1. はじめに

ガルバニックアイソレータは、受信機とアンテナの間に入れてコモンモードのノイズを抑える役目をします。パソコンを使うSDRや、ダイレクトコンバージョン受信機にはちょうど良いのかもしれません。実はこの名称を知らなかったのですが、No.61のダイレクトコンバージョン受信機の内部で、このガルバニックアイソレータとバランタイプを比べていました。ダイレクトコンバージョン受信機には、AC100Vからのコモンモードにも有効と思います。中波放送の回り込みにも使えるかもしれませんが、試す環境にありません。

このようなツールは、何時でも使えるように常備しておくと便利です。そこで写真1のように作ってみました。作り方とコイルを変えて写真2のタイプも作ってみました。これで何かの時には素早く使う事ができます。効果が確認できれば、受信機等の内部で使うように設計する事もできます。ネットで探すと3~4k円程度で購入できるようですが、自作してみるのも良いかと思います。

 
写真1  このようにアルミのケースに入れたガルバニックアイソレータです。
 

 
写真2  樹脂のカラーを使って入出力を分離したバージョン。

2. 回路

ガルバニックアイソレータは図1のような回路で、普通はアンテナ側にコンデンサを入れます。アース側はコイルによって意識的に分離されています。コイルによってインピーダンス変換をする目的はないので、巻数比は1:1になります。もちろん、50Ω:75Ω等の変換を同時に行う必要があっても対応できます。このように巻くと、通過して欲しい信号はコイルを最小限のロスで通過させる事ができます。通過して欲しくないコモンモードの信号は芯線と外皮に同時に乗りますので、打ち消す方向となります。入出力のアース間は絶縁されていますので、アース側を回り込むノイズは阻止されます。もちろん、そのノイズの状況によりますから、何時でもどこでも効果があるという事ではありません。これは試してみないと解りません。逆にノイズが増える事もあるかもしれませんが、その時には入れるのを止めるだけです。0.01μFのコンデンサはアンテナ側に流れるDCをカットしますが、無くても良い場合もあると思います。これをショートして比較する実験も面白いでしょう。要はターゲットにするようなノイズがあるのであれば、何が効くのか効かないのかを実験して回路を決めるのが一番良いと思います。

 
図1  このような簡単な回路になります。


回路的には同じなのですが、コイルは3種類を比べてみました。まず写真3左側のFB801は説明するまでもないのでしょう。写真3右側のノイズフィルタは、ハムフェアで1袋100個入りを格安で入手したものです。詳しい特性や型番は不明ですが、今までバイファイラ巻きの代わりに便利に使用しています。写真4はミニサーキットのT1-1Tです。巻き数比は1:1で、50kHz~200MHzで使用できるというもので、AD9851のDDS出力用に購入したものと思います。このようなコイルを試してみました。

 
写真3  左側がFB801で、右側がノイズフィルタです。
 

 
写真4  ミニサーキット社のT1-1Tです。

3. 作成

今回は、タカチ電機工業のMB4-3-5という型番の小型ケースを使ってみました。写真5のような超小型のケースです。「BNCコネクタを両側に付けるようなYMシリーズが欲しい」とメールでメーカにリクエストしたところ、このケースの紹介がありました。本当はYMシリーズに欲しいサイズと思っていたのですが、取りあえずはこれで充分です。他にもアッテネータとかLPFのケースに使用できそうです。MBシリーズにこのサイズがあるのは知りませんでした。第一波のコロナ禍の時期で、部品の調達に東京まで行き難い状況でした。そこで通販を探したのですが、電子部品を取り扱っている店では見つかりませんでした。あまり売れ筋ではないようです。結局はモノタロウの通販で購入しました。

このケースに穴あけをしたところが写真6です。注意しなくてはならないのが、片方のコネクタはケースと絶縁しなくてはなりません。一般的にはアンテナ側に絶縁用のコネクタを使用するようですが、逆でも構わないと思います。要は、入出力のグランドが絶縁されていれば良いはずです。BNCコネクタのプラグとジャックを使うとと、絶縁タイプのプラグが一番入手しやすいため、アンテナ側が絶縁タイプになるのでしょう。絶縁用のテープ等でコネクタをケースから浮かせ、ネジに樹脂製を使う方法もあるかと思います。しかし、絶縁テープを挟んで小容量のキャパシタンスが作られてしまいます。ノイズの周波数にもよるのでしょうが、あまり上手い方法ではないのでしょう。

