1.はじめに

No.187では、PSN方式のSSBジェネレータをサイテックのキットで作りました。dsPICを使ったもので、明らかにこれまでとは作り方や性能は違っていました。

今回はこれに同じサイテックのミキサーとアンプのキットを付けて、写真1のような7MHzと50MHzの2バンド送信機としました。
 

写真1 7MHzと50MHzのSSB送信機。

2.作製

この作製には2バンドのミキサーである「Mix+VFOユニット」と2バンドのファイナルである「Powerユニット」の2つのキットを使用します。もちろん先にNo.187のdsPSN SSBジェネレータも作っておく事が必要です。写真2が「Mix+VFOユニット」のキットです。写真3が「Powerユニット」のキットです。
 

写真2 Mix+VFOユニットのキットです。
 

写真3 Powerユニットのキットです。

まず順番からすると「Mix+VFOユニット」のキットを先に作り、ファイナルである「Powerユニット」を次に作るのがセオリーでしょう。もちろん必ずという事ではありませんが、調整と確認の流れがあります。

3.Mix+VFOユニットの製作

まず「Mix+VFOユニット」です。最初にコイル巻きから始めます。部品をハンダ付けして、基板の完成した様子が写真4です。ハンダ面が写真5です。ここで取りあえずNo.187のSSBジェネレータと仮配線を行い、動作チェックをしてみました。写真6のようにしてチェックすると、7MHzと50MHzのSSB信号が確認できました。もちろんLCDの表示と周波数が正しく変化する事も確認しておきます。
 

写真4 Mix+VFOユニットのハンダ付けが終わった様子です。
 

写真5 この時点でのMix+VFOユニットのハンダ面です。
 

写真6 このようにSSBジェネレータと仮配線をして動作確認を行いました。


この時点でのトラブルです。7MHzの出力は簡単に出たのですが、50MHzでは出ませんでした。BPFのコイル(L2,L4)を8T→7Tとし、更にC17とC18の22pFを外してみると調整ができました。7MHzよりも出力が出るようになってしまいました。このコイルをLメータで測ってみると、8Tでは0.191μH、7Tでは0.170μHでした。計算上では0.15μHと思いますので、6Tでも良いのかもしれないと試したのですが、これはインダクタンスが下がり過ぎたようでNGでした。このあたりはトロイダルコアの個体差もあって難しいところなのでしょう。動作が良好であれば仮配線のままとして、そっと横に置いておきます。時系列的にはこのとおりなのですが、まとめた時に後述のトラブルもありました。

4. Powerユニットの製作

次に「Powerユニット」を組み立てます。基板が完成した様子が写真7です。このハンダ面が写真8になります。
 

写真7 Powerユニットのハンダ付けが終わった様子です。
 

写真8 この時点でのPowerユニットのハンダ面です。
 

そして3枚の基板を仮配線してテストするのですが、ここではファイナルに電流が流れますので、過電流やダミーの有無等々に注意が必要です。そして写真9のようにしてトータルでのテストを行いました。右端にはNo.191の3Wダミーが使われています。これで問題がない事を確認しました。もちろん細かいところまでは無理で、7MHzと50MHzでのざっとした動作チェックになります。ここは簡単に通過しました。再度ですが仮配線のまま、そっと横に置いておきます。ところが簡単なチェックで済ませていたため、後々悩む事になりました。
 

写真9 全ユニットを接続して動作確認を行いました。

5.ケースの加工

次にケースに入れる事を考えました。ファイナルの放熱器は2段重ねにしますので、ある程度の高さが必要になります。こんな事を考えて、手持ちのケースを探しました。その結果、高さの低いタカチ電機工業のYM-250を使うことにしました。キット的には放熱器を2段にして、熱的に結合させるようになっています。なるべくキット通りに作るようにはしているのですが、どうしてもケースの高さが必要になってしまいます。ケース内のレイアウトを考えてみたところ、これが難しくてシックリしません。そこで、放熱に工夫を加える事にしました。写真10がケースの穴あけをした様子です。リアパネル側から見たところです。各基板はケースにピッタリと入るように生基板をカットし、この上に乗せる構造にしました。仮配線を本配線に切り替え、動作の再確認を写真11のように行いました。
 

写真10 YM-250の穴あけをしたところです。
 

写真11 生基板上に基板を固定し、仮配線を本配線に切り替えようとしている様子です。

この生基板を両面テープでケース内に固定し、スイッチやコネクタの配線をしているところが写真12です。2段の放熱器は1段だけとして、写真13のように外部から空気が入る構造です。ケース内から見ると、写真14のように、放熱器とケース間をクールスタッフで接続しました。もちろん、これはケースを決めた時から考えていた構造です。基板は写真15のように固定しました。ケースの底にはネジ穴がない構造にしています。
 

写真12 生基板をケース内に固定し配線をしている様子です。
 

写真13 放熱器はこのように外部から空気が入るようにしています。
 

写真14 ケース間はクールスタッフで熱結合しています。
 

写真15 基板はこのようにカラーで固定し、カラーは生基板にハンダ付けで固定しています。

6.トラブル

途中で失敗したと気が付いたのがLCDの配線です。LCDはI2Cですので少ない配線で済みます。このための小型のアダプタ基板を写真16のように付けるようになっていました。そのとおりに作ったのですが、ケースに入れることを考えた時に下側が接触して入らないことに気が付きました。これは高さの低いケースにしたためです。そこで苦肉の策として、写真17のようにLCDと小型基板間をワイヤー付きコネクタでつなぐことになってしまいました。振動でショートしないように絶縁テープを巻いています。この小型基板は上下反対でも使えるはずですので、大失敗でした。
 

