると思います。なお、参考までにSWRとリターンロスの変換表を表1に示します。

5.使用感

3Wを目指したのですが、短時間であれば10Wでも充分に使えそうです。このように小型ツールとして便利なダミーとなりました。

最初は銅板か真鍮板を探したのですが、近くのホームセンターでは入手できませんでした。恐らくアルミ板の方が入手容易なのでしょう。銅板や真鍮板の方が工作は大変ですが、上手に作ると美しく仕上げられると思います。

このようなジャンクを格安に入手できたのですが、発ガン性物質の酸化ベリリウムを使っているようです。そのために安かったのでしょう。取り扱いには充分な注意が必要です。もちろん、廃棄も同様です。