 
写真5  タカチ電機工業のMB4-3-5を使ってみました。
 

 
写真6  ケースに穴あけをした様子です。


まず、一番簡単で安価な方法として、FB801に5T:5Tで巻いてみました。この場合バランスは関係ありませんので、特にバイファイラ巻きにはしていません。もちろんバイファイラ巻きにしても問題ありません。内部は写真7になります。コンデンサは普通のセラミックを使っています。コンデンサ単体ではチップの方が良いのですが、ワイヤーにハンダ付けするような作り方になります。これでは距離が作られてしまい、チップを使うメリットはあまり無いと思います。普通のセラミックを使用しました。

 
写真7  FB801を使ったバージョンです。
 

特性を測定した後でコイルを交換し、MCLのT1-1Tに交換したところが写真8です。このようにして、コイルでの比較もしてみました。

 
写真8  ミニサーキットのT1-1Tに変更したところです。
 

わざわざアルミのケースに入れる事もないと考え、写真9のようにBNCコネクタのプラグとジャックを、樹脂製のカラー4本で接続して作ってみました。このカラーは写真のために外しています。ここではコイルにノイズフィルタを使っています。この方が穴あけをしなくて済みますので、工作は簡単です。これも安価なBNCコネクタで済ませていますが、高級品の方が良いのは言うまでもありません。

 
写真9  樹脂製のカラーで組立てたところです。

4. 測定

一番簡単に測れるのは通過ロスです。0~1MHzと0~100MHzをそれぞれ測ってみました。これは効果ではなく、どの程度のロスで通過するかの確認になります。FB801を測ったのが測定結果1,2です。20MHz以上でダラダラと下がり、60MHzにはトラップが入ったように下がっています。ノイズフィルタを樹脂製のカラーで組んで作ったのを測ったのが測定結果3,4です。FB801を、MCLのT1-1Tに入れ替えて測定したのが測定結果5,6です。HF帯のローバンドが主な目的ですので、どれも十分な特性なのでしょう。

この効果を上手に測定する方法が良く解りません。従って効果を数値で表す事ができません。

 
測定結果1  FB801を使った0~1MHzの通過特性です。

 
測定結果2  FB801を使った0~100MHzの通過特性です。


測定結果3  ノイズフィルタを使った0~1MHzの通過特性です。
 


測定結果4  ノイズフィルタを使った0~100MHzの通過特性です。
 


測定結果5  T1-1Tを使った0~1MHzの通過特性です。
 


測定結果6  T1-1Tを使った0~100MHzの通過特性です。

5. 使用感

ガルバニック(galvanic)というのは、化学的な微細電流や襲撃的な電流を指すようです。このような電気的なツールとしては、絶縁をして余計な電流を防ぐという事なのでしょう。

これで実験の途中に、さっと取り出して効果を確認する事ができます。効率の良い作業ができる事に期待をしています。そのような意味では、使用頻度の無い方が順調なのでしょう。今後の実験に期待です。実際にNo.1の7MHz DC受信機で試してみました。劇的とは言えませんが、それなりの効果はありそうです。もちろんアンテナによっても状況は大きく変わると思います。これは乾電池を使った受信機でしたが、AC100VからのループによるDC受信機のノイズの実験が抜けてしまいました。

IC-7300Sでも試してみました。我が家は「ポツンと一軒家」ではありませんが、それなりの田舎ですのでノイズは少ない方です。それでも効果の目立つ周波数を探してみると、図2のように信号が妙に消える周波数がありました。これは何のノイズなのか不明です。ウォーターフォールの下側がガルバニックアイソレータ無しで、上側が有りです。コイルの種類に関係なく効果がありました。方向を逆にしても同じでした。手荒れの季節ですので、このような実験を行い過ぎるとコネクタ荒れが加わってしまいます。ほどほどで止めました。

応用ですがHPFを同時に入れる事で、TVIの防止用フィルタにする事もできます。アースを切るので、コモンモードの対策を同時に行う事ができます。HPFは平衡に作れますので、効果がありそうです。まあ今はデジタル放送ですので、使う事も無いかと思います。

 
図2  IC-7300Sで効果のある周波数を探して比べたところです。ウオーターフォール下側が本機無しで、上側が有りです。