写真16 LCDには、このように小型のアダプタ基板を付ける予定でした。
 

写真17 LCDのアダプタ基板がケースに収まらず、仕方なくワイヤー付きのコネクタで中継しました。
 

ケースに入れてまとめる段階で、別の問題に気が付きました。まず、コンデンサマイク用の電源が来ていないことです。これはマイクの使い方なのですが、写真18のように3.3kΩを取り付けることで解決しました。回路的には図1の位置に抵抗を入れる事になります。CPUからのノイズの問題がありますので基板の位置的には良いのですが、回路的に少々問題があると思います。次に、7MHzと50MHzでの出力メータの振れに差がありました。ある程度の差は仕方ないのですが、あり過ぎる位にありました。検波にシリコンダイオード(D11)を使っている点と直流の帰路に抵抗を使っている点に着目し、ここにショットキーダイオードの1SS154を使うことにしました。D11とR11の10kΩの交換で、図2のようにしましたが多少改善できた程度です。チップ部品ですので、写真19のように締まりのない付け方になってしまいました。これでは基板裏の方が良かったと思います。
 

写真18 コンデンサマイク用の電源に、この位置に3.3kΩを取り付けました。
 

図1 この位置に3.3kΩを追加しました。
 

図2 出力メータの回路はこのようにしました。
 

写真19 検波用のダイオードを交換したのですが、このように汚くなってしまいました。


また、スタンバイ回路が電源を直接切り替えるようになっており、マイクのPTTが使えません。そこで、マイクコネクタは使用せず、イヤホンジャックにしました。切り替えもトグルスイッチにしています。ここはリレーの追加で何とでもする事ができます。

基板間の配線が終われば動作確認です。7MHzは問題ないのですが、50MHzにすると不安定で45MHz付近で発振をしてしまいました。バラックでは全く出なかった現象です。そこで俗称パッチンコアを使って試してみると、VFOの外部入力コネクタが帰還の通路と解りました。このコネクタはバラック時には使っていませんでしたが、これが落とし穴でした。そこで写真20のようにフェライトビーズをたくさん入れることで解決しました。この他のBNCコネクタの同軸にもフェライトビーズを入れています。恐らくBNCコネクタのアース側を回り込んでくる、コモンモードと思います。簡単に防ぐためのフェライトビーズですが、昔々に1000個を格安で仕入れたものを使いました。これで安定して出力するようになりましたが、このようなトラブルはケースに入れるまで予想ができません。私の場合は生基板上に固定していますので、基板のアース側はケースには直接接続されていません。直接カラーでケースにネジ止めした場合と信号の帰路が異なります。そのような意味で、入出力でケースにアースされる構造の同軸ケーブルには全てフェライトビーズを入れた方が安定すると思います。
 

写真20 このようにフェライトビーズをたくさん入れてみました。

7.測定結果

最終的な測定を行ったところ、50MHzでのスプリアスが少し目立ちました。ここで少々後戻りをしました。POWERユニットの出力としては2W以上出ることになっています。しかし、1Wと2Wでは3dBの差しかないのですが、設備規則のスプリアス規定では桁違いの差があります。特に50MHz以上では、その傾向が更に強くなります。私の意見としては、このような自作機は1W以下にするのが良いと思います。そこで、写真21のようにBPFの出力に18Ωの抵抗を入れて出力を制限にすることにしました。2バンド共に18Ωが入ることになります。
 

写真21 50MHzのBPF出力には18Ωを入れて、出力を1W以下に制限してみました。


個別のスプリアスについてですが、9MHzを41MHzとMixして50MHzを作る時に発生するものがありました。BPFは50MHzには合ったのですが、41MHzの漏れが下がりません。まずはBPF切り替え用リレーの配線間にフェライトビーズとコンデンサ、NFも入れました。このNFは写真21の上側に写っています。しかし多少改善された程度でした。仕方なくPowerユニットの入力に写真22のようなトラップを付けました。図3のような回路で41MHzを落とします。もちろん調整は必須になります。次に32MHz付近にあるスプリアスが目立つようになりました。ここも写真23のようにBPFの出口、つまりR15とパラに図4のようにトラップを入れて下げました。
 

写真22 Powerユニットの入力に追加した41MHzのトラップです。
 

図3 41MHzのトラップ回路です。
 

写真23 BPFの出口に追加した32MHzのトラップです。
 

図4 32MHzのトラップ回路です。
 

このように苦労しましたが、7MHzは出力が2Wですので、スプリアスは50μW以下が必要となります。計算すると差が46dB以上であれば良い事になります。測定結果1のように50dBありますのでクリアです。50MHzについては出力を1W以下とすると、スプリアスは100μW以下になります。差が40dB以下であれば良い事になります。測定結果2のように50dB程度ですのでクリアです。なお帯域外についてはdsPICの出すサンプリングの漏れがありますが、ギリギリですがクリアのようです。また、占有周波数帯幅を測ってみると2599Hzでした。見事に3kHz以内に入っています。
 

測定結果1 7MHzのスプリアスです。
 

測定結果2 50MHzのスプリアスです。
8.感想

作業量としては結構な量になったと思います。写真1のように、ちょっとシャレた感じの送信機になりました。ここまで作れば、専用のペアとなる受信機を作りたくなります。