エレクトロニクス工作室
No.205 手動パルス送信機
1. はじめに
このようなものを作るのは、必ずキッカケがあります。今使っているSGは写真1のような自作で、CQ誌の2005年6~9月号の連載記事にもなっています。しかし、これには欠点があり、AD9851を少々無理に使っているため、50MHz帯では出力レベルが下がります。基準が180MHzですので仕方ありません。そこで最新のAD9959で自作しようと考えました。基準周波数が500MHzと高く使えますので、150MHz程度は楽に出力できそうです。
まず中国製のユニットを入手し、動作テストを始めました。しかし頑として動きません。そこで最後の手段としてデータを手入力する事にしました。この作業はブレッドボードを用いて写真2のように行いました。この方が早く設定変更を試す事ができます。そして、思いもよらないミスを見つけて発振するようになりました。
そのAD9959のSGについては、次々回での紹介を考えています。その前に作製した、写真3の手動パルス送信機を紹介します。
2. 回路
最近のICは、シリースにデータを入れる場合が多くなりました。データシートに図1のようなタイムチャートが書かれています。データ投入のタイミングです。これは早過ぎるタイミングを禁止するもので、そのために「最小値3ns」のように決められています。しかし遅いタイミングについては問題なく、3nsどころか3sでも30sでも一向に構いません。最大値は決められてはいないのが普通です。従って、H/Lのデータ設定を手動のスイッチでパチパチと行い、手動でクロックを送って・・・を繰り返してもICは動きます。
ここで問題になるのがクロックです。ここに普通のスイッチを直結してしまうと、接点のチャタリングによって何個のデータが設定されるか解りません。クロックはICによって異なりますが、立ち上がりを使う場合と立ち下りを使う場合があります。いずれにしても、チャタリングのないパルスが必要です。
このように、手動のクロックパルスを74HC123Aで作りました。これならパルスが1個しか出ませんので安心です。しかし、パルスの長さ以上に押していると、一回押しただけで2個以上のパルスが出る事があります。長すぎると使い難くなります。そのため470ms程度になるように定数を決めました。10μF×470kΩで計算されますので、470msになるはずです。実測したところ500msでした。まあオシロで測った程度ですので、誤差が多く良く解りません。タイミングは好みにもよると思います。このパルスが出ているタイミングを認識しないと使い難いので、LEDで表示しました。なお、パルスは立ち上がりと立ち下がりの両方を出力しています。普通にデータを設定して押下した場合、どちらでも使える事になります。しかし、立ち上がりを待つICでは立ち上がりを、立ち下がりを待つICでは立ち下がりを選択する方が作業としては早くなります。このような場合のパルスの作り方は他にもありますが、手持ちのICをざっと見て74HC123Aを使う事にしました。
データの設定には、8ビットのDIPスイッチを使っています。これは4ビットもあれば充分かと思います。しかし、昔々に沢山作った秋月電子のDDSキットに入っていたDIPスイッチが多量に残っているため、8ビットになりました。それ以上の理由はありません。
電源はACアダプタと、ジャンパーピンからの入力が使えるようにしました。ターゲットであるAD9959のボードは5V入力ですが、ここから3.3Vが取り出せません。AD9959は3.3Vで動かしますので、データも3.3Vで送出する必要があります。規格としては4V以下となっています。そんな事情もあって、電源はどちらでも使えるようにしました。もちろん両方を同時に入力するとまずい事になります。
3.3VのACアダプタは、2年前の北海道ハムフェアで入手した写真4がありましたので、これを使う事にしました。もちろん、ターゲットが5Vであれば5Vで良いのですが、3.3VのACアダプタが使えると便利です。5Vの回路でも、H/Lとしては充分に使えるからです。しかし、このような低い電圧を使う時代なのだと感心します。
このように考え、図2のような回路としました。74HC123Aには2回路入っていますので、そのまま2回路使いましたが、クロックとしては1回路で充分です。
3. 製作
まず3.3VのACアダプタは、写真5のように2.1mmφにプラグを交換しました。普通に使っていたものと直径が異なっていたためです。赤印は2.1mmφのマークで、他に意味はありません。同じように使っている緑色の2.5mmφと区別をするためです。
秋月電子のC基板を使い、図3のように実装図を作りました。ハンダ面が図4になります。ジャンパーが図5になります。特に注意するような部分もありませんので、数時間程度で完成すると思います。写真6のように完成させました。ハンダ面が写真7になります。ICを入れる前にテスターで導通と地絡の確認を行います。問題が無ければICを入れずに電源を入れ、電圧が正常である事を確認します。そしてICを入れて動作確認をします。とりあえずはLEDの点灯でしょう。そしてターゲットを動かすテストになります。
基板の下側には写真8のようにアクリル板をネジ止めしています。この方がしっかり固定されて、扱いやすくなります。更に、写真9のように出力するパルス波形をWIN10のペイントで作り、PC制御のテプラで印刷しています。
4. 使用感
20年前にはAD9851を使ったDDSでも散々苦労しました。当時は写真10のようなサンハヤトのICトレーナーを使ってパルスを作り、何とか動作させた事を思い出しました。これが写真11のようにスマートに試す事ができます。これは実際にAD9959を動かしているところです。逆に言えば、「新しいICを試す際には、こんな冶具を作りたくなる程に苦労する」となるのでしょう。もちろんDDSだけではなく、他のICにも使用できると思います。
「超」が付くほどに地味ですが、新しいICの実験スタート時には便利な冶具と思います。もちろん、その後はCPUを使ってソフトで動かすようにしています。